第三十一話 文化祭、二日目、祭りの終わりはいつまでも
翌日、9月29日。よく寝たことがおかげであまり疲れを残すことなく――嫌な思い出は残ったが――俺は登校した。少し早い時間だが既に生徒は来ていて準備を始めていた。
俺のクラスもすでにほとんどの人間が来ていた。
「おはよ、六道君」
「ああ、あはよう坂井」
「早いね」
「坂井の方が早いぞ」
「う~ん、私はさ、帰ってないし」
「え?」
「あははっ。いや、帰るの面倒でさ~」
「お前のことは常識人と思っていたんだがな」
「あはは、ありがと」
「それを改める必要があるかもしれないな」
「まあ、きちんと寝たしシャワーは借りたから大丈夫」
「それなら、まあ、いいが」
あまり良くないと思うのだがまあ、気にしたら負けだな。
「おお、昨日は良くやったな」
「水原先生、昨日はどこにいたんですか」
「昨日はな町中で宣伝してきた」
「昨日の客はアンタが原因か」
「お前の人気もあるかもな」
それだけはないと思いたい。
「今日も宣伝してやるらな」
「それだけはやめてください」
「そうか。なら私も見て回ることにしよう」
手伝うという選択肢はないようだ。
「さて、準備でもするかな」
「今日は喫茶店昼までだからそんなに身構えなくても大丈夫だよ。昨日ほどお客はさすがにこないと思うし」
「そうだったな」
昼からは体育館企画でクイズ大会や、カラオケ大会などが予定されている。うちのクラスはその時間は営業しないように決めたので今日は何とかなりそうだ。
「だが、昼まででいいのか?」
「なんで?」
「いや、一番の稼ぎ時と思うんだが」
「昨日稼げたのもあるけど、最初から告知してたからね。それにみんながんばったからね。最後くらい楽しまないと」
コイツやっぱり良い奴だな。
「お前良い奴だな」
「うえ! い、いや、そ、そんなんじゃないよ」
真っ赤になった。コイツほめられるのに弱いのかね。
「それに優しい奴だ」
「そ、それ以上は言わないで! 恥ずかしい!」
言うとおり羞恥で耳まで真っ赤だ。
「はいはい」
さて、そろそろ開店時間なので準備し開店となった。
「さて昨日ほどはないといったよな」
「あれ~」
さて、教室の前には長蛇の列が出来ている。確かに昨日ほどないが少ないとは言えない。
「で、でも十二時までだから。大丈夫」
「十二時までに終わるかな」
「がんばる!」
はい、がんばるしかなくなった。
「注文いいですか~!」
「あ、は~い」
呼ばれたのでいく。
「水原先生ですか」
「何だ私は客だぞ」
「何自分のクラスの店に来てるんですか」
「教え子の働きを見てみたいと思うのが教師ってものじゃないのか?」
それはそうだがいつもの水原先生を見ていると信じられないな。
「まあ、いいです、注文はモーニングセット」
「かしこまりましたお嬢様」
「ああ、急いでくれ」
「かしこまりました」
厨房に向かう。
「劉斗モーニングセットだ」
「ああ、出来てるぞ」
「お前たちには予知能力でもあるのか?」
「セバスチャンの実力だ」
「一瞬で作っているとでも言うのか!?」
「まあ、そうなるな」
やはり底が知れないなセバスチャン。
「ほう、これはあの執事が作ったものだな」
モーニングセットを持っていくなり水原先生の台詞。なぜ作った人が見ただけでわかる。
「フッ、愚問だな。私くらいの教師になるとそれが誰の作ったものかなんて丸わかりだ」
アンタは何なんだよ。てか教師にレベルでもあるのか? てか、なぜ俺の心が読める。
「教師の標準装備だ」
「いらないだろう」
「生徒の心を知ることは重要だ」
「プライバシーのへったくれもないな」
「ちなみに岩谷先生はかなりのレベルだ」
そんな情報はいらない。
「さて、うまかったぞじゃあな」
会計を済ませた水原先生はまたどこかに行った。
「教師というものがわからなくなるな」
「何を今更な感じだね」
「坂井はおかしいと思わないのか」
「思うけどいちいちツッコミを入れると疲れるからね」
「なるほどね」
「さあさあ、次々」
次の客はっと。
「今度は岩谷先生ですか」
「うむ、六道かえらく評判が良かったからな」
「それは店の評判ですか、俺の評判ですか?」
「両方だ」
「………………はあ~」
「溜め息か? 悩みがあるなら聞くが?」
「この現状が悩みです」
「慣れろ」
「それだけっ!?」
「冗談だ」
それなら笑うのを止めてから言ってください。
「まあ、今は我慢するしかない。一年の文化祭は一度だけだ。それなら嫌でも楽しんだほうがいい。」
おお、凄い教師みたいだ。
「今凄い失礼なこと考えなかったか?」
「そんなことありません」
「そうか? なら注文していいか?」
「どうぞ」
岩谷先生がメニューを見ながら言った。
「ならこのクレープを」
えらく予想外のものを頼んだ。
「劉斗ー」
「フッ、クレープだろう」
「言う前に出すなよ」
「言っているだろう。セバスチャンの実力だと」
「じゃあ、お前は何してるんだよ。やることないなら接客にまわ――」
「隼人、我にそんなものを着れと言うのか。そんな心が壊れてないと着れない物を?」
「殺すぞ」
「フッ冗談だ。我はここでいろいろとやることがあるんだよ」
「何だよそれ」
「企業秘密だ」
「そうかよ」
もう気にしたら負けな気がしたのでクレープを持っていく。
「お待たせしました」
