第2話 みふだのプライベートダンジョン! スキル覚醒!!
「ようこそ、わたしの家へ」
「ど、どうも、お邪魔します……?」
やって来てしまった。プライベートダンジョン。
今はまだ、なんだかデカい門構えの前だが、どうやら高見沢さん、デカい家の人らしい。うわさで聞いた事があったけど、まさか本当だったとは……。
「め、メイドさんとかもいるんだね……」
「うん。お父様もお母様も頑張ってるから」
「なるほど……」
頑張ってどうにかなる次元ではない気もするが、頑張らないといけない世界ではあるのだろう。
学校でのイメージとは違う、お嬢様としての一面を見せつけられ、緊張感だ高まってきた。
それに、メイドさんたちの人間離れした技の数々は、きっとみなさんも探索者という事なんだろうな。
中には髪色が変わった人もいるが、僕としてはそんな現実にはもう慣れてしまった。
この世界では、ダンジョンやスキル、魔力の影響とかで、カラフルな地毛の人が結構いる。僕も、小さい頃から白髪な事を気にしていたが、幼稚園時代に、ファンキーな緑髪やら銀髪の幼児とその親を見てきたので、受け入れないと生きていけない。
「さ、ここが我が家のダンジョン、その入り口だよ」
「これがダンジョン……」
実のところ、直に見るのは初めてだった。
洞窟の入り口のような洞穴が、広い庭の中にぽつんと、開いていた。
入り口の周りは見慣れた光景が広がっているというのに、その奥には異質な空間が口を開いている。一般人は基本、入れないように立ち入りを規制されているので、画面越しにしか見た事がない、正真正銘のダンジョンらしい。
そんなものに、プライベートダンジョンだからと、サクッとやって来てしまった。
「あれ、僕が誘われてたのって、確か、だんか? とかいうヤツじゃなかった?」
僕が聞くと、キラキラと空色の目を輝かせながら、高見沢さんが見てきた。
「な、何?」
「いや、覚えててくれてると思って!」
「記憶力が鳥レベルだと思われてる?」
「違うよ。みんな、誘ってもなーんにも覚えててくれないし、誘った事も忘れてすっぽかすんだよ? 本当、少しも興味持ってくれないんだもん」
変人と言われるほどの勧誘をしている高見沢さんにも、色々と思うところがあったらしい。
むくれながら、これまで誘って来た人たちへの不満点を思い返しているようだ。
正直なところ、今まで聞いて来たうわさや、僕の恥ずかしい写真で脅してきた事から、怖い人なのかと思っていたけれど、ただのコミカルな変人らしい。
「えーと……、話がそれたけど、ダンジョンと、だんかには何の関係が?」
「それはね。入ればわかるよ!」
「いや、ちょっと!?」
ここまで懇切丁寧によくわからない事を延々と話してくれていた高見沢さんは、ダンジョンに向けて突然背中を押してきた。
家にダンジョンがあるだけあり、少し押されただけのはずなのに、体はふわりと浮き、ダンジョンへ向かって止まらない。
どうやら、うんうんとうなずきながらテキトーに聞き流していたバチが当たったらしい。
僕は抵抗もできずに、無理やりダンジョンへと追いやられた。
そういえば、プライベートとはいえ、無資格者がダンジョンに入っていいのかな?
「ここは私有地だから問題ないよ。ささ、わたしがついてるから、安心して」
と不安を見透かされるも、そんな言葉は耳に入ってこない。
今回は耳元でささやかれているせいではなく、肉体が変わる感覚のせいだ。
ダンジョンへ立ち入ると、スキルに覚醒すると言われている。
全ての人が覚醒する訳ではないらしいが、多くの人は、ダンジョンに入ることで、人智を超えた能力を手にする。
この事もあり、探索者になるには資格が必要となっているのだ。
その中には、肉体が変わるようなものもあるのだけど……。
「む、胸が、苦しい……」
僕がまず気づいた変化は、肉体の変化だった。
少し見上げる形だった高見沢さんと目線の高さが合っている気がする。
それに、望んでいた通り、僕の胸が大きくなっていた。
どうやら、体が成長した? らしい。
そのせいで、服のサイズが合っていないからか胸が苦しい。
「おおー。グラマラス」
「やめて。その表現はやめて」
「いいねー。わかりやすいのは好きだよ」
「全然話聞いてないよね?」
グラマラスって、その表現はやめてほしい。
それに、丈が相対的に短くなったからか、以前よりスースーしているような……。
これじゃ、高見沢さんより僕の方が変態みたいだ。
「どう? 何か使えそう? 炎を出したりとか、衝撃波を出せたりとか」
「体は軽いけどそういうのはわからないかな」
軽く体を動かしてみたが、今までの妙に重かった体が嘘のように軽く動けた。
軽く跳ねるだけで、一軒家よりも高いところにありそうな天井まで飛び上がれた。
「見えますね」
「報告しないでよろしい」
ただ、スキルの方はわからない。
スキルは確かステータススキルとやらで確認できたはずだ。
「『ステータス』」
ステータススキルはあったらしく、試しに開いてみる事ができた。
「何かありそう?」
「収納とか、身体能力強化とか?」
「おっ! いいねぇ。探索者として必要なものはそろってるんじゃない?」
探索者としては先輩からの太鼓判をもらうことができた。
「これがダンジョンに入るって事なんだね」
「それはもちろん」
何故か得意げに言う高見沢さん。
「ところで、この潜在能力覚醒って何?」
「これじゃない?」
胸の膨らみを表すジェスチャーをされた。
……。それ、探索で使えないよね?
