第十七話 雨と勉強と肝試し
合宿三日目、大雨が降っていた。
「さて、予定では山に行く予定だったんだがこの通り雨だ。だから、今日も自由にしてろ。ただしこの宿泊施設内だけだ」
水原先生はそう言って部屋に戻っていった。やる気ないなあの先生。ここに来て部屋に篭ってるだけじゃないか。いったいなにをやっているんだ。
「さて、どうしますの?」
西園寺が聞いてくる。
「さて、どうしよう」
思えば合宿らしいことは何一つやっていない。ただ遊んでいるだけだ。こんなんでどうするつもりなのやら。
「そんなことだろう思いましたわ。そんなわけで勉強会でも行いましょう」
「嫌だ!!」
馬鹿が即答した。
「認めませんわ。夏休みとはいえ宿題は出ているのですからやってしまったほうが楽でしょう」
「それもそうか。夏休み始まってすぐここに来たからな」
俺は賛成した。そのほうが楽だろうしな。
「でも、勉強道具とか持ってきてないよ!」
馬鹿が抵抗のつもりとばかりに言う。
「安心しろ。お前たちの勉強道具は全て持ってきてある」
劉斗が言った。
「劉斗ー!!」
「じゃあ、多数決を取りますわよ」
馬鹿以外全員手を上げた。
「クソ……終わりだ」
馬鹿がこの世の終わりのような顔をしている。
「あきらめろ」
「じゃあ、琴峰はうちが受験勉強見てやるわ」
佐藤が琴峰に提案する。いつの間に仲良くなったのやら。
「お願いします」
そんわけで勉強会開始。
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「わからない!!」
馬鹿がとき始めて五分で言った。
「洋平。これまだ最初の問題よ! これが出来ないってアンタ何してたのよ!」
綾崎が馬鹿に食ってかかる。
「寝てた!!」
「これは万死に値するわね」
赤羽がカッターを持ちながら言う。
「ボコボコにしてあげるわ」
綾崎がポキポキと鳴らしながら言う。
「道端の雑草のごとく死ぬがいいですわ!!」
西園寺がスタンガンを持って言った。
「ぼ、暴力には屈しないぞ!!」
その割りに声の震えている馬鹿。
「終わった~」
狭間先輩のゆるい声が響く。
「「「「「え!?」」」」」」
驚く声が響く。驚愕が場を支配する。
「あの狭間先輩終わったってなにが?」
「宿題~」
「全部ですか?」
「全部」
「……」
「……」
「先輩頭よかったんですか?」
「さあ~」
さあってこの人は一体。かなりの量があったはずだ。しかも二年生かなり難しいはず。
「劉斗、これはどういうことだ」
「我もいろいろ気になって調べたんだがあの人のIQは200越えだ」
「なにー!!」
「セバスチャンに調べさせたから確実だ。それに定期テストはほとんど満点だ」
「あの人そんなに頭よかったのか」
人は見かけによらないんだな←失礼。
「じゃあ、馬鹿に教えてやってもらえますか?」
「うん、いいよ~」
狭間先輩が馬鹿のところに行き教え始めた。
「ねえ隼人大丈夫なの?」
綾崎が聞いて来るが俺は肩をすくめるしか出来ない。
「頭はいいみたいだが」
「馬鹿に教えられるかという問題ね」
赤羽が俺の言わんとしたことを言った。
「ああ、そうだ」
しかもあのゆるい先輩に馬鹿をどうにかできるとは思えないな←断定。
しかしその予想は裏切られることとなる。
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そうして30分が経った。
「終わった~!!」
馬鹿の声が部屋に響く。
「「「「「何ーー!!!!!」」」」」
「うわ!! 何だよ。僕が終わったらおかしいの!!」
「おかしい!!」
俺は断言した。
「酷い!!」
「世界の終わりか」
劉斗が真面目な顔で言う。
「僕の宿題が終わるのが世界滅亡の鍵!?」
「槍が降るかもしれないわ」
綾崎が外を見ながら言う。
「降らないよ!!」
「落ち着いてみんな。これは夢かもしれないわ」
赤羽が馬鹿の頬を引っ張る。
「イタタタ!!! 夢じゃないよ!!」
「ありえませんわ」
西園寺はドン引きだ。
「あかん、おかしすぎて笑えへん」
佐藤は頭を抱えている。
「あ、あのここは素直にほめてあげても……」
桜崎が言った。
「うむ、それがいいぞ。人間ほめて伸びるからな」
琴峰もそれに賛成した。
「ありがとう。二人は女神だよ!!」
馬鹿それは大げさじゃないか。
「あ、あははは」
桜崎ですら苦笑い。
「本当にあってますわ」
解いた問題を確認していた西園寺が言った。
「こっちも」
「こっちもよ」
