第六十五話 真実
気がつけば、あの夢の世界であった。漆黒の闇が支配するどこまでも続く空間。そこに一つだけある桜の木。そして、鈴梨さんが立っていた。
「やっと、このときが来たのね」
「…………」
「私はあなたに恨まれても仕方のないことをした。直接的にではないけれども。だけど、そう、全て私のせい」
「どうして……どうして、こんなことになったんだ」
「うん、全て話すわ。どうして、こんなことになったのか。そう、あれはうんと昔の話よ」
鈴梨さんが、話す。
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遠い昔、遥に昔、まだ、世界が君が住む世界だけでなく、いくつもあった時の話。普段人々は、その世界についてまったく知覚しないで生きていた。だけど、科学が進歩していくと、ある一人の男が世界は一つではないことを知ったの。それが、私の叔父六道元帥。彼は、当時子供だった私の能力に目をつけ、とある世界を観測した。
正確には、それは世界と世界の狭間、人の心、夢の世界でもある。1と0が同時に存在する、質量があり、質量のない、無限と有限が同居する領域。ゼロ領域。彼や、大人になった私はそう呼んだ。そして、そこでは、あらゆる望みをかなえることが出来ることがわかった。
その前に、世界を移動するシステムが造られた。それにより、世界は更に広がりを見せる。そして、世界を人間の手で作り出すシステムを作り出してしまった。その発見に人々は狂喜し、欲望のままに自分に都合の良い世界を作り始めたの。
でもね、この世界には、本当に無限なんて、なかったのよ。ゼロ領域は無限であるとともに有限でもある。その領域の容量を超える世界を私たちは生み出してしまったの。そのために、神と呼ばれる存在は、ゼロ領域を守るために、世界を喰らうものと呼ばれる世界を喰らう存在を生み出した。この存在は神にとっても切り札だった、だけども予想外な存在に進化してしまったのよ。
だけど、今はそれは関係ない。人間もただ殺されるだけじゃなかった。私の能力を使い、神を殺そうとした。だけど、結果は見ての通り、殺しきることなんて出来ず、あの桜に封じ込めることしか出来なかった。そして、世界は滅んでしまった。生き残ったのは私と、一人の赤ん坊だけ。
私は最後に一度だけ、世界を作り出した。もう二度と、あんな間違いの起こらない世界を。だけどね、何事にも完璧なんて言葉なかったの。私が作り出した世界は欠陥だらけ。神の居ない世界。だから、神が押さえ込んでいた負が世界にまみれ始めた。
私は世界を守るため、赤ん坊を贄としてしまった。世界中の負を一身に背負って、世界を存続させるための生贄に。それが、桜崎家。それ以来桜崎家は負を背負う一族となった。六道家はこの世界を見守るために、私の知識と、能力、鋼を残した。いつか、この世界を救ってくれる存在が現れると信じて。そして、それがあなた。
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「――それがあなた」
荒唐無稽な話。狂っているそんな一言で片付けられるであろう話。だが、それが、真実であると、鈴梨さんの目が、俺の左目が語っていた。全て事実と。
「…………」
「わかるでしょう。これが真実だということは。今が、その時。そして、あなたを覚醒させるために、六道銀杏と佐藤帝は行動を起こした。あなたの友達がみんなありとあらゆる世界で消えて行くのはそれのせい、全ては、この世界を正常な状態に戻すため」
「…………ざ……な」
「…………」
「ふざけるな!!!」
鈴梨さんに掴みかかる。
「ふざけるなよ!! 何で、そんな理由で、あいつらが消えなくちゃ、死ななくちゃいけないんだよ!!! しかもそれが俺のせいだとふざけるのも大概にしろ!!!」
「そうよね、あなたが怒るのもわかる。うらまれるのもわかる。あなたはそうやって何度も私にそう言って来た。だから、わかる。でも、あなたは選ばないと行けない。この世界に神を戻すのか、戻さないのか。戻さないとき、桜は枯れる。戻すと咲く。神を戻せば、私たちの世界は全て否定され、破壊され存在すら残らない。だけど正常な世界に戻る。戻さなければ、あなたはまたやり直すことになる。同じ日々を
。さあ、選んで」
「選べるかよ!! どうして、俺なんだよ!! もっとほかの奴がいただろうが!! そんな大切な選択俺が出来るわけないだろ!! 俺は……俺は…………」
「あなたの過去は知ってる。大切な女の子、彼女と親友、どちらかだけしか助けられない。そんなとき、あなたに選択が委ねられた。結果、あなたはどちらを選ぶことさえ出来ずに両方を死なせてしまう。その選択をさせたのは六道銀杏だったわね。それで誰とも本気で関わろうとしなくなった。だけど、彼女桜崎結衣と関わったことで、変った」
そう、六道銀杏が昔、言った。助けたければ、片方でも助けたければ選択しろと。思えんば、このときのために、あいつは俺に選ばせようとしたのかもしれない。結局俺はどちらも選べず、死なせてしまった。どうしてだと言われたら、どちらか片方なんて選べなかったから。人に優劣なんてつけられるはずない。あのときの俺はそう思っていたんだから。
高校に入るときには、姉貴のおかげでだいぶマシにはなってたんだ。かなり昔だったし、記憶も薄れてた。だけど、決して忘れることは出来なかった。それが、あいつらと過ごしてるうちに変った。思い出さなくなった。乗り越えたのかもしれないと思っていた。だけど、それは違った。
俺は鈴梨さんを離した。
「俺は変ってなんかいない。ここでも選べないんだから…………」
「…………あなたは変ったわ。私が言ってるんだからそれは本当。ただ、気がついてないだけ」
「そんなわけないだろ!!」
「あるわ。さあ、選んで」
その言葉が、昔と同じ言葉が、俺の胸に深く突き刺さった。