第16話 歴ちゃんはワタシのものだ!
休み時間の度、みふだちゃんと夢野さんは僕を挟んでやいのやいのしていた。
意外と気分は悪くない。まるでモテているような気がするからだ。両腕を引っ張られていない限り、痛みもないし。
ただ、気分が悪くはないのだが、落ち着かない気持ちでもある。
両手に花というか、両手に棘って感じだ。
同時に心は痛い。
「こうなったらどちらがお姉様について詳しいか勝負です」
「望むところ」
車での移動中くらいおとなしくすればいいのに、どうしてこう、犬猿の仲みたいになっているのやら……。
胃が痛い。僕自身は何をされた訳でもないのに胃が痛む。
右手も左手も、女の子に両手で包んでもらっているというのに、そんな状況を楽しむ余裕すらない。やわかいなぁ、みたいなキモい感想を漏らしたいのに、その余裕すらないのよ。
「ライラさん助けてください。何かないですか」
「歴様も罪なお方ですね」
運転してくださっているライラさんは平然と返してきた。
というより、なんだか楽しそうに見える。
ほほえんでいる顔がいつもより笑っている気がした。
「あの、茶化さないでください」
「茶化していません。むしろ、お嬢様がいないのであればわたくしも混ざりたいくらいです」
「余計に紛らわしくなること言わないでください」
「冗談じゃありませんよ」
「え……」
よく考えると本気かもしれない。
この間、同じ空気を吸うために駆けつける、みたいなセリフを言われているし、この人の言う事もスッと切り捨てられない。
本当、どいつこいつもふざけてやがる。
むしろ、一番楽しそうにしてるんじゃないか?
外野だからって……。
「それじゃ、この袋に入れてるのはなんでしょう」
「剣だよ」
「なんで言っちゃうんですかお姉様! それじゃクイズにならないでしょう!」
「ご、ごめん」
聞かれたと思って答えたら怒られてしまった。
何やら別のゲームが始まっていたらしい。
小さくなっていると、すかさずみふだちゃんに頭から抱きしめられた。
「へぇっ!?」
夢野さんよりはひんやりしているようで、すっきりしたいい匂いがする。なんか安心するな。狂戦士戦で守られたからかな。
「あーあ。歴ちゃん泣いちゃった。怒ったりするから。かわいそうな歴ちゃん。よしよし」
「泣いてない泣いてない」
そんな小さい子じゃないんだから、びっくりはしても泣き出したりしない。
ただ、優しく撫でられれば、不思議と気持ちは落ち着いてくる。
「前も袋に入れて持ってたよね」
「無免許だったから隠さないと、と思って」
「なるほど」
今は仮免も発行してもらい、持ち歩けるようになったけれど、剣なんて持っていても心象がいいものでもない。そう思っての配慮だ。
「そんな情報、みんな知ってますわ」
「なんで?」
「どうやらその剣に関してはあたしの方が上みたいですね」
「答えてよ」
「どういう事?」
「無視されてる?」
ムッとするみふだちゃんに勝ち誇った顔をしている夢野さん。
隙を見て僕の事をみふだちゃんからスティールした。
夢野さんはやはり、何だか体が熱い。それに、甘ったるい匂いがしている。少しぼーっとしてくるところがあるんだよな。
いや、待て。僕は何を分析してるんだ?
そんな事よりスティールした? 僕はボールか。
「お姉様はあたしに対してその剣を使ってくださいました」
「へー」
夢野さんの自慢に対し、みふだちゃんは興味なさげだ。
「なっ」
「それにしても業物だね。どうしたの?」
「えっと……、親のなんだ。せっかくだから使いたくて」
「親御さん、探索者なの?」
「元、だけどね」
「……なるほど」
とみふだちゃんと話していると、夢野さんが僕を抱きしめる腕に力が入った。
「あたしの近くにいるんですから、あたしとお話ししてください」
「いやでも」
「ふっ、あなたは捨てられたの」
「そんなっ。嘘ですよね。お姉様!」
「捨ててないって」
さすがにそんな事はしない。
「お姉様!」
僕の断言に今度は胸に泣きついてきた。
胸にあたるなんとも言えない感覚がある。
本当によく泣く子だと思う。もう少しがっしりした胸板をしていればよかったのと後悔する。
「わ、わたしも!」
「なんで?」
「撫でて撫でて」
「い、いいの? よ、よしよし」
求められているのでそっと撫でた。
髪の毛が柔らかくって気持ちいい。
いやだから、僕はどうしちゃったんだ? 混乱してるのか!
「どうやら、歴ちゃんについて詳しいのはわたしみたいだね」
「そんな話だったっけ……。そもそも、みふだちゃんの方が一緒にいたんだから当然なのでは」
「愛は時間ではありません。深さです。お姉様とともに戦う、せんちょーや狂戦士、ウィッチもそうでしょう?」
「たしかに……、え? ウィッチは昨日見せてないよね?」
「愛ゆえです。ペットのわんちゃんもそのはず」
「合ってるけどなんで知ってるの?」
「愛ゆえです!」
愛、怖っ!
僕の居場所も、通っている学校も一夜にして筒抜けだし、恋は盲目って言うよりもなんか鋭くなっている気がする。
「なかなかやるようね」
「そちらこそ」
「なんでちょっとだけ認め合ったみたいになってるの? 指摘して! 異常を指摘して!」
実は僕より仲良いんじゃないか、この2人。
息ぴったりだろう。
もしかして僕だけはぶられているって事?
「こうなったら、お姉様をかけてダンカで勝負致しません?」
「望むところ」
「なんでそうなるの? 僕の意思は?」
僕のために争ってるみたいな展開になってきてるんだけど!
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