綾崎と赤羽も驚いていた。
「狭間先輩一体何をしたんですか。このバカの宿題を終わらせるなんて! 神だ」
「エヘン!」
狭間先輩は胸を張った。そのせいで胸が強調されて大変なことになっている。俺の視界が。
「……ゴホン。と、とりあえず俺たちも終わらせよう」
「そうですね」
馬鹿を放って宿題を終わらせようとした。
「みんなも教えてあげる~」
狭間先輩が提案した。珍しい。狭間先輩が自分から何かしようとするなんて。褒められたのがうれしかったんだな。
「いいんですか?」
「うん~」
「じゃあ、お願いします」
「任せて~」
エヘヘと笑いながら狭間先輩は教え始めた。
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二時間後俺たちは狭間先輩に対する認識を改めることとなった。
「まさかこれほどとは」
「エヘン」
なんと二時間お昼時には全員の宿題が終わっていた。
「これは夢か」
劉斗も驚愕を隠せないようだ。
「我の目に狂いはなかった」
いや、なにを考えていたんだ。
「ますます欲しいわね」
赤羽が危険な発言をする。
「ね、言ったとおりでしょう!!」
悔しいが馬鹿の言ったとおりだった。
「ああ、そうだな。それより狭間先輩」
「ん? なに~?」
「すみませんでした」
俺は頭を下げた。
「どうしたの~?」
「いや、正直狭間先輩のこと見くびってました」
「そう、気にしないよ~」
なんか初めていい先輩だと思った←失礼。
「じゃあ、終わったから」
狭間先輩はノートパソコンで何かやりだした。
「こっちもひと段落や」
琴峰を見ていた佐藤が言った。
「うん、かなりわかりやすかったぞ!!」
琴峰がノートを片付けながら言った。
「そうやろそうやろ」
「よかったみたいだな」
意外だな佐藤にこんな特技があるとは。
「さて、何しようかな」
とりあえず昼食を食べてからから考えることにした。
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さて、昼食を食べ満腹になった俺は迂闊にも眠ってしまった。
いろいろあったんだ眠ってしまた俺を誰が迫られる。
起きると既に日は沈みかけていた。体にはタオルケットがかけてあった。
「あ、おきましたか?」
起きた俺に気がついた桜崎が近づいてきていった。
「ああ、お前がかけたのか?」
「いえ、由宇先輩が」
「狭間先輩が?」
狭間先輩を探すと部屋の隅でパソコンを操作していた。
「そうか」
「はい。あと、雨がやんだみたいです」
「ほんとだな」
「で、夕食のあとエントランスに集合だそうです」
「わかった」
食堂に向かい夕食を食べエントランスへ向かった。
「よし、集まったな」
水原先生が集まった。俺たちを見て言った。
「何をするんですの?」
西園寺が聞いた。
「こんな夏の夜にやることといったら決まっているだろう!!」
「??」
西園寺はなんのことかわからないようで頭の上にハテナマークを浮かべている。やったことないんだろう。
「肝試しだ!!」
水原先生が高らかに宣言した。
「え゜!」
西園寺が驚く。そんなに驚くことか?
「どうした西園寺?」
水原先生が聞く。
「い、いえ、何もありませんわ」
「? そうか、じゃあ、行くぞ!!」
場面は変わって山入り口。雨が降ったせいか昼とは違う空気を醸し出している――気がする。
「ここから入っていったところに墓地があるそのさらに奥に祠があるんだがそこに生徒会のエンブレム(私作成)を置いてきたからそれを取って来い」
墓地ね。確かに肝試しにはもってこいな場所だ。
「二人ずつ行ってもらうからくじ引きで相手を決めるぞ」
水原先生がくじを取り出す。
「じゃあ、引け」
それぞれくじを引く。
結果、1組目、桜崎と西園寺。2組目、馬鹿、琴峰。3組目、劉斗、赤羽。4組目、綾崎、佐藤。そして5組目は俺と狭間先輩という組み合わせになった。
「じゃあ、行って来い!!」
水原先生の号令の下、肝試しスタート。
うら☆てん
隼「はい、今回も始まりましたうら☆てん。今日の相棒はこの方」
狭「こんにちは~狭間由宇です~」
隼「はい、それにしても今回の話は勉強会でしたけど一体どうやって馬鹿に教えたんです?」
狭「普通教えた。馬鹿君頭いい」
隼「いや、あいつバカですよ」
狭「能ある鷹は爪隠す」
隼「いや、奴には隠す爪はないと思います」
狭「さて、次回は肝試し~」
隼「唐突に予告に入った!!」
狭「お楽しみに~」
隼「終わった~!?」