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天の桜が咲く頃に  作者: テイク
第六章 始まる悲しみ
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第五十九話 ゆれる天才

 9月、夏休みも終わり新学期。三年生である狭間先輩たちは受験に備えて大変な時期へと入ってきた。でも狭間先輩は相変わらず勉強なんかしていないし下手をすれば授業にすら出てないんじゃないかと思う。そしてそれは現実のことだった。


「え、狭間先輩が授業に出てない?」


 昼休み三年の先生に呼び止められて職員室に連れ込まれて何の話かと思っていたらそれは狭間先輩のことだった。話を聞いた限り夏休みが終わってから一回も授業に出てないらしい。それで知り合いで生徒会長の俺に話しに来たそうだ。


「そうなのよ~。本当に何を考えれるのかしら」


 若い女の先生が顎に手を当てて考える。


「あの子頭はいいのよね。それも学年トップで。でも、どこか何考えてるのかわからないところとかあったんだけどね。授業に出ないのはいつものことだけど夏休み前は必要な授業には出てたし。ほとんど留年免れてたのはテストの点数だし」


 確かに授業に出てる姿は想像できないけど。


「それでも今までこんなことはなかったわ。あなた何かきいてない?」

「いえ、そもそも、そんなことも初耳ですよ」

「そう、あの子、生徒会と仲良かったみたいだし。何か知ってると思っただけど」


 生憎そこまで詳しくはない。


「すみません」

「いいのよ。じゃあ、何かわかったら教えてね」

「はい」


 職員室をでる。向かう場所は決まっていた。


「狭間先輩」


 魔窟新聞部部室。そこへ入っていく。


「狭間先輩!!」


 返事がない。いないのか? いや、それはないな。奥に入っていく。


「狭間先輩!!!」

「ん、う~ん、く~」


 狭間先輩は部屋の奥で気持ちよさそうに寝ていた。珍しく部屋の温度は通常通り。つまり全ての機材が止まっているということ。本当に珍しいことだ。このまま寝かしてあげたくなるよ。本当に。でもそういうわけにはいかない。


「起きてください狭間先輩」


 狭間先輩の体を揺する。


「ん~、すう、すう」


 しかし起きる気配はない。もう一度だ。


「起きて下さい狭間先輩」

「ん~、あとはちじゅうねん~」

「そのまま死ぬ気ですか!!」

「ん? んんんん?」


 あ、起きたみたいだ良かった。狭間先輩がゆっくりと目をあけた。


「あ~、隼人君だ~」

「おはようございます先輩」

「うん~?」


 なんかまだ寝ぼけてる気がするな。なんか、ゆらゆらしてるし。


 がばっ!!


