第三十七話 戦力、そして……
翌日、12月1日。
「さてとりあえず戦力を集めるか」
規格外の連中に勝つには数を揃えないといけない。凡人には凡人の戦いをさせてもらう。
「とりあえず坂井に佐藤、加えたくないが岩本、浜弓、藤堂先輩。まずはこの人達に声をかけてみよう」
「そうですね。私行ってきます」
「頼んだ桜崎」
桜崎が生徒会室を出て行った。
「我も呼んでやる。セバスチャンズをな」
「セバスチャンズか」
セバスチャンズ、南雲家に仕える史上最強の執事軍団。という触れ込みの執事達だ。セバスチャンを見る限りあながち嘘とも言えない。
「なら、私は親衛隊を呼ばせてもらうわ」
「赤羽親衛隊ね」
赤羽親衛隊、密かに作られた赤羽ファンクラブ。そのファンクラブメンバーによって作られた組織。だったはずなのだが。
「今では私の忠実な犬よ」
赤羽の為なら命すらいとわない集団と化している。
「あ、僕思い出したよ。岩本君、確か変な宗教の教祖じゃなかったっけ」
「思い出したくないからやめてくれ」
確かに変態とセットでついてくるだろうな。まあ、戦力になるならいいだろうな。
「蜜柑を呼びますわ。あれでもいないよりはマシのはず」
「ああ」
西園寺は御津に連絡してくれた。
「これで何とかなりそうだな」
「大変~」
あまり大変そうに聞こえない声で狭間先輩が言った。
「何がですか!!」
「風紀委員会も動き出しちゃった~」
「まさか特別武装風紀委員会?」
「うん~、というかそれしかない」
特別武装風紀委員会、理事長から特別に武装を許可された治安維持組織で風紀を荒らす者には問答無用で粛清する危険集団。特に今の委員長、桐夜直人は史上最悪の委員長として有名だ。
「まずいな」
「本当にまずい~」
「だが、やるしかない」
そう、既にはじまったものを止めることは出来ないのだ。
「よ、よんで来ました~!!」
桜崎が佐藤達を引き連れてきた。
「来たか」
「あははっ、なんか楽しそうなことになってるね~。11でしょ、あたし一回勝負したかったんだよね~」
坂井が言った。
「ああこっちとしてはあまり乗り気はしない」
「でも、凡人の力見せてやりましょ!」
「ああ、そうだな坂井」
坂井は気合十分の用だ。
「なんやなんや、うちも呼んでもらえるなんてうれしいで~」
ツッコミ女王佐藤登場。武器装備ハリセン。
「これでどんな奴もしばき倒したる」
「頼むぞ。敵は強敵だからな油断だけはするなよ」
「この佐藤美由紀の辞書に油断の二文字はないで」
欠落書だな。
「まさしく愛だ!」
『愛だああああ』
変態+変態信者登場。気持ち悪い。
「生徒会長殿の危機ゆえ参上仕った」
浜弓が窓から入ってきた。お前はそこからしか入って来れないのか。
「ああ、頼むぞ」
「頭を下げられるな生徒会長殿。某は当たり前のことをするだけでござる」
古い一体いつの人間だ。普通に銃刀法違反だし。
「面白そうなことになってるじゃない。それに由宇はこっちについたんでしょ、なら私はあなたの味方よ」
藤堂先輩が木刀を持ってやって来た。その木刀はどこから取ってきたんですか。
「忙しいとこすみません藤堂先輩」
「気にしない気にしない。後輩のピンチは先輩のピンチでもあるんだから」
いい先輩だ。
「さて来いセバスチャンズ!!」
劉斗の声に答え五人の執事が現れた。どっから入ってきた。
『お呼びですかな坊ちゃん』
「ああ、よく来た、セバスチャン、ポール、フィリップ、ウォルター、ローレンス」
全員が執事っぽい名前の執事五人衆登場。執事が同じ空間に五人というのは結構シュールな光景だ。
「さて、我々を呼んだということはそれほどの事態なんですか?坊ちゃん」
赤髪のフィリップが聞いた。
「ああ」
「ッてことは俺たちが本気を出してもよいということですか!!」
緑髪のローレンスが聞く。
「ああ、そうだ」
「落ち着きなさい、して敵は?」
金髪のウォルターが発言した。
「11だ」
「調べはついております」
青髪のポールが言った。
「では我々はこれより生徒会の指揮下に入ります」
セバスチャンが言った。
「ああ、そうしてくれ」
なんというかコメントがしにくい執事たちだ」
「さて、じゃあ、私も呼ぼうかしら、来なさい犬共」
『ここに』
はい20人ほどの一団が赤羽の前にひざまずいている。どっから現れた。
「あなた達は私のためなら命すら賭けれるんでしょ?」
『当たり前です』
「そう、状況はわかってるわね」
『はい』
「なら働きに期待するわ」
『お任せあれ」
