第五十三話 入学式、新たな始まり、桜の木の下で
四月十日。長いと思っていた意外に短い春休みも終わり。いまだ満開に咲き誇るこの季節がやって来た。春休みを平穏無事に過ごした後やってきた行事。三月の別れを終えて四月出会いの季節。俺にとっての二度目の季節だ。あの咲き誇る桜はいまだに嫌いだが、昔ほど嫌ではなくなった。それの下を真新しい制服に身を包んだ新入生が歩いている。
「初々しいな」
今日は彩上高校の入学式だ。
「本当ですね。クス、入ってきた私たちみたいです」
「お前はあの木の下で寝てたがな」
「あう」
桜崎が真っ赤になってうつむいてしまった。
「そ、それはむ、昔の話です。今は大丈夫です」
「その割には頭に花びらがついてるぞ」
「はわ!!」
慌てて花びらを落とそうとする、本当はついてないのに。それに気がついた桜崎。
「ついてないですよ隼人君!!!」
「あはは」
「もう! 笑い事じゃないですよ」
「悪い悪い」
さてと今度は入学式かどんな一年がいるかな。
「お、琴峰だ」
「あ、本当ですね」
琴峰が坂を駆け上がっていた。相変わらず元気な奴だ。受験の間も走っていたのか鈍っている様子はない。
「隼人いろいろ準備できたわよ」
「ああ、わかった赤羽」
「それにしても今度の一年はいいかもしれないわね」
「珍しいな赤羽がそんなこと言うなんて」
「ええ、いい奴隷になりそうね」
「そっちかよ!!」
「従順そうなのが多いし」
「やめてやれ!!」
「大丈夫よ、あの子達の方からやってくるから」
「既に何かしたのか!!」
「ええ、オープンスクールの時から洗脳してきたわ」
「そんな前からかよ!!」
最悪な一年生が来そうだ。
『馬鹿ショット!!』
外から意味不明な声が聞こえた。
「あら、またなにかやらかしたのかしら」
「隼人君!! 馬鹿君が外で新入生と戦ってます!!」
「………………」
あのバカは何をやってるんだ。
「六道隼人早くあのバカを止めに行きなさい!!」
「わかったよ西園寺行って来る」
生徒会室を出ようとした途端悲鳴が響いた。
『ぎゃあああああああああ』
『ついにバカの下になりさがったかこのバカ』
どうやら劉斗が止めたようだ。いつもの方法で。
「……まあ、これでいいか」
「よくはありませんが。とりあえずこれでよしとしましょう」
西園寺は不服そうだ。まあ、仕方ない。
「それよりそろそろ入学式が始まる。さっさと行くか」
生徒会室をでて講堂へ。
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入学式が始まった。
やはり校長はガキは嫌いなようだ。うらの声が聞こえる。校長先生の話の後は担任が一人一人新入生の名前を読み上げていく。担任の中には岩谷先生もいた。可哀想にあのクラスはヤバイな。
『馬鹿若菜』
「はい」
一組だ。若菜ちゃんもここに入学するのか。もしかして馬鹿が戦ってた新入生って若菜ちゃんか? そんなことする性格とは思えないが馬鹿ならやりかねない。馬鹿を見るとなにやら脂汗を流している。……これは決まりかもしれないな。
『琴峰空』
「はい!」
二組に琴峰の姿があった。無事に入学したようだな。若菜ちゃんともどもうちに入学かよかったな。それをよしとしてないのが約一名いるみたいだが。
入学式は滞りなく進み終わった。終わったあとは在校生で片付けをして在校生は生徒会とその他意外は全員帰宅した。
「じゃあ、僕も帰るよ!!」
「待て馬鹿」
逃げようとした馬鹿を捕まえる。
「離してくれ隼人僕は逃げなくちゃいけないんだー!!!」
「何妹から逃げてるんだよ」
「いやだー!!」
「はあ、頼む綾崎」
「わかった」
ドゴッ!!
