第八話 勝負で生まれるものはある
一週間後の土曜日南雲パーク。
南雲財閥が作った巨大なテーマーパーク。普通のアトラクションのほかにも様々なレジャー施設が存在する国内最大のテーマパークになっている。今度新しい施設が出来るらしく開発中の場所もある。なにやら知らないが巨大なビルが建っている。
そのため休日は家族連れやカップルなどたくさんの人で賑わっているはずなのだが今この南雲パークには俺と桜崎、馬鹿、劉斗、綾崎、赤羽、狭間先輩、佐藤会長、永城副会長しかいない。この日のために劉斗が貸しきったらしい。
「なんで、アンタ等がいるんですか!」
俺は佐藤会長に聞いた。
「なんか面白いことがあるって聞いたからね。これは行くっきゃないでしょう!!」
「僕は帝の付き添いです」
どんだけ暇なんだこの人たちは。受験生のはずだろう。
「どうやら逃げずに来たようですわね」
動きやすそうな私服姿の西園寺がやってきた。
「劉斗に勝手に連れてこさせられたんだ」
「今日は絶対勝ちますわ」
まったく話を聞いちゃいない。
「俺の話を聞け」
「まあ、待て二人ともこれから始める」
すると下から床が競りあがり馬鹿が金ぴかの服を着てマイクを持ったまま上に上がっていった。あいつの精神を疑った。あんな服を着て人前に出られるなんて正気の人間の出来ることじゃない。
「さあ~。ついに始まりました。六道隼人VS西園寺暦!! 両者気合十分のようです」
「俺のどこが気合十分に見える」
「司会を務めるの皆さんご存知みんなのアイドルこの僕馬鹿洋平で~す!!」
あいつが司会なんか出来るのか。
「解説は赤羽紫苑さんで~す」
パチパチパチ!!
どこからか拍手の音が聞こえる。馬鹿のときなかったのは人望か?
「どうも、みんなの女王様赤羽紫苑です」
赤羽よ、それでいいのか。
「何か言いました?」
「何も!!」
心を読まれた!?。
「ただの勘です」
なんじゃ、そりゃ!!
「さて、そろそろ競技内容の説明に入ろうか!!」
設置されていた巨大なスクリーンに競技内容が映し出された。
「第一競技は超巨大ジェンガです!!」
ワーワー! パチパチ!
何処からか歓声と拍手が上がる。明らかにヤラセと思う。
「超高層ビル級のでかさのこの巨大ジェンガをMSに乗ってやっていただきま~す」
なんじゃそりゃ!! あの巨大なビルはジェンガか!
「MSの技術提供は南雲財閥からです」
勝手に進んでいく話。宣伝もしてないか? すでに二機のMSが俺たちの目の前にある。
「どうしろと?」
「あら、まさか、逃げたりはしないでしょうね」
「いや、お前この状況で驚かないのかよ」
「この程度で驚いていたらこれからさき生き残れませんわよ」
「いや、この先に何があるってんだよ」
この先にあるのは確実に俺の望むものじゃないだろう。
「それでは言ってもましょうレッツ!ジェンガー!!」
そんなわけで俺はMSのコックピットに座っていた。
「はあ、何でこんなことに」
「無駄口を叩く暇があるとは余裕ですわね」
「ならアンタからどうぞ」
「言われなくてもしますわ」
と俺たちの超巨大ジェンガバトルが始まった。
「私が先行で行きますわよ」
西園寺が一番下の真ん中を抜く。
「余裕ですわ」
一番下の真ん中だからな。
「次は俺か」
さて、わざと負けるとしよう。とりあえず最初に崩すとわざととばれる危険性があるからな少ししてから負けるとしよう。
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「お、おい、もうやめた方がいいんじゃ」
ジェンガもすでに中盤だがもうぐらぐらでメトロノームかってくらい揺れている。てか崩れたら死人がでるぞ。
「心配後無用。僕たちは飛行船に乗ってるから」
いつも間にか飛行船に乗っていたらしい。いったいいつの間にだ。
「よし!」
そうやら西園寺が抜いたらしい。そして、一気に崩れた。
「あ~あ」
「勝者!隼人ー!」
「負けましたわー!」
「これで終わりか?」
正直もうどうでもいい。
「続きまして第二回戦!」
「まだ続くのかよ!!」
