第14話 おや? ダンカプレイヤーの様子が?
「低ランクモンスターが一体の梨野さんに対し、あたしはより高ランクのモンスターを召喚してある。そのうえ、分身させて、鱗粉により視界も奪った。この状況をあなたに打開できるかしら」
説明ありがとう。
実際、このまま順当に進めば負けてしまうというシーンだろう。
だが、僕は勝負を諦めない。
「私のターン!」
ドローカードはウィッチ。
おそらく、一対一であればウィッチの能力でも対抗できるだろう。
だが、分身がどんなものなのか読めない以上、後衛的な能力のウィッチを場に出しても盤面を打開できるとは限らない。
そのうえ、相手がどの程度の実力かもわからない。
モンスターのランクがEランクとなると使っていいのかわからないが、初ダンカで負けるのも嫌だ。ここはやるっきゃないだろう。
「戻れ、せんちょー」
僕はせんちょーをカードに戻した。
「あら? 気にしてませんみたいな雰囲気を出しておいて、戦意喪失? 負けを認めるって事? 驚かせてくれちゃって」
動揺していた夢野さんは、ほっとしたのか余裕が出てきたように見える。
警戒されているよりよほどいい。
「それはどうかな。ここまではただの準備ですよ」
「だとしても、モンスターの数、ランク、どれを取ってもあなたに勝ち目はないでしょう。そもそも、この鱗粉の中でどうやって攻撃を当てると言うの? 次のターンを待つ事なく降参するがいいわ」
「やれますよ」
「無理ね! この戦術は初心者相手に破られた事はないんだもの。わたしはこのダンジョンで無敗なんだから」
さぞかし自身のある手段らしい。
ならばこそ、全力をもって相対する。
僕は手札にある一枚のカードを突き出した。
「狂える迷宮の騎士よ。今こそ我が僕となりて、その力を示せ。やってしまえ! 狂戦士!」
初めての感覚。高ランクモンスター初めての召喚。
Aランクモンスターであるバーサークナイトは、まるで僕の力を吸うようにしながら、カードから飛び出してきた。
相変わらず、血に塗れたような姿のくすんだ鎧をまとった騎士だ。
「な、何よ、そのモンスター……、スライムとは次元が違うじゃない」
「一応、Aランクなものでね」
「Aランク!? 初心者というのは嘘だったの? あたしを騙したわね!」
「騙してきた人に言われたくないんですがそれは」
「う……、キー!」
地団駄を踏むように悔しがる夢野さん。
僕としては別に騙したつもりもないのだ。せんちょーを見て、勝手にそれ以上のランクを持ったモンスターがいないと判断してきただけだし。
「さあ、狂戦士。眼前の全てをなぎ払え! バーサーカータイフーン!」
「Graaaa、Gaaaaa!」
大剣によるなぎ払い。
ただの一撃によって、僕を取り囲んでいたすべての分身が消え去り、舞っていた鱗粉は吹き飛ばされた。
加えて、高く飛んでいた個体も上の方から落ちてくる。
全部で6体だった訳か。そこも嘘と。
「さて、狂戦士はまだやれるみたいだぜ」
「いや、いや、ひゃあああああ!」
夢野さんは、狂戦士のなぎ払いをその場に踏んだって耐えたらしい。
距離があるとはいえ、そこそこの探索者である事に変わりないみたいだ。
ただ、狂戦士の強さを前に試合を諦めてしまったのか、悲鳴をあげるとその場にへたり込んでしまった。
ビクビクと肩を震わせて目元を拭っている。
「ひぐっ、う、うぅ……、うぅ。あたしの必勝パターンがぁ……」
「あ、あー……」
やばい。やりすぎたかもしれない。
狂戦士の攻撃力は高すぎる。
ここは、ウィッチに頑張ってもらうべきだったかも……。
僕は狂戦士を待たせて夢野さんの元まで歩いて行った。
「だいじょ」
「隙あり!」
瞬間、夢野さんの槍が閃いた。
なんとか剣で受け流す。
小さい頃から遊びで素振りさせてもらっていなかったら防げていなかったかもしれない。
ただ、夢野さんの槍捌きは素早く、一撃防いだ程度では止まるところを知らなかった。
慣れない間合いと経験の差から少し分が悪いかもしれない。
「くっ」
「最後の最後まで諦めない。ダンカでもダンジョン探索でも、油断した方が……」
何かを言いかけていた夢野さんの口が止まった。
槍は僕に届いていなかった。
狂戦士が、僕の事をすくい上げて武器が届く前にかばってくれたらしい。
おう。あんな叫び声あげてたのに、助けてくれるとは思ってなかった。
ついでみたいに、夢野さんからひょいっと槍も取り上げてくれた。
「ありがと」
「uuuuu」
会話はできないけど、いい子みたいだな。
「う、嘘。何それ。何それ何それ!」
「たまたまだよ。ちょっと強いモンスターを召喚できただけで」
「違う。これは実力による負け。あたし、梨野さんにめちゃくちゃにされちゃった……」
負けを認めたらしい夢野さんは今度こそ脱力したようにその場にしゃがみ込んだ。
だが、何故かその顔はコンボを決めた時以上にうっとりとしていて、おまけに僕の方を見ていた。
目と目が合った瞬間、背筋がゾワっとした。
そこからというもの、カードダンジョンでの出来事はあまり覚えていない。
色々と教えてもらったはずなのに、夢野さんのインパクトが強すぎて記憶に残せなかった。
そして今、僕はライラさんの運転で学校を目指していた。
「わたしの手続きが待ちきれなくなって? ダンカを始めてるとは思わなかったよ」
「そういう訳じゃないんだって」
「照れなくてもいいよ。仮免発行長かったもんね」
照れている訳ではないのだけど、勢いでやってしまったのは事実だ。
「あれ……。もしかして、仮免発行中にダンジョン潜っちゃまずかった?」
「ううん。まだ発行してないだけで資格はあったから問題ないよ」
「よ、よかった……」
「それで、どうだった?」
「楽しかったよ。ただ、なんというか」
ドシン! と車が揺れた。
上から何かが落ちてきたような衝撃だ。
「事故?」
「いえ。おそらく違うかと。警戒してください」
何かが動いているように、車が揺れる。
のしのしという足音のようなものが止まると、にゅっと、フロントガラスに顔が現れた。
「お姉様! あたしもお供します!」
フロントガラスに現れたのは、僕らと同じ制服を着た昨日の夢野さんだった。
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