第三十五話 姉貴の修行
さて、11月15日。11月になり本格的に冬になり始めた今日この頃。だんだんとやってくる寒さが身にしみてきた頃。
俺たちは姉貴の料理べたを直すために劉斗の家に集まっていた。
「はあ~、いつきても大きいわね~」
「すごいです~!!」
綾崎と桜崎が劉斗の家を見ながら言った。そう劉斗の家はかの有名な三千○家かっていうほど広い。一体この町のどこにそんな広さがあったんだってくらい広い。てか、この町金持ちが多いよな。劉斗しかり西園寺しかり、赤羽も元はそうだし。
「僕のうちからは考えられないよ」
まあ、貧乏と金持ち(りゅうと)を比べたらそうなるだろうな。俺んちもそうだが。
「十年ぶりねここに来るのも」
「赤羽、そんな良くわからんことを言ってもあまり意味ないぞ」
「あら、そう? 裏設定をつけようかと思ったのだけれど」
これ以上設定を増やしてどうするんだよ。
「あははっ!! 南雲君って本当にお金持ちだったんだね信じてなかったんだけどいま信じたよ」
坂井も手伝ってくれるということで来てくれた。
「すごいね~」
狭間先輩が俺の背で言った。今日はこの人の生活態度改善も入っている。なんとか普通に生活できるようになってほしい。というかネット関係で前の肝試しのときくらいの体力を発揮できるのだからようはやる気の問題と思う。
「うちも呼んでもらえるとは光栄やな、ちょうど暇やったんや」
佐藤も料理が出来るとかで呼んだ。
「ああ、たぶん姉貴はお前の想像している奴より料理が出来ないから」
「おう、まかせときや」
頼もしいな。
「まったくなんで私があなたのお姉さんのために呼ばれなくてはいけませんの?」
「悪いな西園寺。姉貴は本当に料理が下手なんだ。そろそろ直さないとやばいくらいにはな」
「まあ、あなたの頼みですからきたんですわ。それにあの子も行きたがっていましたから」
美咲ちゃんの方をさす。
「呼んで……くれて……あり……がと」
「いいさ、人数が多い多いほうが楽しいと思うしな」
「…きと……おねえさん……うまく……なる」
「ああ、そうだな」
こんだけいれば大丈夫だろう。
「それでなんでわらわも呼ばれねばならぬのだ」
おっとコイツも来てたんだったな。
「我らもいるぞ!」
「我もだ!」
下僕も一緒か。仲の良いことで。
「こらわらわを無視するな!!」
「ああなんだいたのかチビガキ」
「なんだと!!」
「さあ、行くぞ」
「無視するなー!!」
意外とからかうと面白いんだよなコイツ。
「お待ちしておりました」
セバスチャンに出迎えられて俺たちは劉斗の家というか屋敷に入っていった。ちなみに玄関まで車で移動。来るたびに思うがどんだけだよ。
「よく来たな」
ソファーに寝転がっている劉斗が言った。
「それが招待者の格好かよ」
「我の家だ我がどんな格好でいても関係はないだろう」
まあ、そうなんだがな。時々コイツに殺意がわく。
「じゃあ、キッチンに案内しよう。こっちだ」
劉斗の案内で無駄に長く広い廊下を歩いてキッチンへ向かう。部屋がたくさんあった。たく、何でこんなに部屋があるのやら。
「ここだ」
巨大ホールとしか思えない空間。キッチンとは思えない広さだな。
「うちで一番小さいキッチンだ」
「これでか!!」
