第六十一話 代償
十一月、そろそろ三年生は受験だ。狭間先輩も何とか大学に行くように本気になってくれたようだし。少し、というかかなり遅い気がするけど。それにそろそろ俺たちも進路を考えなければいけない。この頃、水原先生が考えろ考えろといっているからな。それにしても、何も考えていない。一応理系というのは決めてたのだが、どうしようか。世間的に見て、これってまずいのかどうなのか。
「なあ、西園寺は、将来どうするんだ?」
隣で生徒会の仕事をしている西園寺に聞く。こいつなら、色々考えてそうだしな、何か聞けるかもしれない。
西園寺は、俺の質問に少し驚いていた。
「なんですのいきなり?」
「いやな、ほら、狭間先輩そろそろ受験じゃん」
そこで、西園寺がわかった顔をする。まあ、この話すれば誰でも言いたいことはわかるよな。
「なるほど、つまり、そろそろ自分の進路を決めないといけないけど、何も決まっていないから、私に参考程度に聞きたいというわけですわね」
「そうだよ」
西園寺が仕事を一時中断する。
「そうですわね。私は高校を卒業したあとは、外国に留学しようと思っていますの。私は知らない……だから、世界を見てみたいと思ってますの」
西園寺にしては予想外な答えだった。てっきり、さっさと、西園寺グループでも継ぐのかと思っていた。
「なんですの、その意外そうな顔は?」
三白眼で俺を見る西園寺。
「いや、ちょっと意外だっただけだよ」
「まあ、そう思われても仕方ありませんわね」
自覚はあるらしい。そりゃそうか。自分で決めたんだしな。
「そうか…………」
「参考にならなくて、悪いですわね」
「いや、いいよ」
ちゃんと考えているんだなとわかったからな。でも、どうしよっかな俺。
「大変なのだな先輩は」
手伝いに来ている琴峰が言った。この頃、よく手伝いに来てくれる。何でもしてくれるから、役に立っている。馬鹿よりも。
「一年後には、お前もそうなるぞ。何か考えてるのか?」
「うむ、私はもう決めてるぞ」
「そうなのか?」
言っちゃ悪いが意外だな。いつまでも迷いそうなタイプだと思ったんだが。
「ああ、おっと、私はそろそろ失礼させてもらおう。用事があるのだ。すまない先輩」
「ありがとよ」
「では」
琴峰がダッシュで生徒会室を出て行った。床が少しへこんでいる気がするが、まあ、気のせいだろう。人がダッシュしたくらいで床がへこむわけないしな。
「さてと、じゃあ、続きをやりますわよ」
「俺は、まだ、何も参考になることを聞いてないんだけど?」
「そんなのは、また、あとで出来ますわ。今は仕事しますわよ」
「へ~い」
これじゃどっちが会長やら。
**** side琴峰
「ほっ、ほっ、ほっ、ほっ!!」
私は坂道を勢いよく走って下る。普通なら危ないだろうが、私にとってはそんなことではない。簡単なことだ。スピードを落とさず、更にあげて走る。坂を下り終えたら、町の中心街へと向かう。目的地までは寄り道はなしだ。いや、一軒寄るところがあった。少し、道を変えながら走る。
たどり着いたのは花屋だ。ブレーキをかけて丁度花屋の前で止まる。
「あら、琴峰ちゃん。いらっしゃい。いつものでいいのかい?」
人のよさそうだな花屋のおばさんが言ってくる。いつもここの花屋に来ていたから、覚えられたのだ。私は、その問いに頷いた。
「すみません、いつものを」
「そろそろ来るんじゃないかっと思って準備できてるよ。ほら」
花束を受け取る。
「ありがとう、それじゃ」
それをもって、私は走る。花束がボロボロにならないように細心の注意を払いながら、走る。となりでは、自転車を追い抜いた、ゆっくり走っているな。
二十分くらい走って、私は目的の場所に着いた。町の総合病院だ。受付の人に見舞いに来たことを伝え病室へ。
少し躊躇ってから、病室をノックする。
「誰?」
「琴峰空だ」
「入って良いよ」
ん? 何か期待した人、残念だな。私はそんなにノリがいいほうではないのだ。っと、早く入らねば。病室のドアを開けて中に入る。
「いらっしゃい」
中には、黒髪の少女。名前は、草薙千秋。私の元同級生だ。とある、事情で入院してるから私は毎日お見舞いに来ているのだ。
「空? 誰に説明してるの?」
「読者の方だ」
「そっか、今日からカメラはいるんだったね。あ、それなら、もっと良い格好したほうがよかったかな?」
「といっても同じ入院着ではないか」
何も変わらないと思うぞ。
「わかってないな~。ちょっとした違いがあんのよ」
「そうなのか?」
「そうなのよ」
そうか、結構奥が深いのだな。また一つ勉強になったな。
「では、やり直すか?」
「そうねやり直しましょう」
とういうわけでテイク2を終え、病室に入った。
「具合はどうだ?」
「うん、前よりは調子いいよ」