「あたりまえですわ!」
そんなわけで第二回戦に突入。セバスチャンの手により巨大ジェンガとMSは回収されどこかに持っていかれた。あの人だけでなんで持っていけるんだよ。
「さあ、行ってみよう二回戦!! 超巨大ドミノ倒し」
「超巨大、好きだな!! おい!!」
その後のドミノ倒しでも初っ端に西園寺が倒して俺の勝ち、次のツイスターでも西園寺が無理な体勢で崩れて俺の勝ちその時巻き込まれた。更に次もと様々な勝負で俺が全て勝ってしまった。
勝とうとしたわけではない西園寺が究極的に弱いのだ。わざと負けようとするまえに西園寺が負けてしまう。
そうやって諦めの悪い西園寺とズルズルと何回戦もやってしまった。
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「なあ、まだやるのか?」
気がつけば既に空は茜色に染まっている。
「ま、ま…だ、はあはあ、やるに、はあ、決まっていますわ」
息も絶え絶えに西園寺が言った。
「そういうことは息を整えてから言えよ。あと言っているが、別に俺は生徒会長になる気なんかないぞ」
何度も言い続けているが西園寺は全く聞く耳を持たない。
「さあ、次に行きたいんですがネタが切れてきたんでジャンケンでもしてください」
もう適当だな。だが、これなら西園寺も勝つ確率があるだろう。さすがに運の勝負だ。運まで悪くないだろう。これで俺が勝ったら何も言えないがな。
「いいですわ」
いいのかよ。
「じゃあ、一回だけな」
「わかっていますわ」
「じゃあ行くぞ」
これなら流石に西園寺も勝てるだろう。
『最初はグー、ジャンケン、ポン!』
俺が出したのはグー。そして西園寺が出したのはチョキ。またまた俺の勝ちだった。…………駄目だ超弱い。
「ま、また負けましたわー!」
そう言って西園寺は走って行ってしまった。はあ~、疲れた。
「おいおい、また俺の勝ちかよ」
勘弁してくれ。もう勝負する気はない。あれで頭が冷えてくれればいいのだが。
「まずいな」
いきなり劉斗が言った。
「いきなりなんだよ」
「西園寺が走って行った方向だがまだ建築中で危険だ」
「な、やべえじゃねえか」
「早く西園寺を止めないと最悪の事態に」
やばすぎだろ。
「隼人君、早く追いかけてください!」
「桜崎に言われなくてもわかてるよ」
俺は急いで西園寺を追った。
「西園寺ー!」
「追って来てまでトドメを刺したいんですの! 止まりませんわ!」
なんか勘違いしてやがる。てか、トドメって俺は殺人鬼か。
「待て~! その先は危険だ!」
叫ぶが西園寺は止まらずに建設区域に入ってしまった。鉄骨が組まれておりいつ落ちてもおかしくないのもある。
「クソ、急がねえと。俺に負けたまま死なれたら俺が殺したみたいだろうが!」
更にスピードを上げて西園寺を追う。幸い西園寺が疲れていたのもあって追いつけそうだ。
その時強風が吹き鉄骨が西園寺に向かって落ちてきた。
「きゃあああああ!」
西園寺の悲鳴が響く。その時何とか追いつけた。
「クソ、間に合えよ!」
俺は西園寺を抱えるようにして飛んだ。
ドーン! ガラガラ!
もの凄い音をたて鉄骨が地面に激突し粉塵が舞う。
「なんとか、間に合ったな」
西園寺は俺の下にいる。端から見れば押し倒したように見えるのだが誰もいないので考えないことにする。てか、助けたのだからいいだろう。
「おい、大丈夫か?」
西園寺に声をかける。一見無事のようだが本当はどうかわからない。
目を瞑っていた西園寺が目を開けた。
「な、ななな!? あなたは何をしていらっしゃるのですか! 早く退きなさい!」
「それだけ元気なら大丈夫そうだな」
俺は立ち上がって埃を払う。そして西園寺に手を差し伸べる。
「え?」
「ほら、つかまれよ」
「ひ、一人で立てますわ!!」
西園寺は立ち上がって周りを見た。
「もしかして助けてくれたのですか?」
「ああなんとかな」
「なんでですの、私は敵ですのに」
「そんなの関係ないだろ。助けられるのに助けないなんて有り得ないだろ」
まったく。
「そ、そう」
はあ、疲れた。ん?
