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02-03.懸念

 王都を旅立って二週間程で、ようやく最初の大きな町に辿り着いた。


 町についた私達は、真っ先にこの地の冒険者ギルドへと向かった。


 冒険者ギルドは、何も魔物を狩るだけの組織ではない。

その名の通り、旅をする者たちの相互扶助の為の組織でもある。


 重要なのは情報だ。

特に近隣の情報ならば、魔物以外にも様々な情報を取り扱っている。


 周辺の情勢から町の宿屋の評判まで、幅広く揃えられており、これらの情報は常に最新のものへと更新され続けている。


 その徹底ぶりたるや、植生や魔物以外の動物達の分布情報すらも、ギルドの負担で定期的な調査が行われている程だ。


 それらの情報は、高位ランク冒険者には無料で解放されている。

特に、Aランクのミアちゃんは殆どの情報を閲覧する事が出来る。


 とはいえ、今日の所は宿屋と周辺の情勢を知りたいだけだ。

この程度の情報にはランク制限など設けられていない。

ギルドに所属する者達だけでなく、町の住民にすら開放されている程だ。


 町の人達も、新聞感覚で調べに来る事だって珍しくない。

この近くに別の国は無いけれど、領主間の小競り合いなんてものも珍しくはないのだ。


 どうやらこの国の中枢は、地方貴族の隆盛にはさして興味がないらしい。


 いや流石にその表現は極端か。

税収入に興味があるのは間違いない。


 ただ、各地の貴族達が多少小競り合いをした程度で国は動かない。


 何なら、隣接領同士で毎年のように戦争している場所すらあるそうだ。

だと言うのに、口出しする事は無いのだと言う。


 ミアちゃんは敢えて見逃しているのではないかと言う。


 まあ、他も全部ミアちゃんから聞いた話しなんだけど。

それはともかく。


 どうやら、いくつかメリットも考えられるのだそうだ。

血気盛んな者共を満足させ、かつ力を消耗させる事。

戦の経験を積ませる事。

経済の動きが活発になる事。

などなど。


 徹底的に滅ぼし合いそうならともかく、年に一回、まるで恒例行事のように小突き合う程度ならば、問題ないと判断しているらしい。


 スポーツか何かと勘違いしているのかしら。


 とはいえ、そう考えてしまう事に納得できないわけでもない。


 この国は戦争の経験が極端に少ないのだ。


 逆三角形の下角を陣取る形のこの国、アルティエスタは、そもそも隣接している他国が少ない。


 何せ、北側の半分近くは未開拓地が占めている。

その上、数少ない隣国とも平和な関係が続いており、戦争など起こりようはずもない。


 外敵という意味では、精々が海岸線沿いの町が海賊崩れに襲われやしないかと警戒する程度だろう。


 実際には殆ど岸壁に覆われているそうなので、これまた数少ない海岸線沿いの町は十分な防備を備えているか、大して発展していないかの両極端となっているようだ。


 つくづく、この地は平和に暮らすには向いている。


 まあ、そんなお気軽な戦が実戦経験と呼べるのかは、甚だ疑問なのだけど。


 とはいえ、懸念もある。

これから先、力を集め続けたボースハイトが攻めてくる可能性は十分にあるのだ。


 もしかしたら何年、何十年後の話かもしれないけれど、その時が訪れればアルティエスタなど一溜まりもないだろう。


 北東の未開拓地に挑む、前線の冒険者達が強い力を持っている事はわかる。


 ミアちゃんのデタラメな強さを見れば、他の人達の実力も推して知るべしだ。


 とはいえ、それでもボースハイトに、いや、私に勝てるとすらも思えない。


 私は未開拓地を突っ切ってこの国へとやってきたのだ。

一通りの魔物達とも戦ったが、それ程の脅威とも思えなかった。


 それだけ【スキル】というシステムはデタラメだ。


 どれだけミアちゃんがインチキじみた身体能力を持っていようとも足りないのだ。


 ボースハイトにはミアちゃん並の運動能力を発揮出来る兵が数え切れない程存在している。


 例えスキル頼みだろうとも、生み出せる結果は同じだ。

多少、個々の質が劣ろうとも、数の暴力は脅威となるのだ。


