01-09.旅立ち
「ミアちゃん、起きて。
もう出発するよ」
「ま~だ~……zzz」
「前はそんなに朝弱く無かったじゃない」
あの家で暮らしていた頃は、ニナちゃんが起こしていたのかしら。
私達が旅立って暫くしてから、ミアちゃんは朝自分で起きられなくなってしまった。
少しは吹っ切れた証拠なのだと思えば、悪いことばかりではないけれど、このままズルズル出発の時間を伸ばされると困ってしまう。
「……zzz」
「ほ~ら~
もう寝ないの~
起きて~ミ~ア~ちゃ~ん」
「うるさ~い」
「やっと起きた。
もう行くよ。
じゃないと今晩野宿になっちゃうよ」
「ホノカが暖めてくれるなら野宿でも良いわ」
「バカなこと言ってないで起きなさい」
「おはようのチューして」
「嫌よ」
「良いじゃない。減るもんでもないし」
「将来の旦那様の為に取っておきなさい」
「男になんて興味はないわ」
「はいはい。
ならお嫁さんの為でもいいから」
「だから、ホノカに言ってるんじゃない。
どうして私の想いが伝わらないのかしら。
こんなに愛しているのに」
「寝起きにグズりながら告白しても伝わるわけないでしょ」
「それもそうね。
私達に相応しいシチュエーションを用意しましょう」
「そんな事しても応えないってば」
「いい加減教えてよ。
私の何が不満なの?」
「この期に及んでベットから出てくれないとこ」
「本気っぽいわね。
起きるから抱き上げて」
「自分で起きなさい。
そのまま引きずり込もうったってそうはいかないわ」
「私がそんなワンパターンなわけないじゃない。
ホノカからしてくれないから、私からキスしようと思っただけよ」
「尚悪いわ。
いいから支度して」
「は~い」
渋々起き上がりベットから出るミアちゃん。
「ってなんでまた服着てないのよ!
昨日寝た時ちゃんと着てたじゃない!」
「盛り上がっちゃって。
言わせないでよ。恥ずかしい」
「そんなわけ無いでしょ!
流石に隣でされたら気付くわよ!」
「何を?」
「いい加減にしなさい」
「は~い」
ミアちゃんはベットから脱ぎ散らかした下着を引っ張り出して着替え始めた。
まったく。油断しすぎよ。
宿だって絶対に安全とは限らないんだから。
もし暴漢にでも襲われたらどうするつもりなのかしら。
「見ててもいいけど、代わりにホノカも見せなさいよ」
「考え事してただけよ。
今更ミアちゃんの着替えなんて珍しくもないわ」
「安売りしすぎたわね」
「本当に大切にしてよ。
油断が過ぎるわ」
「大丈夫よ。
ホノカが守ってくれるもの。
ホノカにあげるから大切にしてね」
「結構よ」
「流石に傷つくんだけど」
「大丈夫よ。
ミアちゃんはそんな玉じゃないわ」
「私をなんだと思ってるの?」
「いいから手を動かしなさい。
いつまでパンツ一枚でいるつもりよ」
「まだ見ていたいのかと思ったのに」
「余計なお世話よ」
「ホノカは随分と変わってしまったのね」
「お陰様でね。
そうやって、ミアちゃんがからかってばかりいるからよ」
「まあ良いわ。
辛気臭い顔されるよりはずっとね」
「ミアちゃん……」
「チョロいわね」
「ミアちゃん!!」
「ふふ。ホノカもまだまだね」
私の反応にようやく満足したミアちゃんは着替えを再開した。
一度ちゃんと動き出すと行動が速い。
あっという間に身支度を整えて、出立の準備を終えた。
今は王都を目指して旅をしている。
一応の旅の目的はチョコレート探しだ。
そして、この辺りで情報が一番集まるのは王都だ。
そんな単純な図式で、一先ずの目的地を定めたのだった。
皆で暮らした家を手放し、サリアさんにお別れの挨拶を済ませた後、私達はあの町を出て旅に出た。
旅も半ばを過ぎ、あと数日もすれば王都に辿り着く。
旅慣れたミアちゃんに導かれて、ここまで順調に進んできた。
このまま何事も無く、王都まで辿り着けることだろう。
まあ、ミアちゃんが寝坊しなければだけど。
私達は宿を出て、手を繋ぐ。
何だかんだと言いながらも、これだけは止められない。
私もミアちゃんの事が大好きだから。