第二十二話 肝試し 六道隼人と狭間由宇の場合
山の中に入った。
以外に雰囲気が出ている。これは中々怖そうだ。
だが、反応はまちまちだった。一体何があるというんだろう。
その時誰かに手をつかまれた。ってか狭間先輩だ。
「どうしたんです?」
「ん、はぐれないように。じゃあ、行こう」
どうやら先導してくれるようだ。こういうところはいい先輩だな。
「先輩って怖いものとかあるんですか?」
「ん? どうして~?」
「いや、気になって」
「ん~? 科学が通用しない相手」
「それって肝試しだめじゃないですか!!」
幽霊とか明らかに科学じゃなくてオカルトだ。
「肝試しは大丈夫」
「どうしてですか?」
「これは隼人君と一緒だから」
へ~。そうなんですか。
「って!? えぇ!!」
「他の人といるから大丈夫~」
「なんだ、そういうことですか」
一瞬ドキッとしてしまった。ああ言われたら誰でも勘違いしてしまうだろう。
「ん~でも、隼人君と一緒にいると落ち着くのは本当~」
「え?、それってどういう?」
「秘密~」
意地悪く微笑む狭間先輩。思わず見とれてしまった。
「あ~!!」
「どうしたんですか!」
「墓地に着いた」
「それだけで騒がないでください」
「ごめんね~」
まったく、この先輩は。
「あと」
「あと?」
「もう疲れたからおぶって」
ガク。
せっかく見直したのにこれで+-0になった。やっぱり狭間先輩は狭間先輩だった。
「嫌です」
「え~!」
「なんと言おうと駄目です。それじゃ意味ないですよ」
なんかもう手遅れなきがするがこの先輩をせめて普通程度の体力をつけさせなおかつ更正させる。とりあえずこの先輩が卒業するまでの目標。
「む~、エイッ!!」
「うわ!!」
掛け声と供に狭間先輩が俺に飛び乗ってきた。咄嗟のことで避けることが出来なかった。
「騎乗~」
はい、強制的におんぶする形に。その際いろいろ背中に当たっているが無視だ無視。……できればいいな~。
「はあ~。じゃあ、行きますよ」
「うん~」
笑ってくれこのへたれの俺を。笑うがいいさ。
****
一方茂みに隠れている水原先生は。
「……」
二人の光景を見て絶句。
「……う~ん、狭間、狙ってやってるのか? わからん奴だ。しかし……」
一泊。
「面白くないな。だが、あの状態だとなんかやったら危ないからな。さてどうしよう――ん?」
水原先生が振り返るとそこに赤羽がいた。
「赤羽!! なんでここにいる」
「おもしろそうだから」
「お前な」
「で、あれを何とかすればいいんでしょ?」
「そうだが、できるのか?」
「ええ、簡単、こうすればいいの」
赤羽が水原先生に耳打ちする。
「そんなのでうまくいくのか?」
「ええ。大丈夫よ」
「じゃあ、やってみるか」
何かをやるご様子だ。
****
墓地を歩いていると茂みから何かが飛んで行った。
「なんだ?」
「!!」
その時狭間先輩が飛び降り走り出した。物凄い速さで。
「早っ!! え、なんだ!?」
見ると飛んでいっているのはノートパソコン。回転しながら物凄いスピードで飛んでいく。
「……水原先生、いるんでしょ」
「わかるか」
茂みから水原先生が出てきた。
「こんなことするのは水原先生だけです」
「それもそうだな。で、追わなくていいのか?」
「大丈夫でしょう」
「それが大丈夫じゃないかもしれないわ」
赤羽が墓穴から出てきた。
「どこから出てきてんだ!!」
「そこ」
「墓を指差すな!!」
「いいじゃないの死人は…しゃべらないのだから」
赤羽の言い方に何かあるような気がした。
「で、大丈夫じゃないって何がだ?」
「あの先、崖よ」
俺は走り出した。
「あらあら」
「私も行くぞ!!」
水原先生も走り出した。
「まったく」
赤羽は静かにその場を後にした。
「ったく、どこにあんな体力があるだ」
狭間先輩はかなり早い。こんな力があるなら普段から使って欲しい。
「ってこんなこと考えてる場合じゃない。狭間せんぱ~い!!」
叫んでみるが聞こえていないようだ。
「クソっ!!」
目前に崖が迫っている。
狭間先輩が飛んだ。空中でパソコンをキャッチ。
「あれ~?」
そのまま崖に。
「間に合え!!」
俺は勢いをつけ跳ぶ。狭間先輩の手を掴んだ。そしてなんとかギリギリで崖を掴むことが出来た。
「くっ!! 大丈夫ですか?」
「なんとか~」
「じゃあ、しっかり掴んでください」
「うん~」
そういってパソコンを掴む狭間先輩。
「違います!! 俺の手をしっかり掴んでください」
「わかった~」
狭間先輩がしっかりと掴んだ。しかし、この状況はまずい。狭間先輩がいくら軽いとはいえ人間二人分の重さを支えているかなりきつい。しかも、何気にパソコンは重量があった。
