第六十四話 全てが消え失せる
「落ち着きな。その小娘はそうなる運命だったんだよ。お前が気にすることじゃない。お前はお前の心配をするんだな」
六道銀杏はそう言い放った。無情で無慈悲な言葉だ。
「何なんだよ! あんたは何なんだ!! 勝手に出てきて、何を企んでるんだ!!」
「黙りな。六道を継ぐ者なら、これくらいのことで慌てるんじゃない。問題はない。お前がうまくやればな」
意味がわかんねえ。こいつは何を言っている。俺がうまくやれば問題はないだろ。何をやれってんだ。こいつらは俺に何をやらせたいんだ。
「…………」
「納得が行かない言った顔だな」
「ははは、当然だね~」
こいつら何を考えてやがる。
「怒らない怒らない。まずは、その子を寝かせるのが先だと思うけど?」
悔しいが佐藤帝の言うことがもっともだ。先に保健室へと桜崎を背負い連れて行く。桜崎を寝かせてから生徒会室に戻った。
「それで、どういうことだ。話してもらえるんだろうな」
「フフッ、話すさ。その前に、君は選ぶ必要があるのさ」
「どういうことだ佐藤帝」
「そのままの意味だ。ここからは銀杏に任せるとしよう」
六道銀杏を呼び捨てか。佐藤帝いったい何者なんだ。
「さて、隼人。お前は私の後を継がねばならない。ゼロ領域で、その全てを、彼女に聞いてくるのだ。我らが守りし鋼を受け取ってな」
「何だと」
「鋼とは、こやつら四家が守りし、六道の秘宝。六道鈴梨様が作りし力だ」
「待て!」
待て、今、なんて言った。鈴梨? 確か、どこかで聞いたことがある。…………あああああ、そうだ、夢だ。あの夢で、鈴梨という人物は出てきた。そう、確かに夢である。なのにどうして、ここで出てくる。しかも、俺の祖先みたいな位置づけで。
「その様子ならば、お前は会ったようだな。お前たち」
「「「「はい」」」」
四家の当主が俺の前に跪き、四色の球体を差し出す。
「私が白の家に伝わりし、創造の白き鋼、白鋼」
「私が黒の家に伝わりし、破壊の黒き鋼、黒鋼」
「俺が青の家に伝わりし、強化の青き鋼、青鋼」
「僕が赤の家に伝わりし、遠見の赤き鋼、赤鋼」
「「「「どうぞお受け取りください。新たな当主よ」」」」
一歩、後ずさる。
何だ、何だ、何なんだ。何が起きてんだよ。おかしいだろ。何が起きてるんだよ。俺が今当主になれ。そして、それは何だ。その白鋼とか、そんなのは知らない。何なんだ。
いや、思い当たる節はあった。あの、夢で見た。風景を変えたあの白い光。もし、あの夢の鈴梨さんが、六道鈴梨本人ならば、あれが、創造の白鋼と言うものの力なのだろう。あの人はいずれわかると言っていた。それが今なのか? くそ、誰でもいいからまともに説明してくれ。頼むよ。誰でもいい。劉斗でも馬鹿でも、赤羽でもかまわない。…………来るわけないか。そもそも、あいつらが事情をしっているはずがない。
「何なんだよこれは……」
「これが、六道の秘宝、六道の歴史。お前がこれを受け取ればお前が知りたいことは全てわかる」
「本当にわかるのか……」
「くどいよ~隼人君。鋼を受け取れば、君は知りたいことの全てを知ることが出来る。たとえ、それが幾度となく繰り返された世界であっても、そのすべてを知ることが出来る」
そんな佐藤帝の言葉は、俺の耳には届かない。ただ、全てがわかる。それだけで、俺はその鋼に手を伸ばしていた。そして、触れた。
「ぐっ!? があああああああああああああああああああああああ!!!!」
痛みが体中を駆け巡る。そして、それが収まった後、膨大な情報が俺の中に流れ込んできた。
馬鹿がクローンということ、赤羽の復讐、劉斗の父親の凶行、狭間先輩の思い、西園寺の思い、琴峰の代償、佐藤のこと。ありとあらゆる世界で繰り返された。たった一つの思い。
「こ、れ……は」
「見えたか。それが、我々が繰り返してきたものだ」
それは、あまりに重い思い。世界が望む結果を残さない。全てが元に戻る。高校の入学式の桜崎との出会いから全てが始まった。そして、それを繰り返す。何度も、何度も。その中で俺はいくつもの世界で、失う。全てを、そして、桜崎を……。
「桜崎!」
俺は慌てて、生徒会室を飛び出した。保健室にはいない。この左目には全て見えていた。身体能力も上がっている。
見つけた。屋上にいる。すぐさま屋上に向かう。桜崎に気がつかれないようにそっと屋上に俺は入った。
「歌え歌え我が君、思うまま、いつまでも、記憶を抱えて、生きていく、季節を、心を包んで。
星に、夢に、空へと、海を越えて、捧げよ。
天月越えてく、空に在りし尊き、我が君。
我は影となりて、永遠と生きる。
私は空になりて、全てを見つめる。
透き通る季節を生きる。
いつもいつも、いつまでも、哀れに思われるこの世界で、一人業を抱えて生きていく。
愛し愛され、永遠の時を繰り返す、そのときに全てを越えて、あなたは飛ぶ。
四つの光を携えて、咲き誇らせよう、その桜を」
桜崎が歌を歌っていた。とても澄んで、綺麗な、そして、どこか寂しげなバラード。
「桜崎……」
「隼人君。約束しましょう」
唐突に桜崎が言う。
「何だ?」
「泣かないでください。もし、私が死んだり居なくなっても、泣かないと約束してくれませんか」
「そんなこと――」
無理だ。そう言おうとしてが、桜崎がさえぎる。
「無理とは言わせません。約束してください」
桜崎は背中を向けたまま言う。
「…………わかった約束する」
「ありがとうございます。これで、もう、何も未練はありせん」
「桜崎!!」
桜崎が倒れた。慌てて抱きとめる。
「おい、大丈夫かおい!」
桜崎から、返事が返ってくることはなかった。そう、これはわかっていたこと。こいつの運命に巣食う癌。世界中の負を集めて、こいつは、それでもわかっていた。自分の体が日に日に蝕まれていくのに。
「桜崎……うあああああああああああああああ!!」
泣かないと約束した? 知るかよ。お前との約束なんて守ったこと一回でもあったかよ。くそが!! どうして、何も言わなかったんだよ。どうして、もっと早く、気がついていれば。それは、同じ後悔。何度も何度も繰り返した。後悔。
「やはり、こうなったか」
そこにはいつから居たのか、六道銀杏たちが立っていた。
「わかったか、その小娘が死んだ理由が」
「…………ああ」
「その小娘は六道の業を背負って死んだ。鈴梨様が作り上げたこの世界は……いや、お前は鈴梨様から全てを聞いて来い」
「じゃ、いっくよ~ん」
そんなことはどうでもよかった。ただ、もう、どうしていいか俺にはわからなかった。
新年一発目の更新です。
皆様あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
さて、挨拶も終わったので連絡を。
次回の更新は十六日を予定しています。
ので、皆さんお楽しみに。
それではまた。