これで死を恐れない不死身の軍団が仲間になったな。まあ、ポジション的には組織の中の下っ端の扱いなんだけどな。
「わらわもおるぞ」
「チビガキか」
「ふん、わらわとて11組の一員。その上の11を快くは思っておらぬ。潰せるならちょうどよい。わらわの力見せてやろう」
なんか心強いことを言ってるがどうせ戦うのは付き人の二人な気がする。
「さて、戦力的には中々充実してきたが……まだ、必要なものがあるな」
「何です?」
桜崎が聞いて来た。
「武器だ」
「武器ですか? でも、武器って言われてもありませんよね」
「いや、一応ありそうだが、あまり乗らないな、仕方ない、言ってくる」
俺は生徒会室をでて理科室に向かった。
「おっと~、生徒会長さんお出ましだ」
「!?」
俺は気がつくと11の4人に囲まれていた。たしか7って呼ばれていた奴とほか三名。
「まってたんだぜ~。うちのリーダーはよくわからねえこと考えてるがお前を倒しちまえば終わりだよな~。だから死ねや!」
7が俺に向かって高速で突っ込んできた。眼で追えない。当然、7の拳は俺にめり込んだ。
「がはっ!!」
「なんだ、やっぱ弱いじゃん」
何だ!?、まったく見えなかった。
「気にすることないぜアンタはここで死ぬんだからさ!」
蹴り。ただの蹴りのはずなのに見えない。
「ぐはっ!」
俺はボールのように吹っ飛ばされた。
「これで終わりだ!」
薄れ行く意識の中で誰かに手をつかまれた気がした。
****
ガシッ!
「な!?」
7が驚いている。それも当たり前、意識が飛んでいるはずの人間六道隼人がその足を掴んでいたからだ。
「まったく、好き勝手やってくれる」
声がいつもの隼人ではなかった。
「やれやれ、まだ覚醒してないってのに、私を起こすなんてまあ、アイツの計画なら仕方ないか。それにこれは予想外だろうし」
「なんだよ貴様!」
「さあ、誰でしょう。あまり私の主を傷つけないことだ。大切な大切な主なのだからな」
「貴様だれだ!!」
「六道隼人だと知ってるはずだが」
違うこいつは六道隼人などではない。その証拠に表情など全てが違っていた。それに左眼が赤く染まっている。
「まあ、いいどうでもいい貴様を壊せんばそれで終わりだ!」
7は最速で動いた誰にも見きれるはずない速度で。だが。
「フッ」
かわされた。初めからそこにその攻撃が来るとわかっていたかのようにワンステップで。赤い瞳が妖しく輝いている。
「遅いな、ミッシングリンクといえどこの程度か、高が知れているが主一人にはきついな、今後こういうことがないようにしてもらいたい」
「なんなんだよ、お前」
「何、六道隼人それだけだ。さて灸をすえてやろう」
「俺たち4人とやろうってのか!」
「ああ、4人? たった四人か動ってことない」
余裕、不気味なまでの余裕。
「チッ、今はひくぜ!」
11の四人は退いた。
「ふん、懸命なことだ。さて、そろそろ体を主に返さねば」
六道隼人が倒れた。
****
「ったく、何なんだ今の?」
俺が倒れているうちに11の連中は帰っていったらしい。まったく何がしたかったんだ。
「まあ、いい、とりあえずは科学部に行こう。あそこなら何とかしてくれるだろう」
うまくいけばだが。
理科室についた。俺はいつものように入った。
「生徒会ですが」
そこには早崎しかいなかった。
「他の人はどうした?」
「ああ、用事があるみたいで帰りました」
「そうか、ならちょうどいい。頼みがある」
「いやです」
さっそく断りやがった。まあ、これくらいは予想していたが。
「僕に何かを作れというんでしょう」
「ああ」
「あくまで僕は作るとしても科学者ですよ。それに……僕は二度と科学に触れないと決めた。この前のは仕方なくです」
「ああ、お前のことは少し調べた。だが、それでも頼む」
俺は頭を下げた。
「それでも、僕は……」
「ああ、無関係さ。それにこれは俺たちの問題だ。すまないと思っている。だが、頼む」
今度は土下座。
「頭を上げてくれ。僕にそこまで価値はないよ」
「あるはずだ。現代のガリレオ」
「その名前は僕はもう捨てている」
「それなら早崎才に俺は頼む」
「無理だよ」
「逃げるのか」
「……確かに僕は逃げてきたよ。これじゃ駄目とも思ってる。でも、もう科学だけは……」
「逃げるな。もう……俺だって逃げることはある。でも、それじゃ駄目なんだと気がついた。だから逃げるな」
「……」
「時間はない。武器……というより生徒会室の棟を改造してほしい。防衛が出来るように。武器はこちらで何とかする」