佐藤がツッコミをいれた。まあ、俺も初めて聞いた時は同じツッコミをした。これは必然だろうな。西園寺辺りがツッコマないのは慣れてるのだろう。
「ブルジョア共め」
馬鹿が恨めしそうに言う。恨めしいと言うより呆れるな。
「本当にやるの?」
姉貴が止めようと言う感じで聞いてきた。
「ここまで来といて何言ってんだ」
「はあ~」
「溜め息つくな。姉貴のためなんだぞ」
まったく。
クイクイ。
誰かに袖を引っ張られた。
「何です狭間先輩」
「何で私まで~?」
「姉貴の料理べたを直すついでに先輩の生活も直そうかと」
「余計なお世話」
「そう言われても決定事項ですので」
「鬼、悪魔」
うぐっ。冷静に罵倒されるのって結構きつい。だが、耐えろこれも狭間先輩のためだ。
「それじゃあ桜崎頼んだ」
「はい」
姉貴と狭間先輩を女性陣に任せて俺達男性陣は観戦することにした。
「じゃあ、最初は2人に何かを作ってもらいましょう。どれくらい出来るか確認です」
桜崎が2人に言った。なるほどまずはどの程度出来るか確認か。
「なあ、隼人」
「何だ? 劉斗」
「いや、美香さんはどの位出来るんだ?」
「キッチンをぶっ飛ばす位は出来る」
「やっぱりか。一番頑丈なキッチンを選んで正解だったな」
キッチンに強度があるなんて初めて知りました。
「じゃ、じゃあ、僕たちがここにいるのは危なくない?」
馬鹿の心配はわかるが。
「大丈夫だろう、桜崎たちがついてるんだ」
「そうだよね、そうだよね」
「ああ………………たぶん」
「うわ~それでもっと心配になった~!!」
まあ、さすがに大丈夫のはずだ。まあ、味見すると言ってしまった手前帰るわけにもいかない。潔く死の覚悟だけはしておこう。一応油と洗剤を間違えないようにここには洗剤は置いていない。昔間違えられてときは……。
「だい……じょ……ぶ」
いつの間にか隣に座っていた美咲ちゃんが言った。
「そうだね。美咲ちゃんは料理できるの?」
「……すこし」
「じゃあ、こっちに来たのは西園寺に言われて?」
コクリと頷く美咲ちゃん。
「……あふ……ない……かも……し……ないって」
西園寺は姉貴の料理が危ないってことを予想してこっちに美咲ちゃんを送ったな。危険から遠ざけるために。まあ、姉貴もよっぽどのことがない限り大丈夫だが懸命な判断だ。
「……しん……はい……し……すき」
「まあ、それだけ大事にされてるってことだと思うよ」
「はひ……そう……てすね」
さて、一方姉貴達はというとどうやら玉子焼きを作っているようである。目玉焼きじゃないのは目玉焼きはほとんど何もしないからだろうな。誰でも出来るだろうし。まあ、あの二人に出来るかはおいておいて。まだ、桜崎達は何もしていないつまりまだ様子見ってわけみたいだ。
「だがまあ、姉貴大丈夫か?」
所々危なっかしい。狭間先輩を見ると何やらブツブツ呟いている。この距離からでは聞き取れない。
「何を言ってるんだ?」
「けい……さん」
「計算? って!? 美咲ちゃん狭間先輩の言葉聞こえてるの」
「なん……と……なう」
へえ、美咲ちゃんにこんな特技があったなんてな。たが、狭間先輩一体何の計算をしてるんですか。もしかして料理を作るための計算とか言いませんよね。
