第五十七話 壊れた野望と悲しき性
七月、夏だ。外は仕事熱心な太陽のおかげでかなりの暑さだが冷房が完備された生徒会室は快適…………ではなく馬鹿が無茶な使い方をしたせいで壊れている。そのため窓を全開にしている。だが、熱気が入ってくるだけで効果はない。ものすごい不快だ。
「今日は南雲劉斗は休みのようですわね」
西園寺が生徒会室を見回しながら言った。
「そうだな」
こんな暑さだから逃げたのだろうか? ありえるな。アイツなら。
「嫌な感じですわ」
「ん? なにが?」
何か嫌なことでもあるのだろうか?
「馬鹿何か知らないか?」
「ん? 知らないよ。夕菜は?」
「私も知らないわよ」
劉斗、お前も、何かあるのか? ん? も? なんだ、他に何かあったか?
「劉斗」
俺は放課後、生徒会の仕事が終わったあと。劉斗の家を訪ねた。まるで人の気配が感じられない。
「何があったんだ」
ふと、玄関に何かがはさんであった。
「手紙か」
『おそらくこの手紙を読んでいるのは隼人だろう。この手紙を読んでいるときには我はお前達の前にはいない。これからも戻ることはない。別れを言えないことは残念だが、まあ、これが我だ。探すなよ。お前には見つけられない。じゃあな』
「何かってなこと言ってんだよ。お前」
南雲劉斗は失踪した。
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「よいのですか?」
セバスチャンが我に聞く。
「ああ」
「そうですか」
我は家をでた置手紙は残した。おそらく読むのは隼人だ。悪いな。お前たちを巻き込むわけには行かないんだ。
「出してくれ」
「イエス・マイ・ロード」
リムジンが発進する。さて、行くとしようクソ親父の下に。
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ここで少し我の昔話をしておこう。
クソ親父――南雲劉魔は狂っている。それはこの南雲財閥を見ればわかる。ありえない技術とありえない財産。ありえないことばかりのこの財閥。我はこの財閥の跡取りとして生まれた。母の名前は南雲由香里。我はあったことがない。我が生まれたときに死んだらしい。
南雲由香里、と劉魔の出会いはお見合いらしい、どこかのい上流階級の出の由香里と劉魔は一目あった瞬間に恋におちた。二人は結婚し幸せの絶頂にいた。
だが、それも長くは続かなかった。我が生まれたからだ。それと同時に由香里はこの世を去った。劉魔は由香里が死んだのは我のせいだとした。そして狂った。死んだのなら生き返せればいいと。
そんなことはできないことは子供でもわかるのに劉魔にはそんな簡単なこともわからなくなった。それからは劉魔は研究をした。由香里を生き返らせるための研究を。それに必要なことはなでもやった。そうしてこの財閥はここまで大きくなった。いびつで歪んだものになった。
そして我はというとその中で英才教育を受けていた。劉魔の補佐をするために。そして我はこの財閥を大きくすることだけを目的に我は存在していた。劉魔とはほとんど会話をしたことがない。笑えるだろう自分の父親なのにだ。劉魔は我に父親らしいことをしたことがない。我はずっと一人でセバスチャンたちと供に生きてきた。
大昔の話さ。我は何も気にしていない。とうの昔に諦めていた。だが、一度だけあの劉魔が我に父親らしいことをしたことがあった。一度だけほめられたことがあった。それは大昔、まだ、我がガキだった頃。絵を描いたのだ。父親の絵を。へたくそな絵だった。そう、今の我からしたらゴミというレベルの絵だった。なのに、あいつはほめた。その真意を我はわからない。だが、とても嬉かったと思ったのは覚えている。
昔話はここで終わりだ。
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「坊ちゃま」
「ついたのか?」
「はい」
ここは誰も来ない樹海の中の研究施設だ。南雲財閥の全ての資材技術が使われており核ですら破壊することは不可能。
「そうか」
リムジンから降りる。
「セバスチャンは帰れ。もう、我に従わなくてもいい。お前は自由だ」
「いえ、私はここに居ます」
「駄目だ。これは命令だ。ここから去れ」
「このセバスチャン。最初で最後の命令やぶりをさせていただきます。私はその命令には従えません」
「なぜだセバスチャン!!」
その時、周りに家においてきたはずのメイドや執事たちが居た。
「お前たち!!」
「我々の主人は生涯南雲劉斗お坊ちゃまただ一人、たとえここでクビにされたとしても、いくら罵られても、恨まれても、我々はここであなた様の帰りを待ち続けます。皆、気持ちは同じでございます」
「お前たち」
この場に居る全員がうなずく。
「バカだな」
「ええ、バカですとも」
「そうか、お前たちはバカなのか」
「ええ、ですので早く帰ってきてもらえるとうれしいですね」
「そうか、なら、帰らないとな。じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
我は幸せ者だな。
施設の中へと入っていった。
まるで魔物の臓器の中に入っていっているようだ。暗い通路をまっすぐ進んでいく。そのたびに空気の密度が変わり我にのしかかってくる。
「さて、アイツは奥だろうな」
重圧に負けないように気をしっかりと持ってどんどん地下へ降りていく。
「いつ来ても胸糞悪い」
そしていつまでも続くかと思われていた通路が終わり開けた場所にでる。
「まだ、先だな」
この部屋にもクソ親父はいない。まだ、まだか。
さらに先へと進む。悪趣味な円形の筒の中には肉塊が浮かんでいる。元がなんだったのかすら不明なほどの肉塊やまだ、形を残す塊もある。
「つくづく反吐がでる」
行き止まりの部屋にでる。
「誰だ?」
「我だよ。クソ親父」
「なんだお前か。何をしにきた」
「終わらせにだ」
「終わらせる? 何を終わらせるというのだ」
クソ親父の目の前にはひとつのポットその中には母さんの体が浮いていた。。
「その趣味の悪い実験をだ」
クソ親父は我の方を見ないで言う。
「何を言う。由香里を生き返らせることだぞ」
「それのどこがいい趣味なんだ」
悪趣味極まりない。いや、趣味とも言えないな。
「死んだ人間は生き返らない。そんなことは子供でもわかる。わかってないのはお前だけだ」
「ふん、やはり貴様にはわからんようだな」
「わかりたくもないな」
我は静かに拳銃を抜く。
パァン!!
パリィン!!
乾いた音とガラスの割れる音が響いた。
「な、なにをする!! やめろ!!」
静止の声も聞かず破壊を続ける。
「こんなもんやめちまえ」
と全てを破壊する。
「ああ、研究が!! 私の全てが!!」
そして火を放つ。
「これで終わりだ」
これで終わる。これで…………。
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「劉斗。お前どこ行っちまったんだよ」
劉斗が消えて二週間。劉斗の足取りはまったくわからない。
「なにがおきているんだ」
誰にも何もわからないまま。
時は進む。
世界は回る。
それは誰にも止められない。
神という存在はなんなのか。
何を考えているんだろうか。
何もわからない。
ただ進むだけ。
そして、桜は…………