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天の桜が咲く頃に  作者: テイク
第六章 始まる悲しみ
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第五十六話 バカとテンサイ

 六月、梅雨の時期。5月のいざこざのあとも何もなく過ぎた。おかしいほど何もなかった。姉貴はアレ以来何かに取り付かれたように仕事をしている。まるで何かに急かされるように。俺はというとあの計画という言葉。第二段階。あのばあ様が何を考えているのかわからないがこの分だと俺が会長になったことも何か関係がありそうだ。


「なんなんだよ」

「どうしたんですか?」


 俺の呟きに桜崎が反応した。


「いや、なんでもない」


 桜崎達を巻き込むわけには行かない。これは俺の問題だ。


「そうですか」

「それより馬鹿(うましか)はどこに行ったんだ?」

「そういえばいませんね」

「劉斗何か知ってるか?」

「いや、あいつ勝手に帰りやがった」


 おかしいな。黙って帰る奴じゃないんだが。


「そういえばこんなことを言ってたわよ」

「なんだ赤羽?」

「確かあいつが来たって」

「アイツ?」

「それが誰かまでは知らないわ」

「そうか」

「紫苑洋平はアイツが来たっていったのか?」

「そうだけどそれがどうかしたの劉斗?」

「いや、なんでもない」


 その顔は何かあるときの顔だぞ。なにがあったんだ。


「六道隼人サボってないで仕事してくださいですわ」

「ああ、西園寺悪い悪い」

「お友達が心配なのはわかりますが仕事はきちんとしてくださいですわ」

「ああ、すまん」


 それにしても馬鹿(うましか)の奴どうしたんだ? 生徒会の仕事を終えて帰った。

 翌日。学校に行くと。そこには馬鹿(うましか)が何食わぬ顔で登校していた。


馬鹿(うましか)ー!!」

「うわ!! なにどうしたの!!」

「ないじゃねえよ。昨日何してたんだよ」

「何っていろいろ用事があったんだよ」

「それなら行ってからいけよ」

「うん、ごめん」

「まったく、今日はこれるのか?」

「ごめん、無理なんだ」

「そうか」


 何か大事な用事でもあるんだろう。


 ふと劉斗を見るとなにやら険しい顔で馬鹿(うましか)を見ていた。俺がそれを見ているのを気がついたらすぐにその顔をやめた。


「なんだ?」


 何がおきているのだろうか。馬鹿(うましか)の用事には劉斗も関わっているのだろうか。そんな疑問を阻むかのように水原先生が入ってきてHRが始まった。

 昼休み。


「大変よ!!!」

「どうした綾崎」


 綾崎が血相変えて走ってきた。


「洋平が洋平がいないの!!」

「なんだと!!」


 急いで電話をかける。だが。


『おかけになった電話は……』

「クソでない」


 何があった馬鹿(うましか)


「綾崎一体なにがあったんだ」

「それがいつの間にかいなくなってて」

「何かおかしな点は」

「何もないの!!」


 馬鹿(うましか)一体どこで何をやってる。


「どうした?」

劉斗馬鹿(うましか)が消えた」

「なに? まさか」

「劉斗何を知っている」

「………………」

「俺たちに話せないことか」

「…………いいだろう。お前たちにだけ教えてやる。だが、知ったら戻れないぞ」

「…………聞かせてくれ」

「私も」

「そうか。なら来い」


 劉斗についていく。外にでて校門。そこにはリムジンが止まっていた。


「走りながら話そう」


 俺たちはリムジンに乗り走りだした。


「それでどういうことなんだ」

「まあ、まて順番に話す。まず、洋平だが。アイツはクローンだ」

「な…んだと」

「そんな……」

「クローンだ。紛れもないな」


 馬鹿(うましか)がクローンだとどういうことだ。一体どんな目的で作られたんだ。


「それになんで劉斗はそのことを知ってるんだ」

(オレ)の家の状況を考えればわかるはずだが」


 そういうことか。


「それでなんで馬鹿(うましか)はいなくなる」

「アイツのオリジナルが来たんだよ」


 オリジナル。つまりアイツのもとになった奴か。


「名前は天才洋平(あまざいようへい)。もともとコイツは体が弱くてな。それでコイツの父親がろくでもない奴でな。クローンを使い天才(あまざい)の代わりを作ろうとした。遺伝子を操作し人類の到達できない人間を作ろうとした」