まあ、スキルは人智を超えたものだけじゃないのも事実。
ただ、一人に一つのユニークスキルがそれってのはどうなんだろう。覚醒しないとずっと発育の悪い女子だったってことなのだろうか……。
「汎用スキルがよかったって事でいいのかな?」
「そうだよ。収納スキルないと探索大変だよ?」
たしかに、荷物の管理とか、意識しなくてもいいのはよさそうだ。
「さて、探索者になったなら、まずはこれを使ってみよう」
突然渡されたのは、剣とか、杖とかではなく、高見沢さんが落としていたカードと同じデザインのカードだった。
「これがだんか?」
「そう。あそこのモンスターに使ってみて」
高見沢さんが指差す先には、すでにスライムのような半透明のモンスターがいた。
そのモンスターはゆっくりとこちらへ向かって来ているところだ。
「えっ。モンスターだよ? そんなに探索に慣れてるの?」
「そりゃもちろん」
平然と答えられた。
家にダンジョンがあるくらいだもんなぁ。愚問か。
いやしかし使うって何?
「たかみ」
「みふだちゃんで、って言ったじゃん」
「いやでも」
「……」
「み、みふださ……、みふだちゃん」
「なーに?」
普段、敬遠されている事も気にしているのだろうか……。
せっかくだからもっと仲良くしてあげよう。
「それで、このカード? はどう使うの?」
「簡単だよ。モンスターに対して押し付けるの。ほら、来たよ!」
背中を押されて前に出る。またしてもって感じだ。
今は身体能力こそ上がって、色々とスキルを手にしているけれど、武器がない。手にはカードのみ。
家に帰れば両親のお下がりがあるのだが、そんなもの学校に持って来ていない!
僕は言われるがまま、飛び上がったスライムに対してカードを全力で押し付けた。
手に衝撃が伝わってくるのを覚悟で身構えたが、衝撃はいくら待っても手に届かない。
おそるおそる目を開くと、眼前にスライムはいなかった。
ダンジョンのどこにもその姿はない。
「え……?」
「すごい! すごいよ! 言った通り一発でできるなんて!」
駆け寄ってくるみふだちゃんはやけに興奮気味だった。
その凄さがわからない僕は、飛びついてこられても呆然とするだけ。
「何が起きたの?」
「ほら、見てみて」
「見てみる?」
カードの方に目をやると、先ほどのスライムの絵がカードに描かれていた。
他にもランクや擬態が得意という情報など、色々な事が書かれている。
「ええっ!? どう言うこと?」
「このカードはマジックアイテムでね。モンスターをこのカードの中に封印できるんだ。相ちゃん特製のカードなんだよ」
「モンスターを封印できるって、それはまたすごいね」
「このカードを使って探索者の間で遊ばれているゲームが、ダンカ。ダンジョンカードゲームなんだよ」
「なるほど。それでダンカ」
ようやく言っていたことの真意が見えてきて、僕にも理解が及んできた。
たかみ、みふだちゃんの知り合いが作ってるからやけに推してるのか。
「歴ちゃんは今、探索者、そして、ダンカプレイヤーの道を駆け出したんだよ。さあ、わたしと一緒に、頂点を目指そう!」
「おう!」
って、あれ? そこまでやるの?
そもそもこれってそういう話だったっけ?
「そうこなくっちゃ!」
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