そうか、それは良かった。確かに千秋は前来たよりも顔色が良い。快方に向かっている証拠だな。
「うむ、それはいいことだな」
「まあ、まだまだ、退院は無理だろうけどね」
「そうか」
入院する原因を作ってしまった身としては、それは少しな。
「そんな顔しないの。あれは私のせいであんたのせいじゃないんだから。いい、あんたが責任を感じる必要はないの!」
「しかし……」
「いいの、私は空が来てくれるだけで、嬉しいんだから」
それは、嬉しいことを言ってくれる。私も、千秋の笑顔が見れるなら、それが一番だ。だって、私はそれだけのことをしたのだからな。
「ほら、また暗い顔する。私がいいっていったらいいの! これ世界の常識!」
「今すぐにでも、世界が消滅しそうだな」
「どういう意味よ!!」
千秋が怒って枕を投げてくる。かわせるがあえてそれに当たる。こういうのも悪くない。
そのあといろんな話に花を咲かせた。いつの間にか空が赤みはじめていた。
「あら、結構話したわね」
「ふむ、そうだな」
「ねえ、ベッドの下にある箱とってくれない?」
「うむ、わかった」
しゃがんでベッドの下を見る。どこにも箱のようなものはない。よく探してみるが、何もなかった。ここではないんじゃないか、そう聞こうと千秋の方を見ると、鈍器を振り上げた千秋の姿がそこにあった。当然、避けることは出来た。相手は病人だ、いくら奇襲とは言え、私なら避けることは出来た。だが、私は避けなかった。頭に衝撃を喰らって、私は倒れた。
「あの人にやれって言われたけど…………あんたが悪いのよ」
そんな千秋の言葉を聴きながら、私の意識は闇に沈んでいった。
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思い出されるのは四年ほど前、中学に入学した頃のことだ。私は一人の少女に出会った。それが千秋だった。
今のように千秋は病院に入院していることはない。何のことはないだたの女の子だった。ただ、ちょっと足が速くて、いつも明るい尊敬できる女の子だった。私なんかよりずっと女の子らしかった。そんな私たちの出会いは、廊下でぶつかってから始まった。
どこのラブコメだと言いたいが、出会ったのは女子同士、そして、両方陸上部に入るつもりだった。だからすぐ、友達になれた。
だが、そんな幸せな時間は長くは続かなかった。練習中の事故だった。私たち、二人は転倒し、そして、千秋だけが、再起不能となった。正確にはそのあとの治療が悪かったそうだ。そのせいで、千秋は走ることが出来なくなった。
そう、私のせいだ。あの時も言っただけど、千秋はそれを否定した。私のせいではないと言った。ただの事故だと。だけど、走れないから、変わりに私に走ってと。
だから、私は走った。ひたすら走った。走って走って走った。その結果がこの化物じみた脚力と足の速さだった。笑ってしまうな。友達が走れなくなって、私は化物になってしまったんだから。
だけど、私は走ったのだ。千秋のため、千秋のためと。でも、本当は、許されたかったのだ。走って代わりに賞を取ればいずれ許されるだろうと。
だが所詮は小娘の甘い考えだったのだ。その結果がこれだ。私は千秋に刺された。でも、これでいい。これで千秋の気が済むのならこれで。
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「うぅ」
「あら、お目覚め?」
目をあけると、目の前には千秋が居た。しかし、場所は病院ではなく、どこか廃墟の中だった。体は動かない。何かで固定されているようだ。そして、まだ、私は生きている。
「まったく、あんたも丈夫よねえ。まあ、そっちの方が楽しめていいんだけど。じゃあ、さあもっとアンタにはくるしんでほしいから、さあ」
轟音が響く。千秋がチェーンソーを持っていた。ああ、そうか。
何をするかよくわかった。
「じゃあ、さあ、悲鳴でもあげちゃえばぁ!」
激しい痛みが何度も何度も、繰り返され、そして、終わった。
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「なあ、琴峰最近見ないな」
仕事をしながら、西園寺に言う。
途中で帰ったのを境に、琴峰はここから姿を消した。
「そうですわね……どうしたんでしょうか」
「わからないな」
思えば、俺たちは琴峰のこと何も知らなかった。あんなに一緒に過ごしていたはずなのに、何も知らなかった。気づいてみれば。
「どうしたんだろうな……」
琴峰がこの先姿を見せることはなかった。
はい、どうもテイクです。
来週から一週間ほど、用事で出掛けるので執筆が一切出来ないため、二週間ほど更新できなくなります。
ので来週と再来週の更新はお休みしたいと思います。