「それが馬鹿(うましか)か」

「ああ、そうだ」


 なんだそれは。


「どうして」


 綾崎も同じことを思っているようだ。


「それで馬鹿(うましか)は何でいなくなった」

天才(あまざい)が現れたからだ」

「だが、天才(あまざい)は」

「そう天才(あまざい)は体が弱い。だが……それを克服した」

「なに?」

「どうやら何かヤバイ薬品でも使ったらしい」

「それで、なぜ今になってでてくるんだよ」


 克服したのなら何もいらないだろうに。いや、まて、なら馬鹿(うましか)の存在意義はなんだ? 何のために作られた。まさか……。


馬鹿(うましか)は奴のスペアとして作られた天才(あまざい)を超える存在として。そして天才(あまざい)はそんな馬鹿(うましか)が許せなかった。あとは馬鹿(うましか)の行動にも原因はあった。もともと天才(あまざい)は何でも出来たんだ。それなのに馬鹿(うましか)に自分の居場所を奪われた」

「つまり復讐か」

「そう考えるのが妥当だ」


 チィ、そんなの勝手な逆恨みだ。なんで馬鹿(うましか)頼むから無茶なことはするなよ。

 街外れの廃工場についた。ここに馬鹿(うましか)がいるのか。


「行け、(オレ)が行っても無駄だからな」


 おそらく劉斗はどうなるのかわかっていたのだろう。この先に起こることもその結果がどうなるのかも全て予想ができていたのだろう。それで自分ではどうにも出来ないから俺たちに任せたのだろう。


「ああ」


 廃工場の中に入る。


馬鹿(うましか)!!」

「洋平」


 馬鹿(うましか)が俺たちを見た途端目を見開いて驚く。


「どうして」

「劉斗から全部聞いた」

「そうか」

「ねえ、洋平」


 綾崎が馬鹿(うましか)に近づく。


「南雲から全部聞いた。南雲の話、嘘だよね?」

「…………」


 馬鹿(うましか)は何も言わない。それが肯定を表していた。


「そんな」


 綾崎の顔に悲しみが浮かぶ。


「夕菜ごめん」

「あや……まらないでよ」

「ごめん」


 綾崎の目から涙が零れ落ちる。


「これは傑作だな」


 馬鹿(うましか)とまったく同じ顔の男が現れた。


「お前が天才(あまざい)か」

「そうだよ。俺がそこのスペアのオリジナルだ」

「…………」

「だたのスペアのために涙を流すか」

「洋平はスペアなんかじゃない!!」

「女お前は何も知らないからそんなことがいえるんだ。お前にはわからない。居場所を奪われる悲しみも、名前も、妹も、親も、全てを奪われた俺の気持ちなどお前にはわからない。そこに居るのは自分の物を何も持たない奪うだけの空っぽの男だ」


 天才(あまざい)が拳銃を抜く。


「!?」


 俺も馬鹿(うましか)も身構える。


「夕菜に手を出すな!!」

「黙れ、スペアふぜいが!! 女もこんな男のどこがいい?」

「それでも、そうだとしても私は洋平のことが好きなの!」


 馬鹿(うましか)が瞼を閉じる。


「……気付いてたよ。僕はずっと逃げてきた。だから気付かないフリをしてた。けどそれももうやめる。僕も夕菜のことが好きだよ」

「洋平」

「チッ。つまらない茶番だ。女お前は用済みだ死ね」


 天才(あまざい)が拳銃の引き金を引こうとする。


「夕菜!」

「させるか!」


 俺は鉄板を天才に投げた。


「チッ!」


 避けた天才(あまざい)馬鹿(うましか)が飛びかかった。その隙に綾崎を助け出した。


「隼人早く夕菜と逃げて!」


 馬鹿(うましか)の瞳が全てを語った。


「わかった」

「待って隼人! 洋平が!」


 暴れる綾崎を押さえつけて走る。


「洋平洋平ー!!」

「バカ野郎が。この大バカ野郎」


 俺はそう言って逃げた。


「隼人」

「劉斗」

「駄目だったんだな」

「ああ」

「そうか、戻ろう。ここにいても危険だ」


 俺たちはリムジンに乗り一度高校に戻った。


****


「ありがとう隼人」

「まあいい。お前を殺したあとでアイツ等も殺してやる。そのあとは腐った父親だ」

「そうはさせない。ここでこの腐った因縁を断ち切る!!」

「バカが! 貴様は所詮俺のスペアだ。スペアがオリジナルに勝てるわけないだろうが! ここから出られるのは勝った方だけだ」

「そうか、ならお前が。僕なんかよりお前のほうがいいに……」

「貴様まだそんなことを言うのかこのバカが!! わからないのか。俺が勝てばお前の大事なものも全て殺す」

「そんなことはさせない!!」

「ならば勝つんだな」


 僕は天才(あまざい)に向かう。オリジナルには勝てないかもしれない。でも僕には守りたいものがある。天才(あまざい)に殴りかかる。


「はあああああああ!!!」

「バカが!!」


 天才(あまざい)が銃の引き金を引こうとするがその前にそれを蹴り飛ばす。

 