どうやらそれは当たりみたいでブツブツを止めた先輩がえらく機械的な動きで作り始めた。てか、パソコン見てたけどもしかして今作り方調べたのか。
「あの先輩計算で料理してるよ」
「あう」
まあ、それが悪いとは言わないけど言わないけど。なんかな~釈然としない。
「さて、そろそろできるころだな」
劉斗が立ち上がりながら言った。
「あれ、劉斗どっか行くの?」
「ああ、そうだ洋平用事を思い出してな。ここは自由に使っていいからあとは好きにしてくれ」
劉斗はキッチンを出て行った。
「逃げやがったな劉斗の奴」
「え、何? どうかしたの?」
「いや、なんでもない」
「……?」
馬鹿と美咲ちゃんも不思議がっている。さて、これが何の企画か思い出さしてやろう。
「出来たのこっち持ってきてくれ」
桜崎たちが若干頬をこわばらせて持って来た。まあ、そうなるだろう。
「さて……」
はい、まずは見た目。姉貴のはまあ、ぐちゃぐちゃだな。うん。スクランブルエッグってぐらいぐちゃぐちゃだな。その上卵の殻まで入ってるし。人に出せるものじゃないな。
「それで……」
一方狭間先輩の。計算されたかのように真四角。ある意味芸術の域に達しているといってもいいんじゃないか。卵の殻も入っていないようだが。
「まずは姉貴のからだな」
味見。まずは姉貴の方の玉子焼きもどきから。
パク。
「………………卵の殻のせいでまあ、じゃりじゃりするがまあ、食えないほどではないような。どうだ馬鹿?」
「う、うん、卵の殻がじゃりじゃりするけど食えないほどではないかな~。微妙だけど」
「まあ、そうだな」
卵の殻さえなければ普通のスクランブルエッグとして食えるな。作るものが変わったが。
「じゃあ、次は狭間先輩の」
パク。
「………………計算された味だな。うまいけど、うん、うまいけど、本当になんか釈然としない」
それは馬鹿も同じようで。
「うん、何だろうこの気持ち。女の子が作った料理として何かが抜けている気がする」
「二人とも駄目だな」
「ですよね~」
桜崎が言う。
「一応食えるがこれじゃ駄目な気がするてか駄目だ」
「はい、じゃあ、これから教えていきますね」
「ああ、頼む」
桜崎が二人の所に戻っていった。
「……わたひも」
「あなたはそこで六道隼人と楽しくおしゃべりでもしてなさいな」
「ても」
「こっちは大丈夫ですから。というより逆に危ないですから」
言えてる。まだ、玉子焼き程度だからこれで済んでいるがこの先どうなるかまったくの道の領域だ。この小動物みたいな美咲ちゃんがそんな中に入っていったらどうなるか目に見えてる。
「ああ、こっちはこっちで遊んどく」
「ええ、あなたのお姉さんは私たちがきっちりと更正させて差し上げますわ」
さてこんなに大事だったかなこの企画。
はい、そんなわけで女性陣による姉貴or狭間先輩の料理特訓本格始動。
「さて、馬鹿この先どうなるかわからないが覚悟は出来ているか?」
「愚問だよ。隼人、この僕が何の覚悟もしてないと思っているの?」
「いや、確認だ」
「逃げる覚悟はあるよ」
コイツに期待したのがばかだった。
「なんて冗談だよ。きちんと食べきる覚悟は……………………………………あるよ」
「なんだその間は」
「大丈夫大丈夫、こんなときのためにスケット呼んだから」
「だれだ?」
パリィン!!
