第三話 思い出したくないものは誰にでもある
高校に入学してから一週間が過ぎた。この一週間は本格的な授業がなくレクレーションの三時間授業で早く過ぎた。だが、今日から本格的な授業が始まる。
朝、いつものように制服に着替えて少し考え事をしながら学校に向かう。
考えるのは桜崎の事だ。
この一週間で馬鹿達と桜崎は直ぐに友達になった。俺が紹介したわけじゃなく桜崎が勝手に友達になった。
桜崎が俺と友達と勝手に言って馬鹿にどうして仲良くなったのかしつこく聞かれて、桜崎が勝手に仲良さげにしているだけだと言ったら信じなかった。
なんで桜崎が俺に寄ってくるのかそれは俺自身が知りたかった。
考え事をしていたらいつの間にか山の前に着いた。
「隼人く~ん、おはよう!」
桜崎が高校の前の登り坂の前で俺を呼んだ。
桜崎はいつの間にか俺のことを名前で呼ぶようになりさらに登り坂の前で俺を待つようになっていた。本当にわけがわからん。
しかも、どんなに早く行っても必ずコイツは待っている。コイツを避けるためにかなり早く登校した時も変わらず待っていた。
「なんでお前はいつも俺を待ってるんだよ」
「友達じゃないですか」
「答えになってねえぞ」
「私達はもう友達なんですから、こうやって一緒に学校に行くのは当然です」
それは違うだろと言おうとしてやめた。どうせ言っても無駄だからだ。
この一週間でコイツがどんな女かだいたいわかったからな。
極度のお人好しで人を疑う事を知らず、どんな事があっても怒らない。有り得ない程変な女だ。
「なら、さっさと行くぞ」
俺達は坂を登り始めた。
春の今はまだいいが夏は確実に死ぬであろう坂を登りきったところで馬鹿が後ろからやって来た。
「お~い、隼人! 桜崎さ~ん!」
その後ろからはスピードを上げるリムジン。
そして…。
「ガブラッ!?」
案の定轢かれた馬鹿。空中で三回転してドシャッと俺達の目の前に落ちてきた。
「大丈夫ですか!?」
桜崎が心配するが俺から言えば。
「いつも通りの光景だ」
「こんなのがいつも通りであってたまるか!」
「何だ、生きてたのか」
「生きてるよ!!」
「劉斗、まだ、スピード上げてひいても大丈夫そうだぞ」
「そうだな」
「イタタタタタ、モウゲンカイ」
「思いっきり棒読みだな」
まったく、まだ次があるというのに。
俺の思った通りすぐに次は来た。
「おっはようー!」
ドゴッ!!
「アブァ!?」
彩崎の跳び蹴りが馬鹿の顔面にヒットした。
「ふう、今日もいい感じにきまったわね」
「僕にとってはまったくいい感じじゃないよ!」
「アンタはいいのよ、人間じゃないから」
「酷い! 僕だって人間だよ!」
「違うぞ、洋平」
「劉斗!」
「お前には言ってなかったがお前は改造人間だ」
「そんな!、まさか!」
「嘘じゃない。お前には特殊能力がある」
「おお! いったいそれは何?」
「全忘却、その名の通り覚えた事をすぐ忘れる能力だ」
「何か、凄そうだ!」
やっぱりバカだ。あんな嘘に引っ掛かるとは。
「で、他には?」
「それだけだ」
「それだけかよ!!」
もともとお前に能力はないと思うがな。
「というか。改造人間の辺りから全部嘘だ。洋平」
「劉斗ー!!」
信じてたんだな。
「あの、皆さんそろそろ校舎に入った方がいいと思いますけど」
桜崎がおずおずと言った。
「確かに行くぞ、馬鹿、劉斗、綾崎」
俺たちはそそくさと校舎に入っていった。
****
「あら、おはよう」
教室に入った途端赤羽が声をかけてきた。
「ああ、あはよう」
「劉斗ともおはよう」
「ああ」
「赤羽さんおはよう」
「……」
無視される馬鹿。こういう奴なんだよな赤羽は。
「うわ~」
あ~あ、泣き出しちゃったよ馬鹿の奴。
「泣くな、うざいぞ、洋平」
「劉斗の言うとおりよ。黙りなさい」
哀れ馬鹿には味方がいないな。いつものことだが。
「お前ら席に着け~!!」
水原先生が叫びながら教室に入ってきた。
「HRはじめるぞ」
水原先生の連絡が終わり授業が始まる。
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「昼休みだー!!」
「叫ぶなバカ」
「いいじゃないか~。昼休みなんだからさ~」
「お前が叫ぶことでこの教室が汚染される」
馬鹿が劉斗に掴みかかろうとする。俺はそれを羽交い絞めにして止める。
「HA☆NA☆SE!!」
「どこかのカードゲームの主人公風に言っても駄目だ」
「離してくれ隼人! 僕にはやることがあるんだー!!」
「やめろ。事実なんだし。お前じゃ劉斗に勝てるわけないだろ」
「言っても無駄だから黙らせるわね」
ドゴッ!!
