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02-04.鳥料理

「本当にあっさり終わったね。

 何かあるんじゃないかとビクビクして損したかも」


 私達は魔物の目撃証言があった山に登り、山頂付近で件の怪鳥の巣を発見して襲撃した。


 どうやら怪鳥は本日の狩りを終えたばかりだったようで、どこか近くの村で奪ったと思しき家畜を貪っていた。


 いくら私達が気配を消して近づいたとは言え、油断し過ぎではなかろうか。

この周囲には天敵がいないからと甘く考えていたのかもしれない。


 そんなこんなで、あっという間に依頼は達成されたのだった。



「たまには良いじゃない。こんな日があっても。

 そんな事より、夕食は豪勢にいきましょう」


 これから町に戻ったんじゃ遅くなってしまうし、今日はもうここで野営するのね。

ミアちゃんは早速鳥料理を熱望しているようだ。


 どうせギルドはログで判断するし、食べてしまっても問題は無いけど……



「でもこの鳥って人間も食べてたりしない?」


「食べないわよ。美味しくないもの。

 何処にも骨なんて落ちてないでしょ」


 まあ、牛や豚っぽいのはあるけど、人間の頭蓋骨とかは見当たらない。

なら大丈夫かな。

でもなぁ……


 人里近くに棲み着いた大型魔物はあんまり食べたくない。

そんな私の気持ちは無視して、ミアちゃんはウキウキで鳥を捌き始めた。


 ミアちゃんって鶏肉好きなのよね。

まあ、私も好きだけど。



「ホノカも見てないで手伝いなさい」


「料理は私の担当でしょ?」


「狩ったのは私よ。

 ホノカは付いてきただけじゃない」


「狩ったって、スパッと一振りしただけじゃん」


 無防備に食事を続ける怪鳥に忍び寄って首を切り落としただけだ。

まるで矢の無駄だからとでも、言わんばかりだ。



「良い腕でしょ?」


 仕方がないので、諦めて私も手を動かす事にする。

ミアちゃんに口で勝てる気がしない。


 精々祈っておくとしよう。

人間は食べていませんように。


 私、何に祈ってるんだろう……



「ホノカも中々ね。

 手際良いじゃない」


「そりゃあ、数え切れない程捌いてきたもの」


「別の世界ってどんな所なの?

 同じ魔物もいるの?」


 あれ以来ミアちゃんからこの件に触れてくるのは初めてだ。

珍しく気を遣ってくれていたようだ。

普段なら遠慮容赦なく暴き立ててきそうなものなのに。



「なんか失礼な事考えてない?」


 さすミア。察しが良い。



「あの世界に魔物なんていないわ。

 私も命のやり取りなんてしたこと無かった。

 きっとミアちゃんには信じられない程、あの世界は平和だった」


「そうね。確かに想像は出来ないかも。

 けれど、なんとなく理解は出来るわよ。

 言ったでしょ。

 ホノカはそんな場所で産まれたみたいだって。

 でもまさか、魔物自体が存在しないなんて予想以上ね」


「そもそも別の世界だなんて信じられるの?

 勿論ミアちゃんが私の事を疑うとは思っていないけどさ」


「信じてるわよ。当然。

 これでも想像力には自信があるのよ」


「小さい頃はお姫様になる憧れでもあった?」


「……無いわよ。二度とごめんだわ」


 え?



「二度とって……」


「憧れるのがって事よ。

 夢見がちな幼子の頃の事なんて思い出したくないわ。

 そんなの恥ずかしいじゃない」


 本当に?それだけ?

何か変な答えになっちゃってるし。

無いって言ったり、反対の意味に聞こえる事を言ったり。

誤魔化してる?


 どうしよう。踏み込むべきかしら。

ミアちゃんだって散々私に聞いてきたんだし、文句は言わないだろう。


 でもミアちゃんが誤魔化すなんてよっぽどだ。

何時ものミアちゃんなら堂々と語ってくれるはずだ。



「手が止まってるわよ。

 折角褒めたのに」


「ごめん」


 結局、私は口を閉ざして手を動かすことにした。

大丈夫。焦る必要なんて無い。

これからだって、ずっとミアちゃんと一緒なんだから。



「ホノカ……ありがと」


「何が?」


「何でもないわ。

 美味しく調理してね」


「うん。

 折角だから唐揚げなんてどうかしら」


「良いわね。

 他には?」


「焼き鳥とか?」


「さっぱりしたのも欲しいわ」


「鳥ハムにでもしてみようか。

 簡単なやつだけど」


「最高ね」


 鼻歌混じりに鳥を捌くミアちゃん。


 二人がかりだったお陰であっという間に作業が完了した。

大半の肉を収納スキルで格納し、そのまま調理を開始する。


 先ずはハムの仕込みからかしら。

とはいえ、本当に簡単なものだ。


 脂肪の少ない部分を平らに切り開いてから、砂糖と塩を揉み込んで巻いていき、綺麗な布で包んで縛り上げる。

沸騰させたお鍋の中にぶら下げて蓋をする。


 これで後は放って置くだけだ。

本当はもう少し漬け込んだり、鍋で蒸すより燻したりするのも美味しいだろうけれど、道具も時間も足りていない。


 他の調理もサクサク進めていくとしよう。

焼き鳥、照り焼き、唐揚げ、そんなところかしら。


 照り焼きは照り焼き風にしかならないけど。

お醤油が恋しい。何処かにないかしら。


 しまった。トマトも仕入れておくべきだった。

トマト煮込みって手もあったのに。


 まあ、肉はまだまだ沢山あるし機会はいくらでもある。

私の収納スキルはどうやら時間が止まってるみたいだし。

スキルの能力差ってレベルとかじゃないのかしら。

相変わらずよくわからない。


 そんな事より、ハーブ類も買ってみなきゃ。

ハムの方もリベンジしたいし。


 何だかんだと鼻歌交じりに調理を進めていると、突然頭上から声をかけられた。



「美味しそうな匂いですね!

 ご相伴に与かっても宜しいですか?」


 え?

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