「チィ!」

「うわあああああああ!!!」


 そのまま顔面を殴る。


「ガハッ この劣化スペアふぜいが!!!」


 天才(あまざい)も拳を放つ。その拳が僕の腹にめり込む。


「ガハッ!! ああ、僕は出来損ないかもしれないでも!!」

「どうして貴様はそうなんだ!!」


 ドガッ、ドガッ


 連続でパンチが飛んでくる。避けることが出来ない。


「ガッ!!」

「なぜ、貴様なんぞが!!」


 ドガッ


 天才(あまざい)は殴ることをやめない。


「なぜ、そんなことしか言えない!!」


 天才(あまざい)が胸倉を掴む。


「お前は俺だろう!! なんで俺を超えようともしない! お前にはその力も時間もあるだろうが!! お前ならアイツを殺せるだろう!!」


 そのまま僕を投げ飛ばす。


「ガバッ」

「俺から全てを奪っておいて、名も、居場所も、妹も、両親も、家も、友達も、何もかもを奪っておきながら貴様は!!」


 ドガッ、バキッ


 骨の折れた音がする、天才(あまざい)の腕が折れていた。


「そうだ、僕は、お前から何もかも奪った。だから……」

「だから死ぬか! ふざけるなよそれは自己満足だ。だから貴様からも大切なものを奪う」

「そうはさせない」

「なんだ聞こえないぞ」

「そうはさせるかー!!!」


 ドガッ!!


 僕の拳が天才(あまざい)にめり込む。


「この!! なぜ諦める。それほどの力を与えられていながらなぜ諦める!! バカでいる!!」

「それは……」

「逃げるためだろうが!! 自分が奪った事実から、そのすべてから、この世界の全てから!!」

「違う!!」


 拳が交差する。


 ドッ!!

 

 互いの顔面に拳がめり込む。


「違わない!! 貴様は逃げているだけだ!!」

「違う!!」


 拳が交差する。互いの顔面を殴る。避けることなど考えていない。


「なら、どうしてバカなんだ!! 俺なら迷わずアイツを止める!! なのになぜそうしない!!」

「僕がスペアだからだ!!」

「そうだスペアだ。だから貴様がやるんだよ!!」


 天才(あまざい)の拳を腕をクロスして防御する。互いの骨が折れるおとがした。


「時間がないんだよ俺には、だから貴様がやるんだよ」

「僕は……」

「いつまでもうじうじしてんじゃねえ!!」


 ドッ!!


 拳の嵐。天才(あまざい)の拳が僕にめり込む。


「ガハッ!」

「立て、大切なものを守りたいならな」

「そうだ、僕には守ものがあるんだー!!」


 拳を振るう。


 ボキィン


 また互いの骨が折れる音がした。


「こんな汚い世界で何を守るというんだバカが!!」


 ドッ!!


「確かにこの世界はみんなが思ってるほど綺麗なんがじゃない。それが頭がいいことでわかるのなら僕はずっとバカのままでいい!!!」


 渾身の一振りが天才(あまざい)を捕らえる。天才(あまざい)が吹っ飛び倒れる。


「ガハッ」


 血を吐く天才(あまざい)


「僕の勝ちだ」

「なら、行け、奴を殺せ」

「………………」

「まだ、躊躇うか……このバカが」

「…………いや、僕は行くよ」

「ふん、ならさっさと行けバカ」

「ああ」


 僕は廃工場を出てある場所にむかった。


 ドーン


 後ろで廃工場が爆発した。


天才(あまざい)……」


 僕は走った。

 とある地下施設。


「誰だ!!」

「僕だよ」

馬鹿(うましか)か。天才(あまざい)はどうした」

「死んだよ」

「そうか」


 父親はたんたんとそういった。


「まあ、まだ変わりはいくらでもいる」


 周りにはたくさんの培養器があった。僕はその停止ボタンをおした。


「な! 貴様なんのマネだ!!」

「見ての通りだ。こんなことはもうやめる」

「なんだと!!」

「もう、やめるんだよ」


 ごめん隼人約束は守れないよ。


****


 廃ビルが爆破される事件があった。廃工場も爆破された。馬鹿(うましか)は戻ってはこなかった。生きているのかもわからない。それをしった綾崎は見ていられないほどだった。自殺しかけてたこともあった。今は南雲の病院に入っている。


馬鹿(うましか)お前は今どこにいる」


 そう言っても馬鹿(うましか)は帰ってはこない。


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