第9話 新たな仲間! その名も狂戦士!!
バーサークナイトの全容が見えたところで、その左手に握られていたソニックウルフがダンジョンへと吸収された。
どうやら、3体しかいなかったのはバーサークナイトにやられていた事も原因だったらしい。
バーサークナイトは血に塗れたように甲冑のところどころを赤い傷が彩っている。それがモンスターのものなのかまではわからないが、少なくとも、ただの飾りではないだろう。
「見た通り。縄張り争いとか、弱い個体を守るためとか、そういうのじゃなく、ただ暴力性の限り他のモンスターを狩る異常種だよ」
「なるほど。モンスターにも習性があるって聞くけど、これは確かに異常だ」
思わず喉がなる。
これまで感じた事のない、胃から全身が冷えるような気持ちの悪い感覚で体が動かなくなる。
生き物として勝てないと直感してしまったのだろうか、震えが収まらない。
いきなり、両サイドの壁が大きな音とともに崩れ落ちた。
地面も僕らの周り以外を残してえぐられるように傷が走っている。
「何、これ……」
「バーサークナイトの攻撃。見逃しちゃダメだよ」
みふだちゃんには見えているみたいだけど、僕には動いた事すら見えなかった。
大人の男3人分以上はありそうな巨体のどこに、そこまでのスピードが秘められているのかわからない。
分析しようと頭を働かせていると、またしても、気づけば風圧で吹き飛ばされそうになっていた。
抱えているウィッチの魔法も解除され、顔は蒼白になっている。
なんとかまだ体力が残っているが、どうして無事なのかさえわからない。
廃墟のように壁が崩れ、足場が壊される。
僕の少し前に立つみふだちゃんのドレスが少しだけ裂けていた。
「みふだちゃん、それ……」
「気づいちゃった? 正直、あれは心の準備をしてる時に会えばなんとか戦える相手だからね。歴ちゃんがいなかったら、もうとっくに諦めてるよ。なんて、カッコつけすぎか」
「みふだちゃん……」
やっぱり、みふだちゃんの方が桁違いだ。
常に平静を装って、場を作ってくれていた。
僕のモチベーションが下がらないように気を遣ってくれていた。
今はこうして足手纏いの僕をかばってくれている。
集中しろ。
こんなに素晴らしい場を用意してくれたんだ。
探索者のなり損ないが、探索者になる機会を与えてくれたんだ。
恩を返せ、潜在能力が胸だけじゃないってところ、お前が見せてみろ。
眼を凝らす。
腕の振り、風圧。剣からの衝撃による攻撃。
それを左右に受け流すみふだちゃん。
バーサークナイトによる踏み込み。それだけで地面が揺れ、反応が遅れる。
剣と剣がぶつかり、いくつもの衝撃波が四方八方へと広がった。
眼前では、ほとんど一瞬の出来事ながら、高度な戦いが繰り広げられていた。
見逃すな。僕が入る隙を、僕の参加するタイミングを。
体の力が高まる。みふだちゃんと戦う時はいつもそうだ。
僕だって、みふだちゃんがいるから戦える。
「しまっ」
みふだちゃんが声を漏らした。
軌道の違う僕を狙った攻撃。
「ここだぁ!」
バーサークナイトの攻撃を初防御。
目が慣れてきた。体がついてきてくれる。
「うそっ。防いじゃったの?」
今回ばかりは緊急事態。ウィッチも下がってくれた。
そして、攻撃が防がれると思っていなかったのはバーサークナイトも同じ事。
僕はすぐに攻撃へ転じた。
だが、さすがは高ランクモンスター。切り替えは、僕が攻撃へ転じるのと同じだった。
「くっ……」
剣は甲冑へ届かず、相手の巨剣に防がれた。
力は少し負けている。
体勢がよくない。僕の体が沈み、重い巨剣が僕を地面へと埋めてくる。
「歴ちゃん。引いて」
「大丈夫。借りた恩は返すから」
「違う。そんな事はいいの。生きて歴ちゃん。大丈夫。今行くから」
意識は全て僕に向かっている。相手は全力。
望むところ。僕は1人じゃない。
盤面ばかり見ていては意表をつかれるぞ。
「せんちょー!」
せんちょーの体当たり。
ここまでどんな巨体にも負けなかったせんちょーの全力は、バーサークナイトの剣を握る手に衝撃を与えるには十分だった。
上からの重圧に少しの変化。力の伝わり方が変わり、僕はその剣を弾き飛ばす。
空手のナイトに何ができるか。
「うおおおお!」
「こんな事もあろうかと!」
みふだちゃんがすかさずブランクカードを投げてくれた。
しかし、空手のバーサークナイトは手で全てのカードを弾いてしまった。
「ああっ」
「こんな事もあろうかと第二弾! そのドレスを誰のものだとお思いで!」
揺れる小物入れ、その中から僕は一枚のカードを抜き取った。
本当、何手先を読んでいるのやら。
「これで終わりじゃああああ!」
僕はすかさずバーサークナイトへと振りかざした。
抵抗するバーサークナイト、だが、少しばかり押し返されただけで、抵抗する力は強くない。
僕はせんちょーに押される形でバーサークナイトをカードの中へと封印した。
「はあ……はあ……」
その勢いのまま、僕は前に倒れ込んでいた。
体がもう動いてくれない。
「バーサークナイト。Aランク……、狂戦士ってところかな……」
「今回のMVPだね」
「……ありがとう、みふだちゃん」
みふだちゃんに助け起こしてもらう。もう、肩を貸してもらってなんとか立っている状態だ。
ふにふにとあちこちを触られているような気がするのは、僕を支えるためだろう。
「よかったの? みふだちゃんなら、自分で封印できたんじゃ」
「初心者優遇だよ」
みふだちゃんが優しく笑いかけてくれると、少しだけ力が湧いてくる。
本当に、みふだちゃんは温かい。これまで上手くいかなかった事が嘘みたいに思える。
何者でもない僕を支えてくれて……。
「怪我は……、あれ? してないみたいだけど、今回の探索はここまでにしようか」
「まだいけるよ」
「嘘おっしゃい」
みふだちゃんに手放されると、僕はバランスを取るので精一杯だった。
胸を鷲掴みにされても抵抗さえできない。
そのままヘロヘロと地面に倒れ込んでしまう。
精神力はもう限界らしい。
「無理をしない。体調は万全にしてダンジョンへ挑む事」
「……わかったよ」
ここでも先輩の言う事を聞いておこう。
僕がうなずくと、
「よろしい」
とみふだちゃんも笑った。
今回の戦闘。僕の体は最後までよく動いてくれた。
本当に、生きててよかった。
「それじゃ、帰ろっか」
「あの。その前に、胸から手を離してもらってもいいかな?」
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