第4話 そもそも、ダンカってなんだろう?
装備ももらって、僕らは再びプライベートダンジョンへとやってきていた。
無免許で本格的もないと思うのだけど、なんだか後戻りできない世界に入ってしまった気がする。
「それじゃあ、早速探索していこうか」
「本当に早速だけど、どうするの?」
探索と言われても何をすればいいのか、詳しくは知らなかったりする。
モンスターを倒して、素材を集めて、活躍を重ねて、探索者としてのランクを上げるというのが、僕の探索者のイメージだ。
だが、今の僕はランクがないし、みふだちゃんのプライベートダンジョンにどんなモンスターがいるのかも把握していない。
「とにかくモンスターを狩るところから始めようか。最初から色々と意識するのは大変だからね。あいだあいだで、ダンカについての知識を深めてくれれば大丈夫だよ」
「わか……、え?」
「あ、ほら、スライムが出たよ。今回は戦ってみよう!」
気になる事を言っていた気もするが、僕は意識を切り替える事にする。現れたスライムに向かって駆け出した。
借り物の剣で一体、二体と連続で倒していく。
うん、順調順調。
「すごいすごい。覚醒した潜在の能力はお胸だけじゃないんだね!」
「やっぱり気にして……」
地雷かもしれないので、僕はみふだちゃんから視線を外して、新たに湧いて出てきたスライムに向かった。
ところで、ひらひらと揺れるドレスの裾の感覚に心も揺れる。
バトルドレスとでも呼べばいいのか、比較的動きやすいドレスを装備していると思う。
だが、よくよく考えると、問題は装備自体じゃなくてシチュエーションのような気がしてきた。今日がほぼ初絡みのクラスメイトと同じ装備で探索してるって、かなり恥ずかしい事をしているのではないだろうか。
そう思い出すと、外気が肌に触れる感覚から防御力を疑い始めてしまう。
こんな状態で探索というのは、いかがなものだろうか。
「どうしたの? 急にもじもじして……」
「いや、だって……」
「はっ!」
何かに気づいてくれたのか、みふだちゃんは素早い動きで隣までやって来ると、僕の肩に手を乗せてきた。
「そういう趣味はもう少し探索に慣れてからにした方がいいと思うよ」
そして、諭すように言ってくる。
「いや、なんの事かわからないけど、絶対に違う」
「違うの?」
「ここは強めに否定しないといけないところだと思うから言うけど、絶対に違う」
おかしな勘違いをされてしまっては困る。
「あの。装備って変えられない?」
「さっき納得してくれたじゃん」
「やっぱり、恥ずかしくって」
先ほど、着せられた時には流されてしまったが、いざモンスターを前にすると、気持ちが変わってしまう。
「大丈夫だよ。歴ちゃんかわいいもん」
呑気に言うみふだちゃん。
同じ装備のはずなのに、どうしてこうも反応が違うのだろう。
「かわいいのって別に探索において関係ないよね?」
「あるよ! 気分とスキルは密接に関係してるんだから。かわいい格好できてる方が、気分が上がって探索もうまくいくものだよ!」
熱弁されてしまった。
たしかに、みふだちゃんの方は、同じ装備を着ていても特に恥ずかしがっている様子はない。
「でも、そんなエビデンスもなさそうな事を言われても」
「あるんだなー。これが」
「嘘だあ!」
「本当だよ。海外の方がこの辺のデータ収集は熱心だからね。日本で話題になってないだけだよ」
ファンタジーも科学で攻略するってのは人間らしいけど……、どの世界にも優秀な科学者ってのがいるってことか?
本当に本当なのかな……?