「ギャヘルエ!!」
綾崎のパンチをボディーに喰らい馬鹿は倒れた。
いつもの事ながら哀れな奴だ。
「さて、昼飯にするか」
馬鹿を無視して劉斗が言った。
「なら、屋上行かないか?」
「そうだな」
「良いわね」
「良いですね」
賛成も取れたので赤羽も誘うか。
「赤羽も来るか?」
「屋上?、良いわね、行くわ」
赤羽も誘っていつものメンバー、俺、桜崎、馬鹿、劉斗、綾崎、赤羽で昼食をとることになった。
「じゃあ、行くか」
弁当をもって屋上に向かう。その途中でメガネをかけた気の弱そうな男子がぶつかってきた。
「あのすみません」
「いや、いい」
「本当にすみません」
男子はそのままどこかにいってしまった。
気にせず屋上に向かった。
「屋上だー!!」
「叫ぶな洋平。飯がまずくなる」
「いいじゃないか。この空をみたら叫びたくなっちゃたんだから」
「そうですね。こんな空に叫んだら気持ちよさそうですしね」
桜崎が馬鹿に賛成する。たぶん最後の味方だろうな。
「ほら、桜崎さんだってこういってるじゃないか!!」
「桜崎は別にいいんだ。バカじゃないからな」
「失礼な!! たとえバカは認めてもそんな差別は認めないぞ!!」
バカのところを認めるなよ。
馬鹿と劉斗の言い争いは続く。
「二人とも静かに食べなさいよ!」
彩崎が言うが2人は聞く気がない。
「アイツラに期待した私がバカだったわ」
諦め早!
「彩崎、それは諦めるのが早すぎるだろ」
「じゃあ、アンタが止める?」
俺は言い争っている2人を見た。
「…………止めないでいいな」
「でしょ、いつも通り見ときましょ、あ~あ、高校生になっても何も変わらないのね」
彩崎が何気なく言ったその一言は俺の心に小さな棘を刺した。
「確かにな」
高校生になれば何か変わるかと思った。でも、なにも変わらなかった。
「何も変わらないなんてありませんよ」
桜崎が言った。
「みんな、1日1日違います。変わらない日なんてありません。みんな注意して見ればわかりますよ」
「何だそりゃ。1日1日違う? なわけねぇよ」
「ありますよ、だって隼人君、初めて会ったときと全然違いますよ」
桜崎はそう言って笑った。
俺は思えば確かに変わったのかもしれない。でも、コイツにだけは認めたくなかった。
「それはお前の気のせいだ」
「気のせいなんかじゃありません!」
「い~や、気のせいだ」
「気のせいじゃありません!」
「楽しそうね」
「赤羽、これのどこが楽しそうに見えるんだ」
「さあ? それよりみんなお弁当食べ終わったのなら私が作ってきたシュークリームでも食べない?」
赤羽の手作りだと、ダメだ嫌な予感しかしない。
「わ~い、美味しそう!」
馬鹿が言う通り見た目は普通だ。
「前にもこんな事があったような」
劉斗が言った。
「ああ、俺もだ劉斗」
あの時は何かがあったような気がする。……駄目だ思い出せない。ただ、俺と馬鹿と劉斗はいた気がする。
見るだけで食べようとしない俺達に赤羽が言った。
「どうしたの? 食べないの?」
「さっき弁当食べたからお腹いっぱいだから」
「我もだ」
劉斗も言った。
「せっかく作ってくれたんですから食べましょうよ」
「そうよ、紫苑に失礼じゃない」
「そうだよ、劉斗、隼人」
あの時は馬鹿もいたはずだ。だが、覚えていないみたいだ。
「待て馬鹿!、ちょっとこっち来い」
「何?」
馬鹿が覚えていないなら思い出させるだけだ。
「思い出せ馬鹿。前にもこんなことがなかったか?」
「前にも? ……はっ!」
思い出したようだ。馬鹿が震えている。
「思い出したみたいだな」
「うん、思い出したよ隼人。何があったのかは思い出せないけどなぜだか震えがとまらないよ」
「とりあえず、何とか食わないようにするぞ」
「うん」
話を終えみんなのところに戻る。
「ごめん、よく考えたら僕もお腹一杯だったよ」
「馬鹿もこう言ってるんだしそれはあとで――」
「私が作ったシュークリームは食べれないの?」
赤羽が冷たい声で言った。
ブワッ!
思い出した! 全身から嫌な汗が吹き出す。
「い、いや、食べないわけじゃ……」
「ふ~ん、私が作ったものは食べれないだ」
あの時とまったく同じ会話だった。惨劇とまったく同じ。
そう、あれは三年前のバレンタインデーの日のことだ……。
ふう、キャラが多くなってきました。
全員を動かすのはきついです。
感想アドバイスとうあればどうぞ