第六十話 裏切られた少女
十月、文化祭が終わった季節だ。みんな達成感で溢れている。そんなわけでそれで事件がおきないようにと西園寺ともに校内の見回りに来ていた。西園寺がこういうことはきちんとしないといけないと強引につれてこられたのだ。だが、どこか西園寺の様子がおかしい。
「見た感じじゃ何もないな。なあ?」
「…………」
「おい、西園寺?」
「は、あえ、なんです?」
疲れてたのか? ボーとしてたな。珍しいな。
「いや、だから、見た感じじゃ、何もないよな」
「え、ええ、そうですわね」
「お前、大丈夫か?」
こんなとき西園寺なら何かあるはずと探しに行きそうだと思うんだけど。それに俺に突っかかってくるだろうし。
「大丈夫ですわよ」
そうとは思えないから聞いたんだけどな。
「そうか? まあ、お前が言うならそうなんだろうけど。何かあったら言えよな」
「ええ」
「さてと、じゃあ、次行くか」
そのあとも見回りを続けた。その間も西園寺の様子がおかしかったような気がする。
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翌日、いつものように登校する。登校途中で西園寺と会った。このごろよく会うな。
「あら、六道隼人。おはようございますわ」
「ああ、おはよう西園寺」
昨日のようなおかしな感じはない。どうやら治ったようだ。
「大丈夫みたいだな」
「なにが大丈夫なんですの?」
「いや、昨日様子がおかしかったからな」
「まあ、色々あったんですのよ」
昨日は心配したが大丈夫みたいだからな安心した。
「そうか」
「それよりも六道隼人。あなた、放課後用事あります?」
「? いや、ないけど?」
「そう、それなら、ちょっと生徒会室で待っていてくださいな。じゃあ、先に行きますわよ」
それだけ言って西園寺は坂を駆け上っていった。
「放課後何かあるのか? まあ、いいか」
まあ、考えても仕方ないので放課後を待つとしよう。こういうとき小説とかなら一瞬で放課後になるだろうが現実ではそうは行かないからな。
「おはようございます隼人君」
「ああ、おはよう桜崎」
やって来た桜崎と挨拶を交わす。
「さっき暦ちゃんと何を話してたんです?」
「ん? なにか用事があるから放課後残っててとさ」
「へ~、もしかして告白だったりして」
西園寺に限ってそれはないだろ。うん、絶対にないな。というかあいつが告白するならさっさと言うだろ。放課後に残るとかまどろっこしいことしない気がするぞ。
「隼人君は女心がわかってませんね~」
「男だからな。わからないよ」
「はあ~駄目駄目ですね~」
「お前にそこまで言われる筋合いはない」
失礼だなまったく。このピンクのおばけめ。
「それこそ失礼です!」
「もう、大分前の話だけどな。唐突に思い出した」
「む~」
むくれる桜崎。
「喰らえひっさ――」
「そんな攻撃は読めている!!」
「――ぶべら!!」
後ろから飛んで来た馬鹿を蹴り返す。
「ったく」
見るとリムジンが来ていた。劉斗に引かれた威力のまま俺に突っ込んできたのかよ。俺よく蹴れたな。下手をしたら骨折れててもおかしくないぞ。というか俺ってそんなに身体能力高かったか?
「悪い飛ばしすぎた」
劉斗がリムジンから降りながら言った。
「別にどうもなかったからな。今度から気をつけてくれよ」
「わかっている」
「お!」
眠そうに歩いている狭間先輩を発見した。
「う~。眠い、きつい」
「おはようございます狭間先輩」
「う? あ~おはよう~はやてくん」
「隼人です。どこぞの借金不幸超人執事と同じにしないでください」
「ごめん、かんだ~」
いや、寝ぼけてるだけだと思います。
「この頃眠いしやる気が起きない~」
「いつものことでしょう」
言ったら悪いけど。
「今日はいつもよりだるい~」
まあ、それで良いのならいいんだけど。来てるだけましだし。九月はもう、本当に休みっぱなしだったからな。引っ張ってくるのが疲れたよ本当に。
「それについては謝罪~。ちょっとした気の迷い」
気の迷いで不登校にならないでください。そのおかげで無駄に疲れたんですから。
「でも~、君に何か伝えるためだったような気も~?」
なんですかそれは。何も伝わってませんよ。疲れは伝わりましたけど。
「何を伝えたかったです?」
「ん~さあ?」
さあって、狭間先輩が何か伝えたかったじゃないんですか。
「まあ、いいよ~思い出したらいう~」
そういわれたら物凄い気になるんですけどね。まあ、いいか。狭間先輩だし。靴箱で上靴に履き替え教室に向かった。
「さて、HRをはじめるぞ」
水原先生が始める。
「今日は諸事情により午前中で終わりだ。理由は聞くな」
なんだそりゃ。それでもバカはよろこんでいるが。俺は納得がいかない。
「まあ、私も釈然としないからな。てなわけでHRおわりだ授業遅れんなよ」
水原先生が教室を出て行く。
「なんなんでしょうか?」
桜崎がやってきて言った。
「さあな」
なにやらこういうのは佐藤帝が裏で糸を引いてる気がする。まあ、あの人は卒業したんだしそんなこともないと思うけど。佐藤からそんな話も聞かないし。
「何もなければいいんですけど」
「そう心配するなよ。あの理事長だぞ何があっても不思議じゃないが仮にも教育者だ俺たちには何もないだろうさ」