「ん!? んんんん!?」

「んっ、んっ、んっ」


 いきなり唇を奪われた。やっぱり寝ぼけてる。引き離そうとするが狭いからにあまり力入れすぎて狭間先輩が機材に頭ぶつけたら危ない。そのため引き離せない。


「ふう」

「ふはっ!!」


 しばらくしてようやく解放された。その間ずっと口付けされていた。まともに狭間先輩の顔が見れない。


「ごちそうさま~。…………あれ?」


 何かに気がついた狭間先輩。


「わわ!?」


 いきなり離れる狭間先輩。ようやく起きたようだ。


「ゆ、夢じゃなかった?」

「…………」


 俺には答えられません。狭間先輩はこの沈黙を肯定と受け取ったようで頬が赤く染まっている。これは珍しいってまあ、たぶん俺もなんだろうけど。


「…………」

「…………」


 誰でもいいからこの沈黙を何とかしてほしいと思った。この時ほどあのバカの馬鹿(うましか)の存在がほしいと思ったことはない。いつもはいらないけど。


「あの……」

「ねえ……」


 はもってしまいまたも沈黙。が、話を進めないと。


「狭間先輩からどうぞ」

「あ、うん」


 とりあえず狭間先輩の話を聞く。


「えっと隼人君は何でここに~?」

「それは俺の用件にも関わりがあります」

「?」


 俺は言った。


「先輩……なんで授業にでないんですか」

「…………そっか。やっぱりそのことか」

「わかっているならどうして」


 狭間先輩は何も言わない。いや、何か言おうとして躊躇っているかのようだ。


「ん~、色々あるの~。で、隼人君、明日は学校来ないほうがいいよ~」

「え? どうしてです」

「どうしても」


 いつものようにゆるい感じはなく真剣に言った。


「それは、ここの機械が全部止まってることと関係があるんですか」

「ん? ああ、これはもう必要ないから止めてるの。関係があると言われたらあるかもしれないけど直接的に関係があるわけじゃないよ~」

「じゃあ、どうして……」

「私がしなくちゃいけなから。見てしまったから」


 いったい狭間先輩は何を見てしまったのだろうか。それはとても重要なことを見たのだろう。


「それにこうしなければ無限ループは終わらない。開幕すらしてないのだから」

「何を言ってるんです……」

「次に残す言葉。君のあとに続く君に残す言葉」


 何を言ってるんだ。意味がわからないぞ。いつも狭間先輩は何を考えているのかわからないけど。今は一層わからない。


「…………君はまだ、スタートラインにすら立っていない。全てが終わって初めて始まるの。だから、そのときは思い出して全てを。全部を見て。悲しまないで全てを変える選択をして……」

「意味がわかりません!!」

「いいの、今はわからないくても。さてと、そろそろチャイムなるよ」


 キーンコーンカーンコーン


 丁度チャイムが鳴った。


「早く教室に戻らないと遅れるよ」

「いや、まだ話は!」

「ほら、早く」


 有無を言わせぬ口調で俺は部室から閉め出されてしまった。


「……」


 とりあえず教室に戻ろう。話をするのは放課後だ。


 俺は教室に戻った。


 しかし、放課後狭間先輩に会いに行ってもとりあってはくれなかった。


****


 翌日、早朝。部室。狭間由宇side


「いいのかい?」


 佐藤帝が私に言う。私は頷いて答えた。本当は昼間にやろうと思ってたけどだれも巻き込まないほうがいいからね。


「そうかい? まあ、いいけどさ、本当にこれで終わると思ってるの?」

「……思ってはいないけど。少なくともこの××××では終わる」

「そうだねこの××××では終わるね。だけど、××××を救うことは出来ないよ」


 確かに、この××××で救えたとしてもあの××××では救えない。


「だけど、大丈夫だと信じてるから」

「そう、じゃあね、俺は帰るよ」

「うん」


 佐藤帝はかえって行った。


「…………」


 私はパソコンを起動させてとある画面を開く。開いた画面はとある衛星兵器の発射コード入力画面。


「……」


 パスワードを入力する。そして発射プログラムを起動させる。


「願わくば全てが幸せでありますように」


 発射を指示した。


 世界は光で包まれた。


****


『本日早朝、衛星軌道上対地上広域殲滅兵器ツクヨミが何者かにハッキングを受け発射された。衛星軌道上対地上広域殲滅兵器(ツクヨミ)は精密に計算された発射命令を受けていたらしく影響は攻撃目標彩上高校のみにとどまっている。ようで今のところ重傷者など被害は不明――』


 早朝のニュースを聞きながら俺はそのハッキングを仕掛けたのが狭間先輩だと思った。なぜかはわからないけどはっきりと確信が持てた。


「…………何がしたかったんですか狭間先輩」


 そして狭間先輩とは二度と会えないであろうことを。

 彩上高校跡地に来ていた。何もかもなくなっていた。原型すらとどめていない。桜崎と見たあの桜も消えていた。完全に。生徒会室、教室、部室。何もなかった。


「狭間先輩」


 部室跡地にはあの機械の名残と思われる解け残った破片が落ちていた。ふと拾い上げていると無事残っているものが見つかった。カプセルだ。開けてみるとそこには手紙が入っていた。手書きの始めてみる狭間先輩の手書きの手紙だった。その中には――。


『隼人君へ。きっとこの手紙を君が読んでいるとき私はこの世にはいないと思います。あ、もし、私が生きてたら読まないでね~。恥ずかしいから。えっと、どうしてもこれだけは伝えたかったからこれを残しました。きっと隼人君はなんで私がこんなことをしたのか気になると思います。だけど気にしないでください。これはみんなのためになると私は思っています。今はそれだけしかいえません。あそうだ、言いたいことまだった。そうそう、隼人君にはいえなかったけど私には両親がいません。私が子供のときにみんないなくなってしまいました。そしてこれはきっと運命。意味がわからないね。たぶんごめんね。文章って難しい。ふう、もう、最後でいいや。最後だけど言うね。ずるいといわれるかもしれないけど。私は隼人君が大好きです。狭間』


 ――と書かれていた。


「……ずるいですよ」


 本当に。どうしてあなたはそんなにずるいんですか。


「これじゃ、俺返事できませんよ……」


 俺は忌々しいほど澄み渡った空に咆哮を上げた。


 

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