第二十四話 嘘と姉貴と優しさと
8月7日、合宿終了から二週間が経った。この二週間はみんな忙しかったのか特に何もなく過ぎていった。両親の墓参りなどを行い久しぶりに静かな休日となった。
だが、そんな平和な日常はすぐに砕け散ることになる。とある存在によって。
それは8月7日の午前11時31分32秒のときだった。なんでこんなに正確な時間を覚えてるのかは気にするな。
ピンポーン。
チャイムがなる。
「誰だ?」
思い浮かぶのはいつものメンバーだがこんな時間に来る理由がない。
ピーンポーン。
再びチャイムがなる。
「はーい」
俺は玄関の扉を開けた。
「遅い!!」
女の声と共に俺の顔面に拳が叩き込まれた。痛みの後に浮遊感そしてまた背中に痛み。
「グハッ!?」
「このアタシを待たせるなんていい根性してるな」
「あ、姉貴」
痛みを堪えながら玄関を見ると俺の姉貴がスーツ姿で六道美香が仁王立ちしていた。
「何しに帰って来やがった!!」
「久しぶりに可愛い弟の顔を見に来るのがそんなに悪いの」
確かにそうだ。だが。
「姉貴がそんなことで帰って来るわけないだろう」
「小さい男ね。まだ、あの事を許す気はないの」
「当たり前だ。俺は姉貴を許す気はない」
「そう……いいわ。あがるわよ」
「勝手にしろ。姉貴の家なんだ」
姉貴が靴を脱いで家にあがる。
「綺麗にしてあるのね」
「世辞はいらない」
「まったく」
「部屋はそのままにしてある好きにしやがれ」
俺は靴を履いた。
「どこに行くの」
「姉貴には関係ないだろ」
そのまま家を出た。
****
玄関の扉が閉まる。アタシには隼人を止める権利はない。拒絶もしかたない。アタシは隼人から大切なものを奪ったのだから。わかっていた。
「わかっていたけど…きついわね」
明確な拒絶。こうなるってわかっていたはずなのに。
「こここにいてもしかたないわね」
アタシは部屋に行った。この家を出た時のまま何も変わっていなかった。いや――。
「掃除されてる?」
定期的に掃除されていたのかどこにも埃は積っていなかった。
「隼人ね。まったく、お人好し。そうね、罪滅ぼしってわけじゃないけどご飯でも作っておこうかしら」
アタシは部屋を出た。
****
俺は公園のベンチに座っていた。
「あ~ったく、これからどうすっかな」
勢いで飛び出して来てしまったがどうしようか。まだ昼も食ってない。まあ、食わなくても何とかなるが。
「はあ~」
姉貴に会うといつもこれだ。理解はしているつもりだけどな~。勝手に反応しちまう。
とっくに姉貴のことは許していた。“あの”後姉貴の話を盗み聞きしたときに全部わかっていた。だけど、心が拒絶する。意地が邪魔をする。
「はあ~」
さて、本当にどうしよう。出てきてしまった手前戻るに戻れない。
「あら、どうしたの?」
「赤羽か」
私服の赤羽がそこに立っていた。
「何でもねえよ」
「あら、どうせ、家にお姉さんが帰ってきていつものように怒ってしまって勢いで飛び出して途方にくれていたってわけね」
驚異的洞察力これが赤羽クオリティ。ってなんだそりゃ。
「どこで見てた」
「当たってたの。そう、あてずっぽだったのに」
「……」
「じゃあ、がんばってね」
「何もしないのかよ」
「そっちのほうがおもしろそうだから」
赤羽は公園から出て行った。
「あいつ何しに来たんだよ」
赤羽の行動原理などわからん。
「ほう、姉が帰ってきたのか」
「劉斗」
俺の後ろに劉斗、バカ、綾崎がいた。
「いま、僕のことバカって思ったよね」
「で、何をしているんだ」
「なに、面白いことがありそうだったからな」
「無視するな!!」
こいつら。
「私はただ歩いていただけよ」
綾崎が言った。
「で、何がしたいんだ?」
「いや、ただ声をかけただけだ。じゃあな」
劉斗、馬鹿、綾崎はすぐにどこかに行った。
「何がしたいんだよ」
こんなときに。
「どうしたんですか?」
「今度はお前か」
桜崎がそこにたっていた。
「いえ、通りかかったら見えたので。それでどうかしたんですか?」
「どうもしない」
「嘘ですね」
「嘘なんかついてねえよ。ただ、姉貴が帰ってきただけさ」
「お姉さんがいたんですか?」
「ああ、仕事で世界中を飛び回っているからほとんど帰ってこないけどな」
「それなら家にいたほうがいいんじゃ」
