02-07.天空神vs探究者
「狙いは悪く有りませんが、練度がなっていませんね。
バカ正直に真っ直ぐ突っ込みすぎです。
今までどれだけ力ずくで戦ってきたんです?」
いやいやいや。
そんなバカな。
今更その程度の指摘受けるような戦い方なんてしないよ!
アイちゃんの反応速度がおかしいだけだよ!
基礎的なスペック差があり過ぎると、フェイントも何もあったもんじゃない。
やむを得ず、単調な動きにならざるを得ない部分は確かにある。
それでも、猪突猛進みたいに言われる程酷い戦いをしているつもりもない。
確かに少しばかり、速度に振りすぎてるけど!
やり過ぎて制御しきれてないけど!
いかん。落ち着け。
いやまあ、うん。
練度不足は事実ね。
何時ものじゃ足りなくて、スキル増々だもの。
こんな速度が必要な相手なんて遭遇したこと無いし。
【加速】【脚力強化】【身体強化】までなら、素の状態でも使いこなせる。
【抵抗軽減】【瞬間加速】【魔力放出】までなら、【思考加速】の併用でどうにかなる。
【重力制御】【引力操作】【斥力操作】まで併用すると、どうやっても制御が荒くなる。
というか、この三つは単体でも難度が高すぎる。
使いこなせれば空を飛ぶことだって出来るのだろうけど、難易度が高すぎて瞬間的に発動するので精一杯だ。
そもそも、空中での姿勢制御や向きを変えるにも【空蹴】か【障壁】が必要だ。
しかしどちらも、自身の速度に思考が追いついていないと上手く発動できない。
タイミングがズレたら一瞬で地面に激突してしまうだろう。
私は距離をとって足を止める。
一度冷静になるべきだ。
私の速度では、アイちゃんの不意をつく事は不可能だ。
先ずはそれを認めよう。
ならどうするべきか。
速度ではダメだ。
それ以外の方法だ。
アイちゃんはなんと言った?
『空』は自身の支配下だと。
『空』への干渉は自身に伝わると。
『空』ってなんだ?
どこから?
地上より僅かでも上なら全てを把握できるの?
それって、『空』って括りで合ってるの?
空というより、地中以外っていうべきじゃない?
それとも、ある程度の高さが必要なの?
体勢を低くして突っ込めば、アイちゃんの知覚を掻い潜れるの?
いや、それも意味がない。
そもそも、アイちゃん自身が空中に居るんだ。
どれだけ低姿勢で突撃しても、攻撃の瞬間には必ず気取られる。
アイちゃんの反応速度が空中限定なのだとしてら、先ずはその空中から引きずり降ろさないと話にならない。
うむむ。
重力制御は自分自身や身に付けてる物にしかかけられない。
重力魔法とか聞いたこともない。
作れる可能性もあるけど……
とはいえ、やはりこのあたりで無理やり引きずり降ろすのは難しいか。
後はなんだ。
地面の方を持ち上げる?
その程度なら手持ちの魔法で可能だけど、速度が出ない。
ちんたら持ち上げても、その間により上空に逃げられるだけだ。
フィールド全体を水で覆うのも同じ理由で無しだ。
なら罠にかける?
アイちゃんの方から地面に降りてくるような罠。
そんな都合の良いものが存在するだろうか。
昨日の鶏肉でも置いてみる?
いやまさか、流石に無いだろう。
後は……
チャフみたいなものがあれば阻害出来るかしら。
雹か雨でも降らせてみる?
吹雪でも良いかもしれない。
そんな魔法使った事無いけど、私なら出来るはずだ。
いっそ、竜巻でも起こしてみようかしら。
氷魔法を込めた竜巻なら、吹雪よりは簡単そう。
でもなぁ……
仮に空を司る神様なら、そんなの簡単に吹き飛ばしてしまいそうだよなぁ。
やっぱり、もう少し絡め手にするべきかしら。
風のドームに留まってくれたように、アイちゃんが私達を舐めているからこそ、付き合ってくれる可能性もある。
うむむ。
そういう発想には自信無いんだよなぁ……。
能力的に吹き飛ばす方が簡単だし。
猪突猛進じゃないやい、なんて思ってたけど無理があったかも。
私は脳筋系なのかもしれない。
まあ、良いか。
取り敢えず試してみよう。
幸い、魔力量はほぼ無尽蔵だ。
スキルのお陰でいくらでも回復できる。
ダメ元で竜巻ぶつけて様子を見てみよう。
私は新しい魔術をイメージする。
こういう時だけは、【探究者】の存在を有り難く思う。
私の知識とイメージで実現可能なものなら、答えに導いてくれる。
特に魔法は私の得意分野だ。
殆どの魔法が実現可能だ。
組み上がった魔法が私の口を衝いて溢れ出す。
私はその衝動に身を任せ、言葉と共に魔力を紡いでいく。
「渦巻く竜よ、氷晶纏て現出せよ!
空を舞え、空を埋めよ!
支配を奪い、傲りし者に知ら示せ!
《暴風竜・雹》」
私の魔力を糧に、遥か上空に巨大な竜が出現する。
竜は風と氷で形成され、次第にその偉容を増していく。
竜は力を蓄えながら待っている。
私がその指先を振り下ろし、鉄槌を下すべき相手を示すことを。
私の魔法に驚きつつも、ミアちゃんは直ぐ様戦闘を放棄して私の背後に駆け抜けた。
アイちゃんは真っ向から受けて立つつもりのようだ。
竜を見上げて、笑みすら浮かべている。
どうやら転移で逃げるつもりも無いらしい。
本当に舐められたものだ。
けれど、それだけの力を持っているのだろう。
そもそも、私もそのつもりでこんな大規模魔法を使う事にしたのだ。
別にアイちゃんの命を奪いたいわけじゃない。
というか、私自身が戦いたいわけでもない。
なんとなく乗せられて、なんとなく楽しくなってしまっただけだ。
未だ嘗て感じた事の無い高揚感に口元が緩むのを感じながら、私は勢いよく指先を振り下ろした。




