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01-05.秘密

 記入した用紙を持って、再び受付嬢のサリアさんの下へ向かう。

結局書いたのは名前と出身地だけだ。

わざわざ別のテーブルに移動する必要もなかった。

いや、ミアちゃんは私が諸々隠している事を踏まえて気を使ってくれただけだ。

サリアさんの前では話しづらいだろうと、移動したのだ。


 サリアさんは何も言わずに用紙を受け取った。

私達の事を全く知らないわけでも無いのだから、出身地がデタラメである事も気付いたはずだ。

元々珍しくもないのか、さして重要でもないのか。

それとも、サリアさん個人が飲み込んでくれたのか。

何れにせよ、サリアさんが指摘しないでくれたのだから、私から余計な事を言うべきではない。



「はい、結構です。

 ではこちらにいらして下さい」


 サリアさんに続いてギルドの奥の部屋に向かう。

ミアちゃんは付いてこれないようだ。

少し心細い。



「緊張されていますか?」


「え?

 あ、はい。少し」


「大丈夫ですよ。

 普通にしていれば不合格はありません。

 ミアちゃんと近いランクとなると難しいですが」


「そうですか……」


「ですが、ミアちゃんは自信があるようですね。

 パーティーを組むつもりのようですし。

 改めてすみません。私の目が節穴だったばかりに」


「いえ、本当にもう大丈夫ですから。

 むしろ、心を読まれたのかと驚いていたくらいです。

 私が嫌々だったのを見抜いたのかと」


「そうだったのですか?

 全然気付きませんでした」


「それに、お陰でミアちゃんとも出会えましたから」


「やっぱりお二人は」


「違います」


「ふふ。冗談です。

 さあ、付きましたよ。

 こちらです。

 先ずは筆記試験を受けて頂きます」


「筆記……」


「ご安心下さい。

 最低限の常識と、読み書きや計算が出来るか程度です。

 席について下さい。

 すぐに始めますので」


「はい」


 私は席に付き、既に裏返しで用意されていた答案用紙を表に返す。

サリアさんの言ったとおり、殆どの問題が最低限の読み書きさえ出来るなら苦戦するようなものではなかった。


 この世界に来た最初の頃にその辺も叩き込まれている。

何故か奴隷兵士には必要も無さそうな事まで一通り学ばされたのだ。

言葉はともかく、文字の読み書きなんて教えないほうが逃亡も防げそうなものだけど。

よっぽど隷属の首輪を過信していたのだろうか。


 それとも、私を内政にでも使うつもりだったのだろうか。

私のスキルはその用途でも使えるだろう。

とはいえ、もう今更関係の無い話だ。

私は逃げ切れたのだ。

早く忘れよう。


 暫くして、一通り書き込んだ答案用紙をサリアさんに差し出した。

少し驚いた様子のサリアさんは用紙を受け取って、その場で採点を始めた。



「う~ん」


 あれ?

反応が芳しくない。

まさか、この時点で躓いてしまったのだろうか。



「もしかして不合格ですか?」


「あ、いえ、そうではないんですけど。

 ホノカさんは随分と遠い国からいらしゃったんですね」


「え?」


「これは……

 なるほど、そういう」


「サリアさん?」


「ボースハイト」


「!?」


「気を付けて下さい、ホノカさん。

 この世界にはホノカさんのような方が他にもいらっしゃいます。

 ミアちゃんに全てを明かして協力を求めて下さい。

 ミアちゃんなら必ず力になってくれます。

 信じてあげて下さい」


 バレてる?

全部?

何で?

常識問題に何か特徴でもあるの?

名前のせい?容姿のせい?

というか、あの国からこんな所にまで逃げてくる人が他にもいたの?

それも一人や二人じゃない?



「ご安心を。

 ホノカさんの過去を私から誰かに漏らす事はありません。

 混乱されているかとは思いますが、落ち着いて下さい。

 今すぐに何か危険が迫るような事もありません。

 ただ、用心は必要です。

 敵はあの国だけではありません。

 ホノカさんには味方が必要です。

 この世界の案内人が必要です。

 ミアちゃんはうってつけです。

 ここまでご理解頂けますか?」


「はい」


「念の為に言っておきますが、私がこの件に特別詳しいだけで、ミアちゃんを含むこの地方の大半の者はホノカさん達の事情は存じません。

 精々がおとぎ話や噂話程度でしょう。

 だから、ひとまず安心して下さい。

 名前や容姿だけでそう簡単に気付かれるものでもありませんから。

 それと、私がこの事を話したのは内緒にして下さいね」


 サリアさんは人差し指を口元に添えて、ウインクをしながら、最後にそう付け足した



「サリアさんは何者ですか?」


「内緒です。

 一方的に秘密を暴いてしまった上でこんな事を言うのは心苦しいのですが、どうかご理解下さい」


「いえ、すみません、不躾に。

 忠告感謝します」


「はい。

 それにしても、ホノカさんは凄いですね。

 あの国に召喚された人達は、普通もっと荒んでいるものなのですが。

 よっぽど強い心をお持ちなのですね」


「いえ……」


 そんなわけがない。

もっと私の心が強ければ、ミアちゃんに縋り付いたりはしなかった。



「さて、気を取り直して実技試験の会場へと参りましょう」

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