「げひゃっ!!!」
鳩尾にめり込んだ拳。馬鹿は気絶した。
「その辺においておいてと。ふう」
これでうるさいのはいなくなっただろう。
『私の愛を受け取ってください!』
「…………」
一年生に男女問わず告白しまくる変態がいた。
「あのアレは止めなくていいんでしょうか?」
「言うな桜崎視界に入れないようにしてるんだ。俺はないも見てない」
「私も何も見てないことにしていいですか?」
「いい」
「はい」
変態はそのあとも活動をつづけたらしい。OKしたのがいるのかは不明だが。たぶんいないだろう。いたとしたら世界が滅びるかもしれない。
その後琴峰と若菜ちゃんが合流し帰宅することとなった。
「しまった、見回りあるの忘れてた」
「そうなんですか?」
「ああ、あの水原先生がそぼったせいで俺に回ってきたんだった」
「じゃあ、私も行きます」
「そうか。じゃあ、来てくれ」
他の奴らは先に返した。
「さて、じゃあ、手分けして見回るか」
「はい」
二人なら早く終わるな。
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案の定早く終わったので暇だ。桜崎はまだ見回っているだろう。几帳面だから。
「そういえば……」
校舎裏に行く。去年と同じように巨大な桜は咲いていた。
「隼人く~ん!!」
「桜崎か終わったのか?」
「はい。それでどこにも隼人君がいなかったので探しに来ました」
「よくここがわかったな」
「なんとなくです」
「そうか」
そういえば去年もコイツと二人でこれを見つけたんだっけか。
「一年経っても変わりませんね。この場所は」
「ちょうど建物で影になってるしな。ここまで入ってこようとするバカはいない」
「そうですね。あ、ってことは私たち二人だけの場所ですね」
「お前、またそういうことを」
「いいじゃないですか。隼人君ここは二人だけの秘密にしましょう」
「いつかばれると思うんだが」
「ばれたときはばれたときです、二人だけの秘密ですよ」
「はいはい」
そういえばなんでこんな場所に桜が植えられてるんだ。学校なんだからといわれたら納得しそうだが。それならこんな一目につかない場所に。
「ん?」
なんだ幹に何か。それに触れた瞬間。何かが俺の体を駆け巡った。
「なん……」
脳内にあるイメージが再生される。真っ黒な空間の中に一本だけ植えられた木。その隣に佇む女の子?
『ダメ、まだ来ちゃだめ』
「え!?」
その瞬間イメージは消えた。
「なんだったんだ」
「隼人君?」
「あのイメージは一体?」
「隼人君」
「もう触っても現れない」
「隼人君!!」
「うわっ! 急に大きな声を出すなよ」
「さっきから呼んでるのに無視するからですよ」
「ああ、悪い少しぼ~っしてた」
「珍しいですね。疲れてるんじゃないんですか?」
「そんなことないぞ」
「そうですか?」
「ああ、ん」
桜の木の影に緑の髪の女の子がいた気がした。
「ん?」
次の瞬間にはその女の子は消えていた。
「早く帰りましょうよ」
「あ。ああ」
なんだったんだ?
****
「あれが跡取り」
「あれ、あなたは」
先ほどの緑髪の少女とウメちゃんが遭遇した。
「ああ、ウメちゃん久しぶりね」
「はい、久しぶりですね。何年ぶりでしたっけ」
「かれこれ十年以上はあってないよね~」
「それであなたが現れたってことは?」
「そうそう、ついに始まるみたいなのよ。こっちも大騒ぎよ」
「それは大変ですね~」
「そうそう、おっと、じゃあワタシはそろそろ帰るよ。じゃねえ~」
「はい、さようなら時渡りの妖精さん♪」
緑髪の少女が消失した。
「ふう、ついに始まっちゃうんですね」
一体何が始まるのか。
そして時渡りの妖精とは……。