第10話 巨乳になっちゃった! 母さんどうしよう!!
メイドさんに送ってもらい、僕はようやく家に帰ってきた。
「ここまでわざわざありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、なんとお礼を言ったらいいか」
「そんな。僕は何もしてないですよ」
むしろ、色々してもらった方だ。
巻き込まれたと言えなくもないが、世話してもらった方だろう。
なかなか手に入らないというブランクカードだけでなく、最高品質の装備までもらったのだから。
おまけにプライベートダンジョンを探索させてもらい、そこでダンカについて色々と教えてもらえたのだ。
文句の言いたいところはあるが、もらい過ぎたとも言える。
「本日はありがとうございました」
「本当、お礼を言われるような事はしてないですって」
「いいえ。そんな事ありません。お嬢様と仲良くしてくださった事です。ここ数日、お嬢様はあまり笑われていませんでした。しかし、歴様と過ごしている間は、とても楽しそうに笑われていて、普段のお嬢様が戻ってきたようでした」
「だと、いいんですけど」
ここ数日というと、あのムキムキ男の件だろうか。
何があったにせよ、積極的に話したがらないという事はあまりいい出来事ではなかったのだろう。
僕には重荷な役割だと思うが、傍目から見てよかったなら、ここはよしとしておくかな。
「それでは、失礼します」
「はい。ありがとうございました」
メイドさんの車が走り去るのを見送ってから、僕は息を吐いた。
体の傷は治ったが、心の疲れがものすごい。
今もよく知らんお姉さんに車で送ってもらってかなり緊張した。
あとは、体の急な変化に精神が追いついていない気がする。
「って、住所も教えてないのになんで談笑しながらここまで送ってこられたんだよ」
今さらつっこんでももう遅い。それに、僕のプライベートは激写されているのだ。これまた今さらだろう。
考えるのを止めて、僕は家のドアをそっと開けた。
…………。
妹が突っ込んでくる様子はない。どうやらもう寝てしまったらしい。
「ただいまぁ……」
「おかえりなさい」
そして、聞こえてくるのは母さんの声だけ……、家には母さんだけなのかな?
ペットもやってこないところから、起きているのは母さんだけなのだろう。
家が安全地帯な事にほっとした。
他の面々に今会えば、必ずや面倒事になってしまうだろうからな。
それでも抜き足差し足でリビングへ移動した。やはり、母さんの姿だけ。
見えているのかいないのか、ぼんやりとテレビを眺めているところだった。
「母さん。あの、僕、胸が。それに、体が……」
しどろもどろに言うと、僕とは違い白に染まった髪をした母さんの髪が揺れた。
ゆったりとした動きで僕の体を上から下まで見てくる。
「おやまあ、成長したねぇ」
驚いたように手に口を当てると、母さんはほほえんだ。
「すごく変わったのに、あんまり驚かないの?」
「びっくりはしたよ? でも、ダンジョンに入ったんでしょ?」
「う、うん……」
さすがは元探索者、驚くほどの事ではないのだろう。急激な変化にも慣れっこらしい。
「でも、聞かないの? 探索者試験に落ちたのに、ダンジョンに入って」
「うーん。方法は色々あるだろうからね。歴ちゃんは悪い事をするような子じゃないってわかってるから」
「……」
本当の子どもではないのに、信頼されていて胸が痛くなる。
それでも本当の子どものように、もう少しいい子になれたらよかったのだが……。
すると母さんは、車椅子型のマジックアイテムを使い、僕に近づきながら手招きしてきた。
「何?」
顔を寄せると、黙って僕を抱きしめてきた。
驚きに身を引きかけたが、優しく背中を撫でられるたび、体から力が抜けていく。
「不安はわかるけど、大丈夫だよ」
「そう、かな……?」
「うん。そう。大丈夫。走り出しがうまくいかなくっても、そんなもの最後には関係ないもの。わたし達だってそうだったもの。でも、歴ちゃんはわたし達よりうまくやれるわよ」
「友だちのためにも、うまくやりたい」
「そう。もうお友だちができたの? なら大丈夫よ。仲間は大切にしなさいね」
「うん」
「本当、探索好きはわたし達に似たのね」
母さんの言葉が何よりありがたく、僕の心も癒されたようだった。
こうしていると、どの世界でも母親は母親なのだと痛感させられる。
死んでしまった事を申し訳なく思うと同時に、今の母さんを大切にできるよう、進んでいけたらとも思う。
せっかくみふだちゃんが手を差し伸べてくれたのだ。この機会を無駄にはできない。
「も、もういいかな?」
「久しぶりだから、もう少しこうしててもいいんだけど」
「ほら、お風呂に入りたいし」
「それもそうね。ゆっくりするのも大事だわ」
恥ずかしくなってきて言うと、母さんはゆっくり離してくれた。
「それじゃあ」
「そうそう。最後に一つ」
「ん?」
声をかけられ振り向くと、立てかけられていた剣を手にしていた。
それは、母さんが探索者だった頃に使っていたものだ。
「これ、持っていきなさい」
「本当にいいの? 前になれたらくれるって言ってたけど……」
「わたしには扱えないものよ。歴ちゃんに使ってもらえたら、この子も喜ぶわ」
まるで自らの子どものように慈しみながら、剣を差し出してきた。
「ありがとう。大切にするね」
風呂から上がり、もう寝ようかとベッドに座ると、スマホに連絡が入っていた。
どうやら、帰りに交換したみふだちゃんかららしい。
「なんかめっちゃきてるけど……、えっと?」
ゆっくり読んでもどこが本文なのかわからないな。
関係ない事まで送られてきている。
「本題はここか? 明日、楽しみにしててね。いい知らせがあるから、か……」
嫌な予感しかしないな。
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