第九話 校外研修一日目
五月になり春の風物詩であり俺の嫌いな桜は散りピンクから新緑の緑へと世界は様変わりしていた。
そんな五月十三日。
俺たちは校外研修へと向かっていた。
「校外研修か。確か山だったよな」
後ろに座っている劉斗に聞く。このバスの席は担任である水原先生のくじ引きできめたのだが桜崎は俺の隣になり俺の前が赤羽と彩崎、後ろが馬鹿と劉斗という奇跡の配置になっていた。
「ああ、学校所有の山だそうだ。割としっかりした研修施設があるらしいぞ」
「そうなのか」
現在、バスの中で移動中だ。馬鹿はハシャぎすぎで疲れたのか寝ている。子供かコイツは。
「思考回路が子供と変わらないんだろ」
「それもそうだな劉斗」
納得だな。
「それにしても」
桜崎も綾崎もバスに乗った瞬間に眠ってしまった。
「なんかラクガキしたくなってきたな」
それほどまでにのんきに眠っている。
「なら、洋平の顔にでもラクガキしておくか。油性ペンで」
劉斗が油性ペンを二本取り出した。
「そうだな」
油性ペンを受け取って答える。
そのあと馬鹿の顔にしこたまラクガキしてやった。もはや人に見せられる顔ではない。それでも起きなかった。
「フフ、楽しそうね」
赤羽がノートパソコンを操作しながら言った。
「お前は何やってるんだよ。ノーパソまで持ってきて」
「株」
一言で答えた。
「高校生がなにやってんだよ!」
「これも家のためなのよ」
「ッ! すまん」
「いいのよ」
赤羽の家はここでは語れないくらい複雑だ。俺も詳しいことは聞いていない。赤羽が話す気になるまでは聞かないことにしてる。この情報も劉斗に聞いた。聞いた日に赤羽にバレた時は記憶がなくなるまで拷問された気がする。
「今思い出しても震えが止まらない」
「お前なんかまだましだ。俺なんかあの後……口に出すのも恐ろしい」
劉斗も恐ろしい目に遭ったらしい。
それから三十分後、出発から一時間半郊外研修一日目の登山の山についた。
「ここからは登山だ。遅れるなよ!」
水原先生が先頭で叫んでいる。
「さて、桜崎、とりあえず遅れるなよ」
「わ、わかりました」
そんなわけで登山開始。
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「さて、馬鹿どうしてこうなったのか説明してもらおうか」
人に見せられない顔の馬鹿に言った。
「さあ」
「殺す!」
「だ、駄目です!」
「離せ桜崎コイツだけは殺す」
「そうだな隼人」
「そうね」
現在の状況を説明しよう。
俺達は現在遭難中だ。馬鹿がよくわからん妖精を追って脇道にそれたおかげで遭難した。当たり前だが妖精は馬鹿の幻覚だった。
「こんなことならほっておくんだった」
今更だが後悔する。
「こんな時の為の携帯じゃないか!」
馬鹿がぬけぬけと言った。馬鹿が携帯を見る。
……。
「圏外だー!!」
「定番だ」
「そう思うなら劉斗も何か考えてよ!」
「お前の責任だお前が考えろ」
「僕にはできることとできないことがある!!」
誇らしげに馬鹿が言った。
「出来ないことの方が多いと思うんだが」
「洋平、誇れることじゃないぞ」
さて、本格的にどうするか。
「方位磁石は?」
彩崎が提案した。
「それだっ!!」
馬鹿が方位磁石を見た。
……クルクル回ってた。
「うわあああ!」
「落ち着けバカ!」
「磁場のせいかもね」
「紫苑、何か考えてだろ?」
劉斗が言った。
「期待してくれるのは嬉しいけど私も流石にお手上げよ」
「それは本当か?」
「ほんとよ隼人」
怪しい。あの“赤羽”がお手上げなんて有り得ない。
「私はお手上げ、現在地しかわからないわ」
「わかってるじゃねーか!!」
その後何とかクラスに追いつき頂上に辿り着くことができた。
『クスクスクス』
「ねえ、劉斗」
「何だ?」
「何で僕は笑われてるの?」
なんとまだ気づいてなかったんだな。
「鏡を見ろ」
「え?」
馬鹿がトイレに行った。鏡で確認しに行ったのだろう。
「キャーーーーー!!」
馬鹿の悲鳴が響いた。そしてドドドドと馬鹿が走って来た。
「劉斗ー! 隼人ー!!」
「お前が寝てるのが悪い」
「そうだ」
「反省する気は零のようだな。ならここで決着をつけよう」
馬鹿のひまわりの種が割れた。
「また、こりもせずに種か」
「隼人本気で行くぞ」
「わかったよ」
「行くぞ!!」
俺たちは同時に突っ込んでいった。
・
・
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結果から言おう。俺たちの圧勝だった。