「戻る気はない」
「そんなこと」
「あいつは俺の大事なものを奪った。俺のためにやったってことはわかってる。だけど頭ではわかっていても心が拒絶するんだ」
「戻るべきです!」
いきなり桜崎が大声を出す。
「はあ!?」
「そこまでわかっているなら戻るべきです。素直になりましょうよ。お姉さんも後悔していると思うんです。隼人君はわかっているはずです。私の知ってる隼人君はそういう人です。誰かのために必死になれる人です!」
「ああ、姉貴は後悔してたさ。わかってんだよったく」
俺はよろよろと立ち上がった。
「どこ行くんですか?」
「帰る。ここにいると何かとうるさい奴に説教されそうだからな」
「誰ですかその人?」
「さあな。じゃあ」
「はい、また」
俺は公園をあとにし家に帰った。
「ただいま」
返事が返ってこなかった。
「ん? 寝てるのか? ならちょうどいい」
昼まだ食ってなかったからな今のうちに食ってしまおう。
「ん?」
リビングに行くと姉貴がテーブルに突っ伏して寝ていた。
「こんなとこで寝るなよな」
タオルケットを持ってきて姉貴にかける。
「何だこれは!!」
キッチンは調理器具で溢れ食材の切れ端などが流しに溢れ油はねなど様々なもので汚れていた。まるでというよりそのまま壊滅状態。何があったんだよって料理しかないか。
「料理でもしたのか姉貴の奴。まったく、料理できないくせになにやってるのやら」
テーブルの上には何なのかすらわからないようなものがあった。
「一応炒飯みたいだな」
よく見れば二人分作ってあった。一人は食べてあった。もう一人分にはメモが貼ってあった。
『これもアタシの分だから隼人は食べないで』
「そんなわけないだろうが。料理できないやつが何が楽しくてまずい料理を二人分も食べるんだよ」
おそらく久しぶりに料理作っておこうと思ったけど失敗した。それで食べられたくないからこう書いたというわけだろう。
「まったく、そういや昼まだだったな」
炒飯もどきを見る。
「寝てるのが悪いんだぞ」
スプーンを取り炒飯もどきを食べ始めた。
****
「う、うう~ん。ふあ~あ」
どうやら寝ていたみたいね。
「あれ」
アタシにタオルケットがかけられている。
「ん?」
キッチンの方で皿などを洗う音が聞こえる。それに作った炒飯がなくなっている。
「隼人?」
「なんだ、ようやく起きたのか姉貴」
キッチンには皿を洗っている隼人がいた。
「な、んで?」
「自分の家に変えるのに理由なんているのか? で、何だこの有様は」
「ちょっと料理しただけよ。悪い?」
「それなら片づけまでやって寝てくれ」
「……ねえ、そこにおいておいた炒飯隼人が食べたの?」
「ああ、何だ食べたら悪かったのか?」
「わ、悪くないけど……」
「うまかったぞ」
「え?」
今、なんて言った?
「何きょとんとしてんだ。うまかったぞ」
「そ、そうなの」
「ああ、まあ、今度から俺が作るから姉貴は何もしないでいいぞ」
「そ、そう、じゃあ、アタシは部屋に戻るわ」
「ああ」
アタシは部屋に戻りベットに倒れこんだ。
「……うまかった、か、ありがとう隼人」
アタシはそう呟いて眠りについた。
****
姉貴が二階に消えるのを見た。久しぶりに姉貴の喜ぶ顔を見た気がする。
「まあ、これで少しは姉貴も楽になるかな」
正直に言おうあの炒飯はおいしくなかった。でも、姉貴の気持ちは伝わって来た。
「これからは少しはましに付き合えるかな」
姉貴が背負っているものは俺にはわからない。でも、俺のために誰かが不幸になるのを俺は見過ごすことはできない。
「できれば姉貴は姉貴の幸せを掴んで欲しいな」
せめてこの家にいるうちはなるでく迷惑はかけないようにしよう。それもいつまで続くかわからないが。
「まあ、こう決意できたのがアイツのおかげなのが癪に障るが」
いずれ桜崎には礼をしておかなとな。
「さて、夕飯くらいはちゃんとしたもの作るか」
俺は夕飯に何を作るか考えながら姉貴の好きなものでも作ってやるかなと思いながら冷蔵庫を開けた。
うら☆てん
作「隼人僕疲れたよ」
隼「何フラン○ースの犬みたいなこと言ってんだ。こちとらあんな炒飯食わされたんだぞ」
作「とっても眠いんだ」
パタン
隼「寝やがった!」
作「ぐう~」
隼「ダメだこりゃ」