 スキルを徹底的に研究し尽くしてきたあの国は、召喚に頼らずとも十分な戦力を確保している。


 そしてそれは、これからも増え続ける事だろう。

忌々しい。只々、忌々しい。


 世界征服なんて、余所の世界でしてほしい。

この世界には魔王もいないのに。

……たぶんだけど。


 神の用意したシステムを悪用して世界を牛耳ろうなんて、傲慢にも程がある。


 天罰の一つも落とさない神は、怠慢にも程がある。


 今度アイちゃんに出会う事があったら聞いてみよう。

まあ、そこの繋がりも憶測塗れの思いつきなんだけど。

もし知っていたら儲けものくらいに思っておこう。


 正直知りたくはないし、そもそも関わりたくも無いのだけど、数少ない友人達が巻き込まれるのは御免だ。


 例え、まだ数十年は起こり得ない問題だとしても備えは必要だ。



「ホノカ、この依頼受けましょう」


 少し浮かれ気味のミアちゃんが、依頼票を持って戻ってきた。


 どうやら情報収集ついでに、めぼしい依頼がないかと見てきたようだ。

この浮かれっぷりから見るに、相当報酬が高いに違いない。


 先日、盗賊退治の報酬と、アメーリア家からの謝礼金&慰謝料、更にはファルネーゼ伯爵からも報奨金を頂いた。


 私達の資産は潤沢だ。

私達のというか、全部ミアちゃんのだけど。

少なくとも、私はそのつもりだ。

私はミアちゃんになら、いくらでも貢げる。


 そうは言っても、若干の不安も感じてしまう。

高い報酬には危険が付き物だ。


 まあ、先ずは見てから考えよう。



「拝見しましょう」


 少し戯けながら、ミアちゃんから依頼票を受け取る。


 依頼の内容は、何の変哲も無い魔物狩りだ。

大型の怪鳥を一匹仕留めればいいらしい。

これまた、報酬は破格の大金だ。


 確かにこれはミアちゃんにとってボーナスみたいなものかもしれない。

少し寄り道と山登りが必要にはなるけれど、弓の腕に自信があるミアちゃんには、持って来いの依頼だ。


 私は目を皿のようにして依頼票を眺める。

けれど、何処にも不自然な様子は見当たらない。


 何でこんなに高いのかしら。

おかしい。相場とズレすぎているんじゃなかろうか。

ただの魔物一匹で、何故王都近郊を騒がす盗賊団退治より高い報酬が設定されているのだろう。

意味がわからない。


 うん。わからない事は聞いてみるとしよう。



「これ、何でこんなに高いの?」


「脅威度が高いからでしょうね。

 魔物の強さだけでなく、単純に被害の数も多いのではないかしら」


 棲み着いているのは山奥でも、頻繁に人里に降りて襲いかかって来るのか。

鳥型の魔物だし、そこについておかしな事はない。



「でもこの魔物って大した事ないよね?」


「ええ。私達にとってはね」


「群れを倒すの?」


「一匹よ。

 ホノカ。あなた何か勘違いしていない?

 この魔物は、この辺りなら一匹でも十分な脅威なのよ?

 普通の人は上空への攻撃手段は限られているのだもの。

 それに本来この地域に生息する魔物でもないわ」


「というと?」


「さあ?

 追われて逃げてきたって所じゃない?

 何にせよ、随分とタイミングが良かったわね。

 この額は他の地方から高ランク冒険者を呼び寄せる意図もあるのだもの。

 話が出回る前に受けられたのは運が良かったわ」


「それでそんなに嬉しそうなんだ」


「ふふ。ダメよ、そんな事を言っては。

 被害にあっている人達もいるのだから」


「三秒前に自分が言ったこと思い出して」


 というか笑みを隠せて無いし。

いやまあ、本当は小躍りしたくなるくらい、私達にとって都合の良い依頼だったのだろう。


 大して脅威でもない魔物一匹狩るだけで、大金が得られるのだから。


 本当にそんな都合良くいくのかしら。

自慢じゃないけど、運の悪さにだけは自信がある。

揺り戻しが無いといいけど。



「ほら、早速行くわよ、ホノカ。

 獲物が逃げてしまうわ」


 ウキウキと私の手を引いて歩き出すミアちゃん。

運が悪いは間違いかも。

こんなミアちゃんが見れたのだし。

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