「うむ、うまそうだな」
ごつい岩谷先生がクレープを食べている姿はシュールだった。
「ではお持ち帰りで100個ほどもらおう」
「どんだけ好きなんだよ!!」
訂正シュールと通り越して摩訶不思議だ。
「あの姿で甘党って違和感ありすぎだろ」
去っていった岩谷先生を見ながら言った。本当に100個お持ち帰りしたし。
「あははっ! まあ、あのお客よりはましじゃない?」
坂井の指差すほうを見ると。
「我が愛をぉー!!!!」
叫んでいる変態が居た。
「あの変態はうちのクラスじゃなかったか」
「あの変態はあそこでここ一時間ほど演説ならぬ絶叫を上げているよ」
「愛いいいぃぃぃぃぃーーーーーー!!!!!!」
うぜえ、てか変態の前に人がひざまずいてんだけどなにあれ、洗脳でもしてるの。
「あははっ変な宗教ができそうだね~」
「笑い事じゃないと思うが関わり合いになりたくないから放っておこう」
アレに関わったらなにかが終わる……ような気がする。
「すみませ~ん」
「は~い、ただいま~」
お呼びなので次に行こう。あの宗教は無視だ無視。
「って、桜崎かよ」
「てへへ。来ちゃいました」
「何で自分のクラスに来るんだよ」
「一回は隼人君のメイド姿を見に来ないと損ですよ」
「…………」
「いいじゃないですか可愛いんですから」
「…………」
「それにミスコンにも出るって聞きましたけど」
「はあ!? どういうことだ」
「なんか今回のミスコンは女装男子のミスコンらしいですよ」
「それで何で俺が出ることになっている。てかおかしいだろ!!」
「う~ん、発案は南雲君だったと思います」
「劉斗!!!」
劉斗のところに行くと。
「面白いだろ」
の一言。
「面白くない!! それで誰が喜ぶんだ!!」
「一部男子と我と紫苑だ。面白くなりそうだからな」
「それで何で俺が出るんだ」
「我は適任と思ったからな」
笑みを浮かべる劉斗。絶対思ってない。
「それに洋平も出るから安心しろ」
「聞いてないよ!!」
どこからか話を聞きつけた馬鹿が飛び込んできた。
「当たり前だ言ったない」
「劉斗ー!!」
「さて、ほら桜崎が注文するであろう紅茶とケーキだ」
「華麗に無視するなー!!」
さて、どこからツッコミを入れるべきか。
「まあいいや」
あきらめよう。
「ほら、お前が注文するであろう料理だ」
「当たりです!! どうしてわかったんですか」
「劉斗に聞いてくれ」
「そうですか。後で聞いてみましょう」
「聞いてもわかるとは思えないんだが」
桜崎がケーキを食べる。
「う~ん、おいしいです」
「そりゃな。セバスチャンがつくればな」
「あれ、執事さんが作ってるんですか?」
「正確には山田君(仮)と衛間宮とセバスチャンだ」
「みんな料理がうまいんですね」
料理のうまさよりは速さの方が驚異的だ。
「まあ、評判を見る限りそうらしいな」
「それじゃあ、私は次に行きます」
「ああ」
会計を済ませ桜崎はまた、どこかへ行った。
「はあ、楽しんでるのはいいんだが自分の担当じゃないからって行くのはやめてほしい」
あいつこんな性格だったか? ……いや、割とこんなんだったな。
「六道君~。次おねが~い」
また、お呼びか。はあ~。
「ただいま~!!」
「やっぱり似合ってるわね」
「綾崎お前もか」
「いいでしょ。自分の所に来たって。それに……」
「馬鹿と変わろうか?」
「え、い、いや、そそそれは……う~ん、お願い」
「はいよ。馬鹿~!!」
来た来た。なんでコイツもあんまりメイド服着ても違和感がない。
「何隼人ちゃん」
「ちゃんで呼ぶな!」
「ぶはっ!!」
一発ぶん殴る。
「綾崎が指名だ」
「ここってそんな店だったっけ?」
「喫茶店だろ。じゃあ、よろしく」
「ちょっとまって!!」
「なんだ?」
「僕を夕菜と二人っきりにする気?」
「当たり前だろ」
「殺されちゃうよ」
「そんなわけ………………」
悪い綾崎弁明の余地が見当たらない。今までの行動を思い返せばそう思われていてもおかしくはない。
「がんばれ」
「まって隼人!! はやとー!!」
さて、そろそろ時間だし俺は抜けるとしよう。準備があるからな。後ろで馬鹿の悲鳴が聞こえるが無視だ。気にしたら負けだ。いつもどおりだ。
「じゃあ、坂井悪いが抜けさせてもらうぞ」
「ああ、いいよ。こっちは大体いいからさ。それにもう終わりだからね」
「ああ、悪いな」
「気にしない気にしない。さあ、行った行った」
体育館に向かいこの後の企画、クイズ大会とカラオケ大会の準備をする。そのうちに生徒が集まりだした。
「こっからだな」
「そうだな劉斗」
遅れてやってきた劉斗がいった。
「ふふん、僕の出番だよね」
いつぞやの金ぴかの服を着た馬鹿がいる。コイツは司会だ。
「準備オーケーよ。ほら、早くしなさい」
「よし、行くか」
そんなわけでまずはクイズ大会開始だ。
「はい~!! 始まりました生徒会主催クイズ大会~!! イエー!!」
馬鹿の異様なテンションの司会で大会スタート。
「ルールは簡単出される問題を答えていって一番正解数が多かった人の勝利です」
単純だな。今回の参加者は10人ってところだ。
「では、第一問え~、あれ、これなんて読むんだっけ?」
おい、最初からつまずいてんじゃないか。
「ああ、わかった。よし第一問赤羽さんのスリーサイズは?」
何ちゅう問題だよ。赤羽に殺されるんじゃないか?
