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01-08.笑顔

「遅いわよ~!」


「何でもう始めてるのよ!

 待っててくれても良いじゃない!」


「すみません……」


「ううん、ホノカさんは良いのよ。

 好きなだけ飲み食いしてね」


「ホノカもサリアに敬語は止めなさい。

 年も近そうなんだし友達だと思いなさいな」


「良いわね!ホノカさん!

 お友達になりましょう!

 まあ、会えるのは後数日だけにはなっちゃうけど」


「はっはい!」


「これきりになんてしないわよ。

 またそのうち戻ってくるわ」


「私が異動になる前にお願いね」


「これ以上左遷される事なんてあるの?」


「栄転に決まってるでしょ!

 見てなさい!

 今に王都支部に返り咲いてやるんだから!」


「以前は王都に務めていらしたのですか?」


「敬語禁止」


「はっうん、ごめん」


「私達が初めてサリアに出会ったのは王都支部だったのよ。

 それがいつの間にか、こんな辺境まで飛ばされていたんだもの。

 再会した時は驚いたわ。

 もちろん、私達がここに拠点を構えた事はサリアと何の関係もないわよ」


「辺境って言わないでよ!

 ここが最前線なのよ!

 むしろ実力を見込まれたからこそのなのよ!」


「最前線?」


「この町はこの国で一番、未開拓地に近いの。

 だから強い冒険者達は大体ここに集まってくるのよ。

 けれど、それは冒険者の場合の話。

 受付嬢からしたら危険だし、激務だし、田舎だしで良いところなんてなんにも無いわ」


「そうなんだ……

 けれど、冒険者というか、人が集まってくるのなら、発展していくものなんじゃないの?」


「何時かはね。

 けれどまだ暫くは難しいでしょうね。

 それだけ危険も多いもの」


「なるほど……」


「さあ、そろそろ何やらかしたのか吐きなさいな。

 今更隠し事なんて水臭いわ。

 私達の仲じゃない」


「何が私達の仲よ!

 ミアちゃん達がヒヨッコの頃から面倒見てあげたのに!

 もう少しくらい敬ってくれても良いでしょ!」


「よく言うわ。

 再会してからはこっちが何度も便宜を図ってるのよ。

 もう十分に恩は返したじゃない」


「そっちこそ良く言えるわね!

 こうして何度も奢らせてるくせに!

 そんなんチャラよチャラ!」


 サリアさん本当にミアちゃんの事信頼してるの?

この口論は仲が良いからこそなの?


 二人は正反対のテンションで口論を続けた。

サリアさんは声を荒げつつも、険悪な雰囲気は感じさせず。

ミアちゃんは淡々としながらも、隠し切れない楽しさを滲ませながら。

言葉の内容は喧嘩をしているようにしか聞こえないのに、二人は終始楽しそうだった。


 暫くして落ち着いた二人は、私に向き直る。



「ホノカも黙ってないで何か言いなさいな。

 というか、この際だからいっそ全部話してしまいなさい。

 サリアなら大丈夫よ。

 信じて良い。必ず力になってくれるわ」


「そうよ、ホノカさん。

 親友の私を信じて!全て話して!」


「何時から親友になったのよ。

 そこまで許した覚えは無いわ」


「なんでミアちゃんの許しが必要なのよ。

 やっぱり二人は!」


「そうよ」「違います!」


「ミアちゃんの片思いなのね……

 可哀想……ふふ」


「何笑ってんのよ!」


「ミアちゃん落ち着いて……」


「ホノカもホノカよ!

 家族になるの受け入れたじゃない!」


「いやそれは……姉妹というかそんな感じの……」


「何時までもウジウジと!ハッキリ言いなさい!」


「ミアちゃん飲み過ぎよ。

 ホノカちゃんに当たらないの」


「ちゃぁん?

 何どさくさ紛れに距離詰めてんのよ!