「くそう」
「お前には一生無理だな」
「少しは学習しろ」
「おら、お前ら、下山するぞ!」
「え!? 僕はまだ、昼食ってません!」
「お前がふざけてるのが悪い」
「隼人だって食べてないだろ!」
「俺たちは食ったぞ」
「我と交代しながらな」
「ちきしょー!」
「どの道お前今日は塩と水だけだろうが」
「な、なぜそれを!」
「近所のおばさんからだ」
「おばさーん!!」
「行くぞ~!」
馬鹿を置いて下山。
「さて、全員いるか~」
「バカが居ません」
「まあ、問題ないだろ」
「よくないよ!!」
「追いついてきたか。それならさっさとせきにつけ」
そんなこんなで宿泊施設へ。オリエンテーリングも済み部屋へ移動。ちょっとした自由時間。馬鹿と劉斗と山田君(仮)と同じ部屋だった。
山田君(仮)は成人男性より少し高い身長、日焼けした肌、真っ白な白髪の男だ。
「行くぞ贋作師!」
馬鹿が叫んだ。
「どうした!」
馬鹿は答えない。爪楊枝が展開される。その数およそ30。
「……」
山田君(仮)は動じずに手をかざす。
「行け爪楊枝!」
爪楊枝が発射された。
「……ローアイアス」
山田君(仮)の前に七枚の花弁が展開された。
「本当に何やってるんだよお前たちは」
俺あきれたように言った。
暴れまわる馬鹿と山田君(仮)。
「貴様等! 暴れるな!!」
水原先生が馬鹿と山田君(仮)を殴り倒した。
「先生たちの部屋は下だったのか」
「気をつけないと危険だな。セバスチャンにも言っておくか」
「セバスチャン来てるのか?」
「ああ、たぶんその辺りに居るだろう」
「そうなのか」
それから30分後の夕食の後の入浴時間。
「劉斗、隼人、ついにこの時が来たよ」
馬鹿が真剣な顔で言った。
「何無駄に真剣に言ってんだ馬鹿」
「どうせ覗きに行くんだろ?」
「そうだよ、劉斗」
「一人で行ってろ」
「隼人はついて来てくれるだろ?」
「行くわけないだろ」
言ったら若干二名に肉体的に殺されてされに精神的に殺され社会的に抹殺されるだろうからな。
「なんてことだ! お前たちには夢はないのか!」
「何ムキになってるんだよ馬鹿」
「二人とも行きたくはないのか楽園に!」
「リスクが高すぎるからな」
劉斗が当然という風に言った。
「失望したよ二人とも! そうか、僕だけで行くよ」
「待ってください導師!」
なんかオタクみたいな奴らが現れた。というより俺たちのクラスメートだった。どこから入ってきたんだよ。
「お、おまいら、最高だ! 行くぞ楽園へ!」
『おおー!!』
馬鹿たちは勢いよく出て行った。
「どうなると思う劉斗?」
「そうだな、まあ、いつもどおりだな」
開け放たれたドアを閉めながらとりあえず生きて戻れるように祈っておこうかなと思った。
****
「行くんだ、僕は楽園に!」
「隊長! 斥候部隊から報告! 目標には警備員多数、そして水原先生です!」
「やはり来たか生活指導の水原」
「報告! 英語のゴリ山がこちらに接近しているとのことです!」
「移動するぞ! 目標はAポイントそこまでいければ我々の勝ちだ!」
『おおー!』
必ずこの作戦を成功させる。そして、行くんだ楽園に。
「どこに行こうというんだ貴様ら」
生活指導の水原が僕の目の前にいた。
「もうここまで」
「さて、貴様ら、どこに行こうというんだ?」
「楽園だ」
「まったく貴様らという奴は、私が居る限り通すと思っているのか?」
「くっ!」
確かにこのままじゃ」
「隊長!! ゴリ山が!!」
「挟み撃ちか」
「さあ、さっさと帰るんだな」
「僕は…」
「?」
「僕には譲れないものがあるんだー!!」
「それが覗きといってるんだよ!」
その時後方のゴリ山と水原を仲間達が押さえつけた。
「貴様ら!!」
「導師!」
「佐竹君!」
「我々に構わず!行ってください!」
「だが!」
「我々はあなたのために集まったのです! 早く!!」
「貴様ら! その団結力をもっと有効に使え!!」
「わかった僕は行くよ!」
僕は駆け出した。あいつらが開いてくれた道を数人になってしまった仲間と供に走った。
「かならず、行くぞ!」
「はい!」
僕たちはエアダクトの中を移動していた。
「ここからなら気づかれずにいけるはずだ!」
ここの宿泊施設の構造は全て頭に入っていた。
「ここからは繋がってない。下に下りよう」
エアダクトから出る。楽園はもう少しだ。
「どこに行こうって言うの?」
こ、この声は!
