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天の桜が咲く頃に  作者: テイク
第五章 また来る春
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第五十五話 当主

 GW二日目の朝。来て欲しくない日がやって来た。どことなく家の中がぴりぴりしている。それに姉貴がそわそわして落ち着かない。そういう俺もなにか落ち着かない空気を感じていた。四家のみんなも同じようだ。そのおかげで朝食の味がまったくわからなかった。といっても形式ばったかたっくるしいマナーなんかもあるんでいつも味はよくわからないが今日は格別だった。


「くは~、息が詰まりそうだ」

「あはは~。なんたって当主様が今日は出てくるんだからね。そりゃね」


 美里さんと縁側で話をする。この人がなんだかんだで一番話しやすい。


「六道の当主。まあ、あの人は鬼とまで言われた人だからね。これも当たり前だよ。これでいくつもの死線を越えてきたんだから」


 齢100歳は伊達じゃないってことか。本当に嫌になるなこの家は。


「あ、そうだ、昨日聞けなかったことを聞きたいんだけど」

「ん? なに」

「いや、四家の前に付いてる黒とかなんなの?」

「ああ、これね。それぞれ六道家に伝わる家宝をあらわしてるんだよ」

「そんなものがあるんだ」

「そう、六道家ってねいろいろ曰くつきなんだよ。蔵の中を見てみればわかるよ」

「あ~明日にでも見てみようかな」

「そうだね、そうしたら」


 それにしても…………ばあ様に会うのか。一体何を言われるんだ。

 そしてそのときはやって来た。昼過ぎ。大広間の緊張が最高点に達した。厳かな雰囲気の中その人間はやって来た。


『当主さまのおな~りー!!!』


 大広間にいた全員が背筋を伸ばした。ピリピリした感覚が強くなる。ばあ様が入って来た。二度目に見た印象はかれかけた老婆だ。だが、その眼光はまさに鬼のように鋭かった。そして人を見下した目。その瞳にはなにも写りはしないだろう。


「全員面を上げよ」


 ばあ様が言った。有無を言わせない威圧的な声だ。齢100歳とは到底思えない。


「今日呼んだのは他でもない。次の当主のことだ」

「おばあさま! それは」


 姉貴がばあ様の言葉を聴いた声を上げる。


「黙れ」


 ばあ様の一言に気圧されて姉貴が黙った。ばあ様の目アレはゴミを見る目だ。


「さて、次の当主についてだが六道隼人ととする」

「な!?」


 俺だと。なんで俺になる。いや、確かに序列は当主についで高いとは聞いたが今まで俺のことを放っておいたくせになんでいまさら当主になれと言われなければならない。


「反論は一切認めぬ。決定を覆すことはない」

「おばあさま!!!」

「黙れと言ったはずだが」

「ええ、ですが言わせてもらいます」

「貴様ごときの発言を許可した覚えはないが」

「それでもいわせてもらいます。それでは約束が違います」

「事態は刻一刻と動いておるあんな約束ごときを守っている時間はないのだ」

「…………」


 付け入る隙のない言葉に姉貴が押し黙る。四家のみんなは当主の考えに従うのが決まりだ。そのため文句はでない。


「姉貴」

「隼人は黙ってなさい」

「だが……」

「いいから黙ってなさい」

「何もないならこれで」

「ちょっとまった~」


 な!? この声は。


「佐藤帝!!」

「やっほ~、隼人く~ん」

「何でアンタがここにいるんだよ」

「何でってそうだね。俺はそこの婆の知り合いだから」


 コイツ。ばあ様が怖くないのかよ。


「なんです佐藤帝」

「いやね。そんなにことを急がなくてもと思ってね」

「…………そんな時間はないのですよ」

「ああ、そうだね~。でもさ、こっちはもっと丁寧に進めるべきだと思うんだよ」

「あなたがなんと言おうとこれは決定したこと。第二段階に入りそれは確定したはず」

「ああ、そうだね」


 第二段階? 一体この二人は何の話をしてるんだ。


「ならば」

「そうだとしてもこれはまだ待って欲しい」

「それは計画のためですか」

「そう」

「ならば待ちましょう。この話はまた今度ということでそれではあとは自由になさい」


 ばあ様は自室に戻っていった。超展開過ぎて付いていけない。


「佐藤帝説明してくれるか」

「ごめんね~。それ無理」

「殴るぞ」

「あはははは、まあ、いいじゃないか。お姉さんはそう思ってるはずだけど」

「感謝はしないわ」

「だろうね~。さて、じゃあ、帰ろうか」

「帰っていいのか?」

「だって言ってたでしょ自由にしていいって。さあ、帰ろう」

「あ、おいまて!!」

「待ちませんよ~」


 四家の四人と挨拶もする暇もなく俺たちは佐藤帝に連れられて桜夕町に戻ったのだった。




 六道本家。


「ふ~ん。いろいろあったけど。なるほど面白いね」


 美里が言った。


「そう言うんじゃありませんよ」


 黄泉がいさめる。


「それにしてもまさか、あの佐藤帝が来るとはな。なにがあったんだ?」

「悠真の乏しい頭ではわかりませんよ」

「おい紅それ以上言ったらぶっ殺すぞ」

「君の攻撃が当たるのならね」

「ケッ」

「こらこら~鋼どうしがぶつかっちゃ駄目でしょ~」


 美里が止める。


「わかってるよ」

「ええ、わかっています」

「それでどうします?」


 黄泉が言う。


「あとは帝に任せて大丈夫です。それに……もう動き出してますから」

「見えたの紅?」

「ええ、まったく困難ばかりで困ったものですね」

「それは彼に言ってるの?」

「さあ、どうでしょう」

「まっいっか」


 六道本家に夜の帳が降りてきた。


 闇は全てを飲み込み、消し去っていく。


 あたかも最初から存在しなかったかのように…………。




「さ~て、そろそろ君の出番だ」


 佐藤帝が呟く。


「悪いけど君達はもっともっと…………ね」


 人影が闇の中で渦巻く。


「堕ちて堕ちて堕ちて堕ちて。見ものだ」

「まだ、続けるの?」


 緑髪の女の子が現れる。


「わ~お時渡りの妖精さんじゃない」

また(・・)やるの?」

「当たり前じゃないか。終わるまで輪廻のその果てまで続けるよ」

「その結果がどうなったのとしても?」

「そうだよ」

「そう」


 時渡りの妖精と呼ばれた少女は消え去った。


「さて、俺もうかうかしてられない。はじめないとね」


 佐藤帝が歩いていった。




「ついにその時が来たのね」


 漆黒の空間に美鈴が立っている。


「私が始めた業がもうすぐ……」


 その頬を涙が伝う。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 ただ漆黒の空間に響く謝罪の言葉。


「……もう、終わりにしましょう」


 美鈴は決意した。


「終わらせるわ。この六道美鈴が」


 世界が変わる。


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