たぶん。あの理事長なら生徒気にせずに何かしそうで怖いのは事実だし。
「それだから信用できないんですけど」
同感だ桜崎。
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そんなこんなで放課後。
「本当に四時間で終わりやがったよ」
さて、それなら生徒会室に行くか。西園寺が呼んでたし。なんだろうな。
生徒会室に向かった。生徒会室に入るとそこには西園寺がいた。
「遅いですわよ」
「これでも急いだって」
実際はまあ、購買でパン買って食ってたんだけどね。だからそれなりに遅いけど。それ言ったら色々うるさそうなので言わないでおこう。
「それで何の用なんだよ」
「あなたの家に止めていただけませんか」
「は!?」
そのときの俺の顔は相当間抜けだったと思う。
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そして場面は家に。リビングで俺と西園寺は向かい合っていた。誰もしゃべらないので無言の空間が形成されている。
「ふ~ん、あなたこんなところに住んでいましたのね」
先に口を開いたのは西園寺であった。
「悪いかよ」
「いえ」
どっちだよ。それにしても西園寺のやつどうしたんだか。
「どうかしたのか?」
「いえ、単純にあなたの家に泊まりたかっただけですわ」
これはどういうことだ。なにが起きているんだ。
「そ、それはどういう意味?」
「ここまで言ってわからないなら、相当鈍感ですわね」
……つまりは、そういうことなんだろうけど。こいつならもっとストレートに良いそうなんで驚いている。
「あ、いや」
「冗談ですわよ」
「おい……」
からかうのはやめてもらえないだろうか。
「面白かったんでついですわ」
「お前もこういうことするんだな」
人をからかったりとかしないと思ってたよ。お嬢様だし。からかったところ見たことないし。俺が見てないところであったのか?
「あら、私も人ですのよ。少しはありますわよ」
「そりゃそうか、そうだよな。で、本当になんでうちに泊まりたいとか言ったんだよ」
「それは本当に聞きたいんですの?」
いや、聞きたいから聞いてるんだけど。それ以外の理由はないよな。
「ああ」
「少しあなたの生活が見たかったでダメですか?」
どうやら、何があっても本当のことを言わないつもりらしい。
「はあ、わかったよ。泊まっていけ。部屋は余ってる」
「もとよりそのつもりですわ」
やれやれ、何なのやら。
「そうそう、ねえ、あなた、私のことどう、思っていますの?」
「どうって……」
「真剣に答えてほしいですわ」
どう、答えろと…………。
「ふふ、冗談ですわよ」
それから色々あったが真夜中。
side西園寺。
「ふう」
深夜、みんな眠りについていることですわね。この部屋の隣では六道隼人が寝ているはずですわ。
「さて、行くとしましょうか」
そっと、部屋を出る。どの道、ここに来たのは単なる気まぐれなのですから。
「どこ行くんだ」
「!?」
部屋の外に六道隼人が居た。
「どうして…………」
「別に、ちょっとのどか湧いたからな。どこに行くんだ」
「アナタには関係ありませんわ」
「確かに関係ないが、お前は俺の友達だろ。何かあるなら、助けになる」
「そう…………友達ね……」
やっぱり、その程度ですのね。まあ、わかっていましたけど。
「それなら、邪魔しないで下さる。私にはやることがありますの」
「じゃあ、なんで、俺のところに泊まりに来たんだよ」
「それは……」
それは……。
「ただの気まぐれですわよ。だから、気まぐれで帰りますわ」
「…………待てよ!」
「あなたは私の友達なんですのよね。なら、私を止める権利はありませんわ、それじゃあ」
私はそれきり、何も言わず六道隼人の家を出た。
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「なんなんだよ。クソ!」
西園寺はあんなこと言う奴じゃない。なら何か事情があるはずなんだ。それなのに、俺は動かずに何をやってるんだ。クソ。
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「…………」
私は町のはずれにやって来た。雨が降っている。私は濡れるのも構わず歩いている。
「ふう、もう、私には何もないんですのね」
正直に言えば、六道隼人と一緒に居たかった。だけど…………。
「もう、無理ですわね」
西園寺の家は、もう、ない。先代は死に、財産も、何もかも、取り上げられた。裏切りという形で、もっとも信頼するあの子に裏切られた。
結局のところ、私は、六道隼人に慰めてもらいたかったのかもしれない。こんなこと、言えるわけないのに。
「本当に、私は何も持っていなかった。全て与えられたもの。それがなくなれば、私は…………」
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そして、西園寺はいなくなった。
「おい、西園寺、どこに行った。お前、まだ、俺の答え聞いてないだろ」
早いものでもう、六十話。ここまで読んでいただきありがとうございます。
あ、何か終わりそ。この語りなんか終わりそう。別に終わりませんよ。
まだまだ、天咲は続きます。これからもよろしくお願いします。