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天の桜が咲く頃に  作者: テイク
第五章 また来る春
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第五十二話 卒業式、別れは蜜の味

 三月、季節は春。早めの桜が咲き誇っている。一年の中でこの時期は別れの季節だ。何事にも別れは付き物だ。学生にとってこの季節は終わり。四月に始まった一年間が終わる。この暖かく美しくすばらしき季節を終わりにしたのはとてもよいことだと思う。こうやって世界は回っていく。


 今日は彩上高校の卒業式。三年間の高校生活の終わり。三年生の先輩がこの彩上高校から旅立っていく日。前日には在校生で高校中を掃除し飾り付けを行った。仲のいい先輩、部活の先輩、憧れの先輩、多くの先輩たちが学校を去る。先輩たちはそれぞれの道を行くだろう。それを祝うのが今日だ。悲しい別れではなく。喜ばしい出発としていきたいと思う。それが生徒会長の仕事だから。


「さてと、もうすぐ始まるな」


 生徒会室から外を眺めながら言う。三年生と保護者が登校してきていた。


「卒業式ですね」


 桜崎が言った。


「ああ、準備は?」

「はい、既に在校生はスタンバイしてます」

「そうか」

「先輩たちとはお別れですね」

「そうだな」


 あの佐藤帝も卒業か。なんだかんだあったが……いざ卒業となるといろいろ考えてしまうな。


「いろいろあったんだな」

「そうですね」

「六道隼人そろそろ時間ですわよ」


 いろいろ考えてるところに西園寺が入ってきた。


「ああ、今行く」


 さて、卒業式だ。

 厳粛な雰囲気の中卒業式が始まった。


『これより第九十八回卒業証書授与式を始めます』


 式が滞りなく進んでいく。卒業生が予め決められたコースを壇上に向かって順番に進み、校長から授与を受ける。その際卒業生の名前を呼ぶ担任教師が泣いたりした。在校生の中にもないている奴はいる。さすがの校長もしっかりとその仕事を全うしていた。


『生徒会長よりお祝いの言葉』


 おっと俺の出番か。行くかな。俺は席を立ち壇上へと上っていく。まさかこんな日が来るとは思いもしなかった。俺が卒業生にお祝いの言葉を述べるなんて絶対にないと思っていた。なのにあの笑っている佐藤帝のおかげでここまで来た。最初の方は嫌だった。だけどそれでもいいかなと思えるようになった。絶対に言わないが感謝してんだよ佐藤先輩。


「卒業生の皆さんご卒業おめでとうございます」


 精一杯のお祝いの気持ちを込めて俺は言葉を述べる。


「いよいよ、卒業という日を迎え、今の気持ちはいかがでしょうか?。いろんな、多くの出来事があった高校生活を思い浮かべながら、みなさんが、今日、こうして、卒業の日を迎えられることを、心から喜びたいと思います。そして、これからの生活に向けて、みなさんの自由な発想や思いをぜひ大切にしてほしいと思っています。これで生徒会長からのお祝いとさせていただきます」


 一礼し壇上から降りる。緊張したが間違わずにいえた。なんとか成功したな。


 そのあとも式が続き、そして終わった。


「ふう~。無事終わったな」

「そうですね」

「何もなくてよかったよ」

「そうですね。さあ、次はお見送りですよ行きましょう」

「ああ」


 桜崎と供に校庭に出る。在校生全員が並び卒業生の通る道を作っている。卒業生がやってくる。それを拍手と供に迎える。その中には11(イレブン)の面々もいた。風紀委員の切夜直人の姿もあった。あんなことがあったあとだが、卒業式というのは不思議なものだ。素直に祝福できてしまう。これが卒業式の魔力なのだろうか。


