第5話 トレーニングカードゲームの真髄! それは、進化!!
トレーニングカードゲームの、トレーニングの部分をやってみようと言われ、僕はみふだちゃんとダンジョンの中を歩いていた。
トレーニングカードゲームというのは、つまりモンスターとトレーニングするという事なのだろうか。
そうだとすると、ゲームにしては探索者に探索者としてのスキルが求められすぎている気がする。
「そもそも、トレーニングって、どう、何をやるの?」
「ざっくりわかりやすく言うと、レベルアップと進化かな」
「レベルアップ! 進化!」
さらっと言ったみふだちゃんの言葉に思わず声が大きくなってしまった。
ただ、レベルアップに進化とな?
ワクワクしない訳がない。モンスターを育てて進化させるというのが、ゲームのシステムとして重要、という意味だったとは、僕の考えも浅はかだった。
「やっぱり、歴ちゃん的には進化を見てみたい?」
「見てみたいよ。まだゲームについて全然知らないんだから、一番盛り上がるところを知って、モチベーションを上げたいもん」
「たしかに、人によっては、ここが一番好きってところだからね」
好きなポイントは人それぞれだろうが、やはり、かなりの集客ポイントらしい。
頂点を目指すかどうかは別としても見逃す訳にはいかないというものだ。
「進化って事は、さっきのスライムに重ねるようなモンスターを探してるって事なんだね。となると、結構奥まで進まないといけないのかな?」
「ううん。違うよ」
「ち、違うの?」
あっさり否定されてしまった。
進化というと、カードを重ねるというイメージが強かったのだけど、ダンカではそうではないみたいだ。
となると、カードの裏とか、カードに何か仕込まれているとかだろうか?
ただ、名前だったり、ステータスみたいなものだったりが書かれているものの、進化については書かれてなさそうだ。色々と触ってみても、進化を表すような事は見つけられない。
「今回はモンスターについてだから、目の付け所はさすがなんだけどね」
「でも、何もわからないよ?」
「カードには書かれていないんだよ。どういう事か知るためにも、まずは召喚してみようか」
「ゲームも始まってないのに?」
「そりゃ当然。ゲームのために進化するんだから」
なんだか会話が噛み合わなくなってきた気がするが、ひとまず、先輩の言うとおりにしておく。
「えっと、スライム。召喚!」
僕は、ノリと勢いでカードを突き出した。すると、カードから、封印されていたスライムが飛び出してきた。
「教える前にできちゃうなんて! やっぱりダンカの才能にあふれてるね!」
「たまたまだけど、ありがとう」
「封印はできても、召喚でつまづく人は多いんだよ。スキルとは勝手が違うからね」
「なるほど」
カードは自分のスキルで生み出したものでもないからな。
パンチと剣での攻撃が違う感じだろう。
さて、出てきたスライムに目をやると、攻撃の意思はなさそうで、なんならとてもおとなしい。
おそらく、テイムしたモンスターのように、従ってくれるという事なのだろう。
召喚して戦うのだとしたら、攻撃指示に従ってくれないと困るしな。
しかしこれ、やっぱりとんでもないアイテムなのでは?
「よくよく考えると、みふだちゃんはこんなすごいアイテムを落としちゃったの? そういえば、あの時何してたの?」
「歴ちゃんは落とさないように気をつけてね」
「わ、わかった……」
落としちゃダメらしい。
かなり鋭く言われてしまった。
みふだちゃんとしても気にしていた事だったのか、雰囲気が暗くなってしまった。思わず背筋が伸びる。
「先輩。あの……」
「それじゃあ切り替えていこう! まずはバトルフェイズ! あそこのゴブリンに攻撃してみて」
「え? いきなり? プレイヤーのモンスターって事?」
「ダンジョンのモンスターだよ?」
どういう指示かわからないけど、モンスターバトルって事だろうか。
引きずらないと決めたっぽいみふだちゃんに習い、僕も切り替えて戦闘へと移る事にしよう。
「スライム。ゴブリンに体当たり攻撃!」
「……!」
声は発さないが、スライムは僕の指示通り、ゴブリンに向かって強めに激突した。
「ギッ」
ゴブリンは、スライムからの思わぬ攻撃にひるんだ様子だ。
「いいぞ、スライム。続けて体当たり!」
「……!!」
「ギィ……」
再度ゴブリンへの攻撃。
いいところに当たったらしく、ゴブリンは仰向けに倒れ込んでダンジョンへと吸収された。
「おお」
これはなんか、別のゲームをしている気分だ。
「ナイスタクティクスだね! 的確な攻撃指示だったよ」
「そうかな?」
「ゴブリン相手に攻撃させないで勝つなんて、なかなかできるものじゃないよ!」
「ありがとう」
普通に嬉しい。
実力者の人から褒められるってこんな感じなのかな?
探索者試験の前から色々ダメ出しされてきただけに心が癒される。
が、調子に乗ったのも束の間、増援が来てしまった。
今度は相手の数的にスライムでは難しいだろう。
「僕の攻撃!」
ゴブリンを一閃!
モンスターを戦わせていると僕も探索者だと忘れそうになるが、本来僕が戦うのだ。
「戦闘終了。お疲れ様!」
ゴブリンを倒し終わると、みふだちゃんはスライムを両手で抱えてやってきてくれた。
なんだか、スライムの色が変わっているように見える。
「これ、同じスライム?」
「これって物みたいに言っちゃかわいそうだよ。せっかく初戦闘で進化したんだから」
「ごめん……、え? 今なんて?」
「物みたいに言っちゃかわいそう?」
「その後」
「初戦闘で進化」
「それだ!」
キョトンとした様子のみふだちゃんをよそに、僕は慌ててスライムをカードに戻した。
先ほどベタベタとカードを触った時に、種族名のようなものもカードに書かれていたのを見た。
確認してみると、スライムの種族が、ただのスライムからボブスライムに変わっている。発見者:ボブ、となっているから、かなり細かい情報まで記載されているんだな。
「ランクがGマイナスからGに上がってる! 本当に進化したって事?」
「そういう事! スライムは成長しやすいからね。格上のゴブリン相手に勝ったから、かなり成長したんだと思うよ」
僕以上に満足げなみふだちゃんを見ると、これがそこそこの収穫だという事がわかる。
やっぱりこのゲーム、探索者のフィジカル依存すぎではないか?
「トレーニングするのは、モンスターをって事なんだ」
「そう。モンスターを鍛えるのが好きな人は、対戦しないでこの部分ばっかりやってる人もいるくらい。だから、対戦勢の友だちが欲しくって」
「なるほど。コレクターではないけど、育成が大好き、みたいな人もいると……」
「そうそう。まさにそんな感じ」
困ったゲームだよ。
そしてこの戦闘をしてみた感じ、気持ちがわからないではない。
めざせ、モンスターマスター! みたいな、魔物使いルートも検討したくなる。
「さてと、進化もわかってきたところで、もう少し奥まで行ってみようか!」
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