「……」
「頼む」
もう一度頭を下げた。
「……わかりました……僕はもう逃げない。それに部長たちに言われたことを思い出しました。人を貸してください。一日で終わらせます」
「ああ、頼んだ」
これで何とかなりそうだ。俺は生徒会室に戻った。
生徒会室はその在りようを変えていた。机に積まれていた書類は除けられ今はこの高校の地図が乗っている。
「なんというか戦争でも始めようって感じだな」
「当たり前だ。これは戦争だ。我たちと奴らのな」
やる気に満ち溢れている劉斗。こういうこと好きだからな。
「狭間先輩は?」
「自分の城に行った」
ってことは部室か。
「さて、予想外に話がでかくなってきたが、戦力はそろってきたな」
その時。
『やあ、生徒会諸君。どうやら戦力の方は十分に揃ってきたみたいだな」
あの白スーツの声だ。
『さて、特別武装風紀委員会も聞いているかようだな。さて、この放送は戦いのルールを説明しようと思ってな。ルールは簡単だ。目標を先に倒したほうの勝ちだ。目標は生徒会長、私、風紀委員長だ。拠点を作り守りに徹してもよい。生徒会はそのようだがな』
よくわかってるじゃねえか。しかも、早崎に頼んどいたことが役に立ちそうだ。
『細かいルールは何もない、ただ戦え、方法は問わない。これで死んだとしても責任は誰にもない。開戦の時間はそうだな、三週間後、冬休みだ。せいぜい準備をすすめるのだな。あと、開戦前のいざこざはなしだ。それではつまらないからな』
よく言う。
放送はそれで終わった。
「聞いたとおり開戦は三週間後だ。それまでに各自やれることをやって欲しい。最初は不本意だった生徒会だが、生徒会が負けるところは見たくないからな。全力で勝つぞ!」
『おー!!』
やる気は十分だ。勝たせてもらうぞ。
****
風紀委員室
「さっきの放送聞いたか?」
風紀委員長桐夜直人の俺が隣の御影麻耶に聞いた。
「はい」
「まったく回りくどい、さっさとはじめりゃいいのに」
「まあ、それだと一般生徒が邪魔なのでしょう。あなたにとっても好都合では?」
「確かにな。戦力の方はどうなってる?」
「全員可能です」
「そうか、下がっていいぞ御影」
「はい」
御影が下がる。
「さ~て、と聞け諸君」
11人の腰に武器を携帯した風紀委員が全員俺の方を向いた。
「ついに合法的にぶっ殺せるときが来たぜ、さて、どうやら俺が倒されれば終わりみたいだが防御なんてはなっからしねえ、拠点も作らねえ。攻撃あるのみだ圧倒的暴力によって侮辱し蹂躙し踏み倒せ!」
『はっ!』
さ~って、三週間後が楽しみだ。せいぜい楽しませてくれよ。
****
11ルーム。
私の前に7が座っている。さて、勝手な行動を取った理由を聞くとしよう。
「さて、なぜ六道隼人のところに行った7」
「俺はただ……」
「言い訳はいい」
「あなたの手を煩わせたくなかったんです」
「まったくこれからは勝手なことはするな。まあ、今回は大目にみましょう」
「わかりました」
「下がっていいぞ」
7が部屋を出て行った。
「さて、問題はあの生徒会長。一体何を隠し持っているのか」
あの赤い瞳、一体何なのか。
「まあ、なんにせよ。特別武装風紀委員会まで動いているとなると我々も本気を出さなくてはいけないだろう」
特別武装風紀委員会自体はそれほど脅威ではない。だがあの風紀委員長は脅威になりうる。
「さてどう動かしたものか」
テーブルの上においてあるチェスの駒を見ながら思う。
「まあ、いいこの勝負。どう駒を使うかによって勝ちは決まる」
ならばせいぜいうまく動かしてやろう。
11ルームは不気味に静まりかえっていた。
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「さて、ウメちゃん。君は俺に情報を伝えるだけでいいから」
「いやです。あなたに従いません。佐藤帝」
「俺と君の仲じゃないか~」
「わたしの記憶にはそんな仲はありません」
「そんな!! 俺とは遊びだったなんて」
佐藤帝が打ちひしがれた振りをする。
「そんな誤解を招く言い方はやめてください!!」
「まあ、それはそれとして」
何事もなかったように立ち上がった佐藤帝。
「君に拒否権はないはずだよ」
「……」
「それとも君はその役目をやめる気?」
「……いいでしょうただしわたしはあなたには従いません」
「あっそう、まあいいけど嫌われたものだね。じゃあ頼んだよ」
佐藤帝は去っていった。
様々な思惑のなか勝負の火蓋は切った落とされた。