 ホノカは私のよ!手え出すんじゃないわよ!」


 私はミアちゃんに向かって睡眠魔法を放つ。

勢いを無くして脱力したミアちゃんを受け止めて、椅子に座らせる。

私はそのままミアちゃんを横に倒して膝枕した。



「ホノカさんやるわね」


「ミアちゃんったら飲みすぎてしまったのね」


「まあ、良いけど」


「ごめんなさい、サリアさん。

 ミアちゃんが眠ってしまったから、ここらで」


「いえ、このまま続けましょう。

 大丈夫よ。

 どんなに可愛くてもミアちゃんは高ランク冒険者だもの。

 ここで少し寝てたくらいで体調を崩したりしないわ。

 それに今帰ったら明日が大変よ。

 ちゃんと機嫌を直してからにしましょう。

 きっとすぐに起きるでしょうしね」


「はい……」


「難しいわよね」


「何がですか?」


「普通の生活に戻るのって」


「……」


「大丈夫よ。

 ホノカさんならきっと。

 ミアちゃんも居てくれるのだしね」


「はい」


「心の深い所までは中々癒せないけれど、表面だけなら取り繕えるでしょう?

 実際に、ホノカさんはミアちゃん達との生活でそれをしていたはずなのだし。

 少なくとも、ミアちゃん達は気付いていなかった。

 私に話してくれるホノカさんは何時でも頼りになる優しいお姉さんだった」


「……」


「そうして取り繕っていれば、段々と浸透していくわ。

 いずれは心の奥底にも届くものよ。

 そうは言っても難しいのよね。

 定着しきる前の表層を思い出すのは。

 一度剥がれてしまったものを取り戻すのは」


「……」


「けれど、少し前の自分が上手く思い出せなくとも、気にする必要はないわ。

 こだわる必要はないの。

 新しい自分をイメージしたら良い。

 なりたい自分をイメージしたら良い。

 そんな自分を貼り付けて、装って、近づいていけば良い。

 そうすれば心の深くに届くから。

 何れは傷も癒えるから」


「……サリアさんも」


「ごめんなさい。

 偉そうな事を言ったけれど、私もまだ引きずってる。

 レンくん、ザインくん、ニナちゃんの事だけじゃない。

 こんな職業をしていれば誰かを失う事なんて珍しくない。

 けれど、それだけじゃない。

 まだ奥底に残っているものもある。

 誰を失っても届かないような深い場所に。

 けれど、それでも。

 せめて私くらいは笑っていないと。

 そしてそれは、ホノカさんもよ。

 ミアちゃんの事を本当に想っているのなら、辛気臭い顔は止めなさい。

 笑顔を見せてあげなさい。

 酷な事を言うけれど、ミアちゃんに頼られたいのなら、まず何よりも笑いなさい。

 これ以上寄りかかりたくないという言葉が本心なら、今すぐに始めなさい。

 どうか、ミアちゃんをお願いね」


「……はい」


「何辛気臭い話ししてんのよ。

 ホノカをイジメないで、サリア」


「ミアちゃん!?

 起きてたの!?」


「ホノカって妙な所で鈍いわね。

 私を不意打ちで眠らせられる実力まである癖に。

 よっぽど妙な鍛え方をされたのね。

 しかも強制的に望まずに。

 段々ホノカの事わかってきたわ」


「やっぱり話してみたら?

 全部バレるのも時間の問題だと思うわよ」


「サリア、あんたホノカから何聞いたのよ。

 その口ぶりだと鑑定の水晶から得られる情報だけじゃないんでしょ」


「何も聞いてないわよ。

 勝手に察しただけ」


「まあ、それもそうよね。

 私にすら話してくれないのに、サリアになんか教えるわけ無かったわ」


「ふっふ~ん。

 そんな負け惜しみ言っても、私の方がホノカさんの事知ってるのは事実だもんね~」


「大人げないわよ。

 職場で得た知識をひけらかすなんて公私混同までして、恥ずかしくないの?」


「べっつに~。

 内容まで話してるわけじゃないし~。

 というか、ミアちゃんこそ何時までも膝枕されたままで恥ずかしくないの?」


「恥ずかしいわけないじゃない。

 私の特等席よ」


「ぷっふふ」


 思わず吹き出す私の頬に、ミアちゃんが手の平を添える。



「良いわホノカ。

 その調子よ。

 笑いなさい。

 何があったにせよ笑っていなさい。

 どんな些細な事でも笑いなさい。

 嫌な記憶なんて笑い飛ばしてしまいなさい」


「うん!」

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