第12話 公のダンジョン! 外の探索者!!
僕らはライラさんの運転でプライベートではないダンジョンへとやってきていた。
なんでも、番号付けから外れた長く残っているダンジョンで、ダンカプレイヤーが足繁く通っている場所らしい。
目的は当然、ダンカとダンジョン探索。
「なんて名前だっけ?」
「カードダンジョンだよ」
「おう……」
ゲーム名を逆にしただけ、みたいなネーミングセンス。僕は嫌いじゃない。
わかりやすいしね。
という事で、駐車場まで併設された、残される理由がある方のダンジョン。カードダンジョン。その目前にあるギルドへと足を踏み入れた。
探索者でもないのにダンジョンについて知るために、何度となく無駄に通っていたため、どんなものかはわかる。
中は特別変わっている様子もない。至って普通のダンジョンという感じだ。
人がいて、ダンジョンへ潜る前の最終確認ができる場所だな。
とはいえ、本物の探索者を見ると胃がキリキリしてくる。が、今は僕も探索者だ。
「大丈夫だよ。歴ちゃんも立派な探索者だから」
「仮免だけどね」
「むしろレアケース」
ニヤリと笑うみふだちゃんはなんだか楽しそうだ。全く周りの目とか気にしていないように見える。
一緒にやる友だちがほしかったという話は、案外かなり真剣に悩んでいたのかもしれない。
しかし、どうして僕だったのやら。考えても仕方がないか。
「再確認だけど、カードショップじゃなくてよかったんだよね」
「もちろん。間違ってないよ。ダンカは現状、カードショップでは取り扱えないからね」
「モンスターの封印は、持ち主の力によるところが大きいから、だっけ」
「素晴らしい! もうダンカについてはバッチリだね」
「付け焼き刃だよ」
「ショーケースとかに封印したカードを置いておくには、ショーケース自体に、複数のモンスターを封印し続けるだけの力が必要だからね。付きっきりで見るって訳にもいかないだろうし、現実的じゃないかな。でも、どうにかできないかって頑張ってる人たちはいるみたい」
「本当、人間の探究心たるやって感じだな」
「ねー」
その中にはみふだちゃんの友だちやら、会社やらが関わっているとも言っていた。
なのに、なんだか人ごとみたいだな。
カードゲームとは違う成り立ちをしているから、そんなものなのかもしれないけど。
「さて、ギルドの内装についても念のため説明しておくね」
「お願いします」
僕の前にパッと出ると、みふだちゃんは指差しながら僕の方を見てくれた。
「あそこが受付。色々な手続きは優しそうなお姉さんに相談すると答えてくれるよ」
「お兄さんより?」
「わたし調べではお姉さんの方がおすすめ」
……かなり偏見が入ってそうな調べだ。
「そして、あっちには依頼系。素材を欲していたり、パーティの募集だったりが張り出されてるかな」
「掲示板のイメージだね」
「そんなところ。それで、素材の換金場所だったり、談笑や情報交換が行える場所だったりがあって、最後にダンジョンへの入り口って感じ」
「ザ・ギルドって感じかな」
「そうだね。作りは基本的にどこも同じになってると思うよ」
「でも、かなりそろってるよね」
「そうだね。Sランクのところと比較しても見劣りしないと思う」
「へぇ、それはすごい」
ダンジョンのランクが上がるほど、豪華さも上がると聞く。
さすがに、Sランクダンジョンなんて言った事はないが、お嬢様は別格らしい。
長くダンジョンを維持するつもりがあればこそ、という事なのだろう。
ひどいところなど、全て仮設で間に合わせているようなところも見てきた。
ここは、探索者がダンジョン外で泊まれるような施設もあるみたいだし、拠点としてかなり優秀な部類だろう。
ダンジョンのランクはFからDと、決して高くはないというのに、ここまでそろっているのはダンカプレイヤーのおかげだと思う。
「あ、一個だけ注釈を入れておくと、素材系はわたしに預けてほしいな」
「僕は構わないけど、どうして?」
「今後の開発研究のためと、しっかり最期まで歴ちゃんの面倒を見るため」
「面倒を見るって大袈裟な」
「冗談じゃないよ。誘ったからには、最期まで面倒を見る覚悟はしてあるから」
「……本当に?」
「本当だよ」
なんだか目がキラキラしていた。
ひとまず、嘘をついているようには見えない。
最期までってどこまでかわからないけど、色々とサポートしてくれると言うのなら、甘えておくのがいいのだろう。多分。
そもそも、当分は助けてもらわないと探索者を続ける事も難しいし、やむを得ん。
「それじゃあ、仮の探索者証だけ発行して、探索にしようか」
「うん」
優しいというお姉さんの方へと並んだ。
みふだちゃん調べが当たっているのか、お兄さんの方にはあまり人が並んでいないように見える。
そこまで人によって対応に差を作ってはいけないと思うのだけど、一体何故……?