「そんな事、僕は習わなかったけど……」
「そりゃ、探索者になるための試験と、なってから生きていくための知識じゃ、必要になってくるものは違うからね」
「たしかに……」
どうやら今の僕にみふだちゃんを説き伏せる情報はなさそうだ。
なんだか納得してしまった。
そもそも僕が乗ったのだし、今さら変えるのも失礼だろう。
かわいい格好がスキルの効果にも影響していると言うのだから仕方ない。そう仕方がないのだ。
「試験で思い出した。今さらだけど、明日から牢屋の中って事はないよね?」
「本当に今さらだね」
楽しげに笑うみふだちゃんを見ると、なんだか落ち着かない気分になる。
「大丈夫だよ。一般には知られてないけど、プライベートダンジョンでスキルに覚醒して、仮免から探索者になる人って、最近じゃ増えてきてるんだよ」
「一般には知られてないそんな事をなんで知ってるのさ」
「そりゃ、家にダンジョンがあるんだし、これくらいたしなみだよ」
「たしなみ……」
恐ろしいたしなみもあったものだ。
と言っても、実際に家にダンジョンがある人の言葉なので、僕は信じる他ない。
実はアウトだったなら、仲良く一緒に投獄されようじゃないか。
探索者が入るような刑務所ってどんなところなんだろ……。
僕は忘れるためにスライムの群れをなぎ払った。
「さすが歴ちゃん。息も上がらずに初戦闘を終えちゃうなんて」
「体が本当に軽いんだよね。この装備のおかげなのかな?」
ひらひらしているのは、そうした機能性も兼ねているのかもしれない。
「それもあるかもしれないけど、多分、歴ちゃんの才能だよ。身のこなしなんかは、これまで探索してきたわたしから見ても、かなりの高水準と言ってよかったよ」
「そ、そうかな……」
これまで鈍臭いせいで試験も落ちてきただけに、実際に探索者らしいみふだちゃんに褒められるのは素直に嬉しい。
「あ、赤くなってる。照れてるの?」
「そりゃ照れるよ。あんまり探索の技能で褒められた事ないから」
「いやぁ、そんなに照れてくれると褒めがいがあるなぁ。かわいいかわいい」
わしゃわしゃと頭を撫でられるのも、なんだか嫌じゃない。
しかし、精神年齢的にはかなり年下相手にこんな事されて嫌じゃないのは、それはそれでまずい気がするが……、まあいいや。実績的には先輩なのだ。
「あれ。そういえば、探索者としてのトップじゃなくて、ダンカのトップとか言ってた気がするけど、どうしてなの?」
「それにはね。深い理由があるんだよ」
僕が聞くと、みふだちゃんは、何やら考え込むような仕草をし出す。そして、憂いを帯びた顔をして天井を見上げた。
「もしかして、友だち関連?」
相ちゃんとやらが作ったと言っていた。
その相ちゃんとの約束って事なのだろうか……。
「そのとーり!」
軽いノリだった。
これはこれで疑わしい。
「一緒に仲良くできる友だちが欲しかったんだ。最近はこのブランクカードもなかなか手に入らなくなっちゃったもんで、身近な友だちがやってなくてさ」
「それならもうやってる人とやったらいいんじゃ。そもそも僕らって、そんなに親しい間柄じゃ」
僕がそこまで言ったところで、みふだちゃんが泣きついてきた。
「そんな冷たいこと言わなくてもいいじゃないかぁ! 私のことが嫌いになったの?」
目に涙をためながら、みふだちゃんは僕の事を見上げてきた。
うるうるとしたその目を見ると、罪悪感がこれでもかというほどくすぐられて、胸の辺りがソワソワする。
「い、いや、そういう訳じゃないよ。嫌いじゃない」
「本当? 嫌いじゃない? 好き?」
「まあ、どちらかと言えば、好きというか……」
「よかった」
えへへ、とみふだちゃんは、はにかんだ。
なんだか調子が狂う。
本当にいいように遊ばれているような気がする。
でも、悪い気はしない。
「歴ちゃんとやりたかったの。モンスターカードを手にするのもスムーズだったし、わたしの目に狂いはなかった」
「それは何より」
今度の言葉はさっきの照れとは何か違う、胸があったかくなるような気がして、僕はなぜかそっぽを向いてしまった。
僕は、そんな内心を悟られないために、1度目の探索で手にしたスライムのカードを取り出した。
「モンスターが入ってるのがモンスターカードで、モンスターが入ってないのがブランクカード。他には何かあるの? 道具とか、支援するヤツとか?」
「察しがいいね。そういうのもあるよ、あるある」
カードゲームの知識で当てずっぽうに言ってみたが、どうやら色々とサポートとなるカードもあるらしい。
みふだちゃんは、それぞれ色の違う2枚のカードを新しく取り出した。
「こっちがスキルを封印したスキルカード。で、こっちが、ダンジョン産のアイテムやマジックアイテムを封印したアイテムカード。基本的に、この四種類のカードで遊ぶのが探索者向けのゲーム、ダンジョンカードゲームなんだよ」
「なるほどね。大体のルールは攻撃し合うイメージ?」
「そう。大体、モンスターを使って、相手を戦闘不能にした方の勝ち。投了、降参、気絶、戦意喪失。決着の方法は色々だね」
「要するに、TCGみたいなゲームって事?」
「そう! まさにそうだよ!」
ルールの方は、やってみないとわからないにしても、おおむねゲームの流れは攻撃して、プレイヤーのHPみたいなものを削っていくという認識でいいのだろう。
あとは、他のTCGと違って、モンスターやらアイテムやらの入手方法が、パックではなく、実際に探索して入手しないといけないというところか。
どうやら、かなりプレイヤー本人のリアルファイト能力が求められるゲームらしい。
「まだ軽くしか説明してないのに、このゲームがトレーニングカードゲームと呼ばれている事まで見抜くなんて、さすがは歴ちゃん。慧眼だね」
「トレーニング……、トレーディングじゃなくって?」
「うん。間違いじゃないよ。トレーニングカードゲーム。せっかくだし、ちょっとやってみようか」
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