01-07.欲望
「Cランク?
嘘でしょ。ホノカならBはいけるはずよ。
やり直して」
「無茶言わないで、ミアちゃん。
何の実績も無しにBランクは無理よ。
CランクでもAランクのミアちゃんとパーティーを組めるのだし、これで満足して頂戴」
「少しくらい良いじゃない。
旅立ちへの餞別だとでも思っておまけしてよ」
「Cランクでも十分におまけしてるわ。
ホノカさんが秘密を全て明かしてくれると言うのなら、Bランク以上もあり得るかもしれないけれど」
「何言ってるのよ。どうせサリアは全て見たんでしょ?
というか、私にも鑑定結果教えなさいよ。
ホノカったら全然口を割ってくれないのよ」
「ダメよ。
そんな事したら私がギルドをクビになるわ。
これ以上我儘言うならつまみ出すわよ」
「仕方ないわね。
今は大人しく引き下がってあげる。
代わりに今晩付き合いなさい。
送別会くらいは開いてくれても良いでしょ?」
「良いけど、ホノカさんも一緒よ。
酔い潰して聞きだそうなんて手には乗らないわ」
「当然じゃない。
じゃあ、決まりね。
何時もの店抑えとくから。
仕事が終わったら真っ直ぐ来なさい」
「え~!
もっと加減してよ!
どうせ今回は私の奢りなんでしょ?
ギルドの受付嬢なんて大した稼ぎ無いんだから!」
「楽しみにしてるわ~」
「待って!ミアちゃん!
ダメだって!今月本当にもうキツいんだってば!」
ミアちゃんは私の手を引いて走り出した。
サリアさんの悲痛な叫びに振り返りもせずに。
「無視しちゃって良かったの?」
「大丈夫よ。
そんな事より、やりたい事は決まった?」
「やりたい事……」
「考えておきなさいと言ったじゃない」
「そんな事言われても……」
「ホノカは欲がないわね。
そんなんじゃダメよ。
冒険者なんて欲が無くちゃやってられないわ」
「参考までにミアちゃんは?」
「私?
私は取り敢えずお金が欲しいわね」
「何か買いたい物があるの?」
「違うわ」
「?」
「そうじゃなくて、お金が欲しいの。いっぱい。
使い切れない程沢山。
無駄遣いなんてしないわ」
「どういう事?
そのお金で何かやりたい事があるんじゃないの?
貴族にでもなりたいの?
生まれ故郷の村を発展させたいの?」
「だから違うってば。
お金持ちになりたいの。
それが私の欲望よ」
「???
何のために?」
「なりたいからなる。
欲しいから欲しい。
それだけよ」
「良くわからないわ」
「なんでわかってくれないのかしら。
ニナ達もそんな反応だったのよね」
「私のやりたい事なんでもって言ってたけど、そんな事にお金を使うのは良いの?」
「そんな事ですって?
バカなこと言わないでよ。
無駄遣いをしないと言っただけよ。
全く使わなかったらお金の意味がないじゃない」
「私に使うのは無駄遣いじゃないと思ってくれているの?」
「そう言ってるじゃない。
変な事ばかり聞くわね」
「そっか」
「何で笑ってるの?」
「え?あれ?
笑ってた?」
「少しだけ」
「そっか」
「とにかく考えなさい。
これに限らず、自分の欲望を見つめ直しなさい。
生きる為の原動力を見つけなさい。
今のあなたには何より必要な事よ」
「うん。
考えてみる」
「なら良いわ」
立場があべこべだ。
今みたいな話は、幼馴染達を失ったばかりのミアちゃんこそ言われるべき事だ。
何故私が慰められているのだろう。
情けなくて堪らない筈なのに、なんでこんなに嬉しいのだろう。
「とりあえず帰ろっか。
家の片付け終わらせなきゃ」
「そうね。
ちゃっちゃと終わらせてしまいましょう」
私達は家に向かって歩を進める。
もう何度も無い時間を噛みしめる。
手を繋ぎながら歩き続ける。
もっと早く歩み寄ればよかった。
皆ともこうして歩けばよかった。
こんな幸せな時間を今になって知るなんて。
でもまだ遅くはない。
何もかもが手遅れではない。
ミアちゃんはまだ隣に居てくれている。
握った手に少し力を込めれば、同じように握り返してくれる。
たったそれだけの事が、堪らなく心地良い。