窓から誰かが飛び込んできた。
「フッ、私を呼んだか」
変態だった。
「何しに来た変態」
「フッ、私はここで女性の愛の手料理が食べられると聞いてな。愛の感染元の私が来なければいけないと思ったのだ」
「手料理といっても手料理だがな。それに二つ名が変わってる上にその名前でいいのかお前は」
「私の愛が感染してしまう。いいではないか!!」
どこまでも変態だった。
「馬鹿なんでコイツを呼んだ」
「え~っとコイツならどんな料理でも食べられるかなって」
確かにコイツなら何でも食べれそうだが。
「変態だぞ」
「うん、間違ってた気がするよ」
「そんなわけで帰れ」
変態はいらない。
「フッ、愛するものたちの願いなら帰ろう」
パリィン。
また窓を割って帰っていった。迷惑な奴だ。
「……おも……し……ろ……ひ」
「他人から見たら面白いかもしれないがアレだけは近づいてちゃ駄目だぞ」
「……?」
「あれは変態だからな」
「あい」
さて、姉貴たちはどうなったやら。
「あかん、うちはもう限界や」
佐藤が抜け出してきた。
「大丈夫か?」
「大丈夫やあらへん。うちでもツッコミきれへんかったわ」
「そんなにやばいのか?」
「まあ、後はあいつらにまかせるわ。うちはそろそろクソ兄のために夕飯を作ってやらなあかんからな」
「そうか、じゃあな」
「ああ、結果だけは教えてくれや」
「ああ、結果だけな」
佐藤は帰った。
「わらわも帰るぞ」
「はい、姫様」
「どうぞ姫様」
「どこに行く気だチビガキ」
「フン、わらわは見ているのも飽きたのでな帰ることとする」
「何もしてなにのに帰るのかよ」
「わらわはこれでも忙しいのでな」
「ただ踏ん反り帰ってるだけだろう」
「じゃあの」
問答無用で帰りやがった。
「さて、私も帰るわ」
「おい赤羽もか」
「ええ、もう少し面白いのを期待していたのだけれど。期待はずれもいいところね」
「お前はどんなのを期待していたんだ」
「そうね、この屋敷が吹っ飛ぶ位は」
「全員死ぬな」
「大丈夫よ。ほら、私みたいなメインヒロインみたいなキャラって」
「性格を除けばな」
「大抵奇跡的に生き残るじゃない」
「お前は自力で生き残りそうだよな」
「ええ、隼人を盾にして」
「俺かよ!!」
「そして隼人の死を乗り越えて生きていくのよ」
「いや絶対、お前人の死とか気にしねえよ。人を盾にしてる時点で」
「まあ、そういうわけで私的にはかなり期待はずれなわけだから帰るわ」
赤羽は帰っていった。
「隼人悪いけど私も帰るわ」
「綾崎もか」
「うん、弟にご飯作ってあげないと」
「それじゃあ仕方ないな」
「悪いわね」
「いいさ、ここまでやってくれたんだからな」
「そう、じゃあね」
綾崎も離脱。
その後残りのメンバー泊り込みでこの姉貴の料理べたを直しは行われた。俺と馬鹿は出来る料理を食い続けた。
俺はまだ耐性があったからよかったが馬鹿は病院へ搬送された。
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「とりあえず教えることは教えたので何でもいいので作ってください」
姉貴と狭間先輩が作りはじめた。
「相変わらず手つきは危なっかしいな姉貴の奴」
「これでも上達しましたよ」
桜崎達が観戦席に来て言った。
「まあ、そうだろうな」
「でも、狭間先輩のは直すのは無理です」
「あの人はしょうがないか。まあ、一応料理は出来るみたいだから」
さて、しゃべってる間も料理は作られていくな。姉貴は炒飯だな。とりあえずこの前のようにはなっていないようだ。狭間先輩は味噌汁だな。あの先輩簡単なの選んでないか。
「まあ、教えたかいはありましたわ」
「そうそう、あたしもがんばったんだよ」
「西園寺と坂井もサンキューな」
「別にいいよ。級友の頼みだからね」
「そうですわよ。私も暇でしたので」
いい奴らだ。
おっとそんな間に完成だな。
「さて、味見しますか」
俺は二人の料理を味見したのだった。
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さて、この修行のおかげか時々姉貴は料理をするようになった。まあ、あまり続かないと思うけどな。ん? あのときの料理の味? ああ、まあ、想像に任せる。ただ一つ言えるのはまあ、誰も死ななかったってことだ。馬鹿も一日だけ検査入院ですんだし。その話を聞いたウメちゃんは。
「誰も仲間にならなかったんですね。残念です」
と割と怖いことを笑顔で言っていた。
これにて姉貴の料理修業は終わったわけだが。姉貴の欠点は家事全般なワケで。俺が姉貴のことをしなくてよくなるのは当分先になりそうだった。
ネタが尽きてきたどうしよう