『卒業おめでとうございます』

『お元気で』

『おめでとうございます』


 などの言葉をかけながら卒業生に花束などを渡していく在校生たち。


「やあ、隼人君いいお祝いの言葉をありがとう」

「佐藤帝か」

「一応俺は先輩のはずなんだけどな~」

「そうだったな。ほらこれでも受け取ってろ」


 一輪の花を渡してやる。


「おお、きみからこんなのをもらえるなんて感動でなきそうだよ」

「そういいながら目薬をさすな」

「あははは、これで俺は卒業だけどがんばってね~」

「はいはい、わかったからさっさと行け」

「まったくつれないな~」


 佐藤帝が前に進んでいった。


「はあ~。まったく」

「やあ、隼人君」

「永城先輩。卒業おめでとうございます」

「うん、ありがとう」

「どうぞ」

「ありがとう」


 永城先輩にも花を渡した。あの人は尊敬できる人だったな。そのうちに卒業生は全員が通り過ぎていった。高校前の広場で集まって最後のお別れをしている。


「終わったか」

「終わったね~」


 佐藤帝と永城先輩がやってきた。


「そうだな」

「それにしても一年ですか。早いですね。あなたとは八ヶ月ですね早いものです」

「そうですね」

「おい、雄太と俺と接する態度がちがくないか」

「何を言ってるんです帝。当たり前でしょう、人徳の差です」

「なんだと俺には人徳がないとでも言うのか!」

「「当たり前でしょう」」


 永城先輩とはもった。


「ガーン」


 うわ、こんな面白く落ち込む奴始めてみた。


「ほら落ち込まないでください帝、こんな日はもうないんですよ」

「そっちが落ち込ませたんだろ!!」

「まあ、いいとして」

「よくねえよ!!」


 さて佐藤帝の落ち込んだすがたも見れたから良いとしよう。これでも卒業式に来たかいがあったな。


「くそあにき~」


 この声は佐藤か。


「げ!」

「なんでうちの顔みてそんな顔するんや」

「いや、ほらこんなときは普通だきついてくると思ったからさ」

「お前はうちにどんな期待しとんや!!」


 鋭いツッコミが佐藤帝を襲う。倒れて動けなくなった佐藤帝。


「はあ~。まったく仕方ありませんね。僕は彼を運ぶのでそれじゃあ、またいつか会いましょう」

「はい」


 こうして二人はこの学校を卒業した。


「さて、俺たちは片付けに入るとするか」


 三年生が抜けて少し広くなった高校。だが、すぐにまたいっぱいになるだろう。


「さて、今度は入学式か。いったいどんな一年が入ってくるかな」


 楽しみでもある。


「その前にこれの片付けだな」


 俺は片付けをしているみんなの下に言った。


****


「う~ん、卒業式ですか~これで何回目でしょうね~」


 空を飛びながら卒業生を見送ります。


「それにしても気になるのは佐藤帝です。これからが始まりな気がしてなりません。注意しておかないといけませんね」


 でも今は。卒業おめでとうです。


****


「ふう~。やっとここまできたか」

「そうですね、帝」


 長かった。ついにここまで来た。


「本当にこの三年間は長かった」

「そうね~。あのときから長かったもんね~」


 俺と雄太に女の声がかかる。この声は。振り向くと長い緑がかった黒髪の女が立っていた。


「なんだ、美里か」

「美里さんでしょ美里さん」

「いだだだだだだ!!」


 美里の手が俺の頭にアイアンクロー。うぎゃ!!


「お久しぶりですね高垣美里(たかがきみさと)さん」

「久しぶりね永城雄太。三年ぶりだったかしら?」

「ええ、そうです」

「俺がアンタに生徒会長に指名されていらいだ」

「そうね~。そのときに口の聞き方を教えたはずだけど」

「はははは」

「また再教育が必要かしら」

「遠慮します!!」

「そう残念ね~。また可愛がってあげようと思ったのに。それじゃあ永城君はどう?」

「嬉しい申し出ですが遠慮しておきます」

「そう、残念」


 あまり残念そうじゃねえ。


「それで計画のほうはどうなの?」

「現在第二段階です」

「そう、そろそろあの方が動くのね」

「そうだ。あの糞野郎がな」

「あら、あの方の前で言えるかしら」

「………………」

「無理よね~」


 楽しそうに笑いやがって。いつか泣かす。


「泣かせるなら泣かしてみなさい」

「……」


 もう嫌だ。こいつだけは苦手なんだ。


「さて、第二段階ならそろそろ私も会いに行ってもよいかしら」


 がんばれよ六道隼人お前気に入られたら終わりだぞ。まあ絶対に気に入られるだろうがな。


「さて、これから始まる。第二楽章。その響きを聞かせてもらいましょうか。さあ、桜が咲き誇るさまを」


 クルクルと美里が回る。楽しそうに。心底楽しそうに……。




 計画は動き出す。第一段階を終え第二段階へ。


 その計画は一体なんなのだろうか。


 それはとても大きな計画、世界を変える計画……。


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