「夕菜!」
ジャージ姿の夕菜が立っていた。
「そんなに見たかったの?」
「赤羽さん!」
これまたジャージを来た赤羽さん。
「私の裸を見ていい男子はただ一人ですわ!」
「西園寺さんも!」
そしてその後ろには殺気だった女子の軍勢が!
「どうして、まだ、風呂に入っているはずなのに」
「交代制なの忘れたの?」
夕菜が言った。
「く、作戦は失敗か」
「あきらめないでください隊長!」
僕を守るようい立ち塞がる部下たち。
「お前ら」
「隊長、今は退いてください。隊長さえ生きていればまた、やり直せます!」
「くっ! すまない!」
「あ、まちなさ~い!!」
「行かせるかー!」
「ちょっとどきなさいよ!!」
「どくわけにはいかない!!」
僕は聞こえてくる声を聞きながら走った。必ず楽園に行くことを死んだ仲間たちに誓いながら。
****
ガチャ……バタン
馬鹿が帰ってきた。
「おう、帰ったか、生きてたんだな」
「……」
馬鹿は答えなかった。
「おい、どうしたんだ?」
「仲間たちはみんな死んだよ」
「そうか、残念だったな」
「劉斗! 隼人! 僕は悔しいよ!」
いや、悔しいって何がだよ。
「僕はあいつらの期待に応えられなかったなのにあいつらは! 僕は絶対に楽園に行く」
「いや、やめとけよ」
「それなら本気でやれ」
「止めとけよ劉斗!」
「ああ、わかってるよ。まずは仲間を集める。そして、今度こそ」
馬鹿が携帯でどこかに連絡しだした。
「いいのかよあれ」
「あれの方が面白いだろ?」
「知らないぞ」
「我も何も知らないさ…て、セバスチャン」
「ここに」
机の引き出しの中からセバスチャンが出てきた。どこの青タヌキだよ。
「どこから出てきてんだよ!」
「アレを用意しておいてくれ」
「イエス・マイ・ロード」
セバスチャンがまた机の引き出しに入っていった。引き出しを引いたがセバスチャンは居なかった。
「なんなんだよ」
「さて、明日が楽しみだ」
こうしてドタバタな校外研修の一日目が終わったのだった。
****
その頃生活指導室。
「貴様ら反省文100枚書くまで寝させんからな」
水原先生が竹刀を持ちながら言った。
『ひえ~』
野太い男の声が響く。
「文句は言わせん。そして終わらなかったら」
筋肉もりもりの英語教師――岩谷先生が指導室に入ってきた。
「俺と寝てもらうからな」
それは実質的な死刑宣告だった。
『いや~!!』
男子の悲鳴が木霊した。
・
・
・
「水原先生」
「岩谷先生奴は来ますよ」
「どうしてわかるんです?」
「奴はそういう男だからです」
「なら、なぜ指導室に呼ばないんです」
「まだ何もやってませんからね」
「甘いですな」
「ふふふ、ですが容赦はしません」
「俺はそろそろ部屋に帰ります。何かあったら呼んでください」
「はい」
岩谷先生が出て行った。
「さて、久しぶりに面白くなってきたな」
波乱の一日目、これは始まり……。
山田君(仮)のモデルはあの人ですね。
さて、馬鹿君はあきらめの悪い子なのでたぶん二日目も覗きに行くかな絶対。