「おい、西園寺お前なんか顔赤いぞ大丈夫か?」
顔の真っ赤な西園寺に聞いた。
「な、何でもありませんわ!」
「そうか、ならいいがなんかあったら言えよ」
「わかりましたわ」
それからすぐに劉斗達がやってきた。
「大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ劉斗」
「もう、僕は心配で心配で!!」
金ぴか馬鹿に言われてもうれしくないな。
「大丈夫ですか?」
遅れで桜崎が来ていった。
「大丈夫だ」
「ふう。大丈夫そうね」
「だから言ったでしょう。隼人は大丈夫って」
綾崎と赤羽が言った。
「さて、とりあえず片付けないとな、セバスチャン」
「何ですかお坊ちゃま」
「片づけを手伝ってくれ」
「イエスマイロード」
そのあとセバスチャンの手伝いで片付けて解散となった。いつの間にか佐藤会長と永城先輩はいなくなっていた。いつの間に帰ったんだよ。
帰るとき西園寺が言った。
「私諦めませんわ。必ず生徒会長になってそして……」
「そしてなんだ」
「秘密ですわ」
そう言って西園寺は帰って言った。
「何なんだ?」
全くわけわからん。
「隼人く~ん! 帰りますよ~!」
「ああ」
俺も帰った。今日は疲れた。帰ったらすぐ寝よう。
****
西園寺暦の家。
西園寺暦が自室のベッドに寝転んでいる。
「六道隼人か」
考えた瞬間西園寺暦の頭が沸騰する。
「うう、やっぱり私は――」
枕に顔をうずめて呟いた。
「――好きになってしまいましたわ」
勝負の中で芽生える友情があれば勝負で芽生える恋もある。
乙女の恋は始まったばかり……。
「絶対誰にも負けませんわよ」
そして乙女の戦いは始まる……。
****
佐藤帝は生徒会室にいた。
「まさか、あんな結果になろうとは予想外だ」
だが、佐藤帝は楽しそうに笑っていた。
「言う割りには楽しそうですね帝」
永城雄太が言う。
「まあな」
「ですが、帝、恋する乙女を甘く見ないほうがいいですよ」
「経験がありそうな言い方だな」
「ええ、帝と違ってね」
「バカにしてんのか」
「いいえ」
実際はバカにしている。
「まあ、いい。それならそれも利用するまでさ」
佐藤帝、彼の本当の目的は彼しか知らない……。
「まあ、恋する乙女には注意ですよ」
「わかってるよ。そんなことは」
「そうですかでは」
永城雄太は生徒会室を出て行った。
「さあて、次の手をさすとしよう」
テーブルの上にあるチェス盤の上の駒を動かす。
「さて、この手でどうなるかな」
また、一手駒を動かす佐藤帝。
「神さまには負ける気はないけど。まあ、全てはこのクイーンしだいかな。まあ、何回かやれば大丈夫だろう」
クイーンを手の中でもてあそびながら言う。
「そのための準備はちゃくちゃくと進んできた。君がどんなに拒絶しようとも俺はあきらめないよ」
空中に向けて言う。
「全てわかってる君だからこそだよね。ねえサヨ」
沈黙が部屋を支配した。
「そう、了承してくれるの? ん? ああ、君の自由にして構わない」
何かに頷く佐藤帝。
「そうならないように祈ってるよ。それに俺の計画さそれも想定してるとは思わないのかいい?」
笑う佐藤帝一人でなにをしているのだろうか。
「そうかい、それならそれでいいよ。いつ出てくるかも君しだいさ。それじゃあ、がんばってね」
佐藤帝はクイーンを放り投げ生徒会室をあとにした。
何か知らぬ間にお金持ちが増えて来たような。
ブルジョアめ、うらやましい