案の定馬鹿は殺されかけていた。
「え~、問題に手違いがありましたのでもう一回第一問」
中々第一問から進まないな。人選間違えたな。
「僕の能力は何でしょう」
それはクイズになるのか? 全員一斉に書き始めてるが。
「それでは全員一斉にあけて見ましょう」
『バカ』
「うわああああん!!」
共通認識だからな。
「正解だ」
劉斗が正解にした。
「劉斗ー!!」
「正解だから仕方ないだろう。さっさと次に行け」
「うう、第二問」
血の涙を流してるぞ馬鹿の奴。
その後もクイズは順調に進んでいった。
・
・
・
「これにてクイズは終わりで~す」
何とか終わったのが奇跡だな。
「後で殺さないと」
赤羽とりあえず手加減してやれよ。
「では、続きましてカラオケ大会、一番手が僕馬鹿洋平で~す」
お前出るのかよ。
「曲は千の○になって」
最初にその曲はないだろう!!
「わたしの~お墓の~ふ~んふ~ふん♪」
うま!! 無駄にうまっ!!
「さあ得点は!!」
『100点』
「よっしゃー!!」
100点カラオケで取った奴始めてみたぞ。てか、なんで無駄にうまいんだ。馬鹿の奴。
「次は赤羽紫苑で残酷な天使の○ーゼ」
えええっ!! 予想外の選曲だよ!!
「残酷な天使の○ーゼ窓辺から~♪」
「おおかなりうまいです」
さて、赤羽は何でも出来るがなんでこんなにうまいんだよ。
「さあ、得点は」
『100点』
100点連発だなおい。
「続きまして岩本小鉄で○ムのラブソング」
何でだよ!!
『うおおおおおお』
なんか騒いでる奴らいるけどなにあれ信者!?
「あんまりそわそわ~♪」
………………コメントできない。したくない。なんか服脱いでるし。気持ち悪い。
「凄まじい歌でした!! 得点は!!」
『25点』
うわ~。
「フッ、私の愛はこんな機械じゃ測れないってことさ」
「なんか本人が納得してるっぽいんで次行きます」
「次は…………南雲劉斗で粉雪」
劉斗が粉雪ね。
「こな~ゆき~」
さて、なんでこんなに無駄にうまい奴ばかりなのだろうか。
「得点は」
『100点』
「さて、100点ばっかですね~、一体どうなるんでしょうか」
それは俺も知りたいな。
と、まあそんなこんなでカラオケ大会も終了し文化祭は終わりを告げた。
「さて、後片付けだ」
「あははっ、まったく今日は楽しかったね~」
坂井が隣に来ていった。
「騒ぎすぎだ。最後本当に祭りになってたじゃねえか」
「まあ、でもさ、楽しかったじゃん」
「そうだな」
それだけは認めていいかな。
「六道君の女装も可愛かったしね」
「それは言うな」
「あははっ」
「そうだ、出来れば名前で読んでくれ」
「? どうして?」
「六道って呼ばれるのあんまり好きじゃないんだ。隼人でいい」
「そうじゃあ、隼人で」
「ああ」
「さ~って片付けるとしますか」
「そうだな」
祭りの終わった後のなんとも言えない気持ちを抱えながらも俺たちは片付けに専念した。
みんなこんな気持ちは抱えていただろう。とても楽しかったから。だからこそ片付けはきちんとしないといけない。また次の祭りに備えて。
こんな気持ちになるなら次ももっと楽しい祭りにしたいなとそう思えた。
うら☆てん
誰もいない。
作「うわ。誰もいないや。つまんないからこれで終わろ」




