02-44.告白
「なんで……」
「そんな顔をしないで、ホノカ。
安心なさい。私はホノカに恨みなんて無いわ。
ホノカも、私が血族だからって恨んだりしないでしょ?」
「……」
「エルネスタが滅びたのは私が五つか六つの時よ。
正直、大して覚えている事なんて無いの。
むしろホノカのお陰で助かったのよ。
私はスキルや魔力を持たない出来損ないだもの。
処分されるのも時間の問題だったはずよ」
「だからって!」
「逃げ延びた先で大切な親友達とも出会えたの。
レン、ザイン、ニナ。今はもう彼らも居ないけど、私の胸の内では生き続けてる。
全部、ホノカのお陰よ。
ホノカにとっては忌まわしい過去でしかないのでしょうけれど、私がホノカのお陰で生きているのは事実なのよ」
「ミアちゃん……なんでそんな……」
「ホノカが居てくれるからよ。
だからお願いよ。絶対に見捨てたりしないでね」
「……いつから」
「たった今よ。
エルネスタの名前を聞いたホノカの反応を見て、確信したの」
「カマをかけたの?」
「そうよ。
ここでハッキリさせておかなければ、ホノカが気にしてしまうでしょう?」
「私のため?」
「そうよ。
ホノカに悔やんでほしくないからよ」
「ならなんでこんな指輪を贈ったの?」
「正直、エルネスタの事は想定外だったのよ。
あくまで私が伝えたかったのは、ボースハイトの件よ。
それだけは明かすべきだと思ったの。
けれど、ごめんなさい。
流石に私もすぐに言う勇気は無かった。
だから、ホノカに見捨てられない証が欲しかった。
この指輪はお互いに本心からの愛を伝えた時に、起動する仕組みだから」
「……タイミングが最悪だよ」
「ふふ。そうね。
確かに言う通りだわ。
折角想いが通じ合った瞬間なのにね」
「笑い事じゃないよ!
これで私がミアちゃんの事嫌いになったら、ううん!
私が自分の過去を受け止めきれなくて逃げ出したら!
どうするつもりだったの!?」
「そうはならなかったでしょう?
私の愛するホノカは、そんな弱い人ではないもの。
この結果は必然だったのよ」
「勝手すぎるよ!」
「ごめんなさい。
悪意は無かったの。
ただ、ホノカに全部受け入れて欲しかっただけなの」
「……そんなのわかってるよ」
「ボースハイトの事も黙っていてごめんなさい」
「別にミアちゃんが謝る事じゃないでしょ。
それで、そっちはいつから?」
「最初からもしかしたらとは思っていたわ。
特に旅を始めてからは、より顕著だったわ。
だってホノカ、常識が無さすぎるんだもの。
サリアにだってそれで気付かれたんでしょう?」
「……異世界召喚の事も知っていたの?」
「ええ。母から聞かされていたわ」
「……お母さん、今は?」
「亡くなったわ。旅の途中で」
ボースハイトからアルティエスタまでの道中でという事だろう。
やっぱりそれも私が……。
「そんな顔をしないで。
ホノカのせいじゃないわ。
あの旅路が険しすぎただけよ。
ホノカだって知っているでしょう?」
「けど……」
「勘違いしないでね。
ホノカが居なくとも、エルネスタは滅びていたのよ?
そこはちゃんと理解できてる?」
それは……わかるけど……。
戦争を決断したのはボースハイトだ。
私は命令に従って戦場に赴いた。
とはいえ、自ら首都まで焼き払ったわけでもない。
まだこの世界に来てから一、二年目程度の話だ。
本格的に運用されていたわけじゃない。
あくまで、戦場に大型魔法を打ち込んだだけだ。
ダメだ。こんな言い訳みたいな事ばっかり。
私が手を下したんだ。
沢山の兵士を……。
「ホノカ!!」
ミアちゃんの手の平が、俯いた私の顔を挟んで持ち上げる。
「目を合わせなさい!
ホノカは悪いことなんてしていないわ!
自由意志すら許されない行為に責任なんて無いのよ!
あなたは利用されただけ!
それも一切の抵抗を許されずに!強制的に!
ただ道具として使われただけよ!
人を切ったからって剣が断罪されるわけないでしょう!
もう過去に囚われるのは止めなさい!」
「……」
「それでもどうしても忘れられないのなら。
故郷を滅ぼされた、私が赦すわ。
滅ぼした元凶の血を継ぐ、私が償うわ。
あなたの全てを私に背負わせなさい。
私にはその資格がある。義務があるのよ。
もし私にそうさせたくないのなら、全て忘れ去りなさい。
私の為に、笑っていなさい」
「……うん」
「良い子ね。それで良いのよ。
愛してるわ、ホノカ」
ミアちゃんはそのまま私の唇に、自分の唇を重ねた。