「次の方どうぞ」
「ひゃい!」
バカな事を考えていたら急に呼ばれて変な返事をしてしまった。
周りの目が、急に素人を見る目に変わったような気がする。
「大丈夫だよ。固くならないで。最初はみんな緊張するもん」
「そうかな?」
「そうそう。周りの人たちも、よく見ると大した事なさそうでしょ」
「どうだろう。僕にはそうは見えないけど」
一瞬、周りの探索者たちがムッとしたような気がしたが、誰も喧嘩っ早くないらしく、殴りかかってくる人はいない。正直とてもありがたい。
資格がないというだけで笑われる事も多かったからな。
「どのようなご用件でしょうか」
「仮免の発行を済ませたいです」
「仮免……。仮免ですか!? 本当にいるんですね。ちょっと待っていてください? 初めての対応なので」
どうやらレアケースというのは本当だったみたいだ。
お姉さんはワタワタと裏に引っ込んでいった。
それだけでなく、周囲の雰囲気もなんだか慌ただしくなっている。
「ね。珍しかったでしょ?」
「うん」
ここまで前を並んでいた人たちは軽くあしらわれているようにも見えたというのに、ゆっくり確実に対応しようという意思を感じる。
「すいません。遅くなりました。推薦者の方の確認をさせていただきたいです」
「高見沢みふだです」
「え」
みふだちゃんが名乗ると、受付のお姉さんが動きを止めた。
驚いたように目を見開いている。
それはそうか。これでも有名企業のお嬢様らしいもんな。
「あ、あー。そっか。えっと……、あっ!」
そこで何かを見つけたのか、みふだちゃんは僕の背中を押してきた。
「え、なに?」
「歴ちゃん、あそこ」
「売店?」
「そ。ダンカ、最後の1パックだって。ちょっと買ってきてくれない?」
「急に? たしかにそうみたいだけど」
そんな。小学生みたいな。
「わたしが払うから」
「しょうがないなあ」
なかなか買えないというのだから、1パックでも剥きに行くに決まっているだろう。
わーい。パック開封パック開封。
別にルールの知らないゲームでも、何故か動画を漁って見てしまっていた。オリパとか、新パックとか、どうして自分の事でもないのにあそこまで熱狂できるのかわからない。
本当なら面倒事を引き受けたいところだけど、最後の1パックだし、任されたのでは仕方がない。
僕は受付のお姉さんとの会話を惜しみながらみふだちゃんに任せて、もらったお駄賃でパックを購入した。
一枚目、ブランクカード。
二枚目、ブランクカード。
三枚目、ブランクカード。
四枚目! SR! のブランクカード!
最後も当然ブランクカード。
「わーい。SR、SR、って全部ブランクかよ!」
知ってた。知ってたとも。モンスターも何も入っていないって。
自分で入れるって。
ええ。わかってましたよ。
微妙に装飾が綺麗でこだわっているようだけど、ブランクカードはブランクカードだ。
なんだこれ。まとめて売れよ。
「あの。ちょっといいですか」
「あ、すみません」
1人でバカみたいに騒いでいたところに、少し年下くらいの女の子が話しかけてきた。
いわゆる姫カット、とかいった髪型の、桃色髪をした女の子だった。左耳で揺れるピアスが特徴的だ。とても探索者には見えない。
ここはダンジョンにしては珍しく、女性探索者が多い場所でもあるみたいだけど、それにしても、探索に向いていないような、かわいらしいフリルの多い服装をしている。
もしかしたら誰かの付き添いとかなのかもしれない。
「すみません。うるさかったですよね」
「いえ、買えると嬉しいですもん。ダンカやってるんですか?」
「え、はい」
どうやらダンカを知っている側の人らしい。
柔和そうな笑みからは全てを包み込むような包容力が感じられる。
なんだろう。ダンカ呼びが共通でよかった安心感とは、また別の感情が湧いてきている。
「ダンカ、知ってるんですか?」
「はい。あたしも最近ようやく買えて」
「なるほど、それで話しかけてきてくれたんですね」
「そうなんです。女の子が買ってるの見て、嬉しくって」
なんだかとてもいい子みたいだ。
探索者じゃないのかと思ったけど、探索者みたいだし、いい探索者もいるんだな。
「あたし、夢野千伊香って言います。よかったら一緒にやりませんか?」
「ぼ……、私は梨野歴です。一緒にやります!」
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