「さて、ここからあがるのは……難しいな」
狭間先輩がパソコンを離してくれれば助かるんだが。それは無理そうだ。
「くそ」
それからどのくらい経ったのだろうか。なんとか時計を見るとまだ一分しか経っていない。
「やばいな。早くなんとかしないとまずい」
だんだんと力が入らなくなってきた。
「大丈夫?」
「なん…とか」
「……」
狭間先輩が微笑んだ。
「先輩?」
「心配しないで」
とても優しい声でそう言って。
「え?」
狭間先輩はパソコンを離した。パソコンが落ちていく。
「……先輩」
「いいの。隼人君は大丈夫?」
「ええ」
そのおかげで多少楽になった。正直なところ少しだけ延命したに過ぎないけど、なんとか狭間先輩だけは助けないと。
俺は二度と俺の目の前で誰も死なせたりなんかしない。
「先輩、何とか上に上がれますか?」
「ごめん、無理」
「そう…ですか」
これは覚悟を決めるしかないか。
その時茂みから水原先生が現れた。
「無事か!!」
「水原先生!!」
「今助ける」
なんとか水原先生に引き上げてもらった。
「助かった。はあ~」
地面に寝転がる。
「隼人君がんばった。いい子、いい子」
狭間先輩に頭をなでられる。それが妙に心地よくて俺の意識は沈んでいった……。
****
「眠ったか」
水原先生が隼人君の顔を覗き込んで言った。私はなでるのをやめる。起こしてしまわないように。
「うん~」
「感謝しろよ狭間」
「してる~」
「まったく」
水原先生が呆れたように笑う。確かに少し無謀すぎたかも反省~。
「少し寝かせておいてやるか」
「うん、そうしたほうがいい~」
「しかしそのままじゃ寝にくいな」
「なら、こうする~」
隼人君の頭を自分の膝にのせる。
「お前、考えているのか天然なのか」
「?」
「いや、なんでもない」
「かわいい寝顔~」
「ふ、まだまだ、子供なんだお前たちは。私からしたらみんなかわいいもんだ」
「そうなんだ~」
「さて、私は戻る。しばらくしたら起こしてやれ」
水原先生は帰っていった~。
「ありがとう隼人君」
お礼におでこにキスをする。気づかないけどいいよね。
ありがとう隼人君。
****
「う、うう」
目が覚めると目の前に狭間先輩の顔。……俺、膝枕されてる?
「……うわ!!」
「あ、起きた~」
「せ、先輩!! すみません今起きます」
「まだいいのに~」
「いえ、おきます!!」
すぐに上半身を起こす。
「あの、どのくらい寝てました?」
「五分くらい~」
五分か。まさかあれくらいで寝てしまうなんて。
「はあ~」
「どうしたの~?」
「自分の不甲斐なさを悔いているんです」
「??」
わからないようだ。まだ、俺はあの温もりを捨てられていないのか?
「じゃあ、帰ろう~。もう遅い~」
「そうですね」
立ち上がる。だが、狭間先輩が立ち上がらない。
「どうしたんです?」
「足、痺れた~」
「おぶりますよ。それの原因は俺にあるんですから」
「よろしく~」
狭間先輩をおぶり宿泊施設にもどる。幸い水原先生が道を作っておいてくれて迷うことはなかった。
「今度から気をつけてくださいね」
「うん~」
「いいですか」
「うん~」
「ホントにわかってるんですか?」
「スースー」
狭間先輩は寝ていた。
「寝ちゃったか。……お疲れ様です。先輩」
起こさないように狭間先輩を水原先生に任せ俺は部屋に戻った。
「遅かったな」
部屋に入ると劉斗が待ち構えていた。馬鹿は寝ている。
「いろいろあってな」
「赤羽から聞いたぞたいへんだったんだって?」
「まったくだ」
「まあ、お疲れ」
劉斗がコーラを差し出して来た。
「ああ」
それを受け取り飲む。なんだかんだで充実していたといえる。
「さて、寝るか」
布団にもぐりこむ。
「ああ、そうそう。コーラ代150円だからな」
「金とんのかよ!!」
劉斗は一瞬で眠った。
「まったく。寝よう」
俺も眠りについた。
今日も楽しかった。
最後にいろいろあったがまあ、楽しかったな。
うら☆てん
隼「まさかあんなにことになるとは思いもしませんでしたよ」
狭「私も~」
隼「てか、体力あるじゃないですか」
狭「ん~? ないよ~」
隼「めっちゃ走ってましたよ」
狭「気のせい~」
隼「いや、無理ですからどうやっても走った事実は消えませんから」
狭「……消せないなら上書き~」
隼「記憶の上書きはできません」
狭「大丈夫脱ぐから~」
隼「は!?」
気がついた時には既に遅く。狭間先輩の美しい裸体を見てしまった。
狭「上書きできそう~?」
隼「…………コクリ」
俺は頷くしかできなかった。