02-02.爆速(退場)
「ふっふっふ!
ボクの名前ですか~?
聞きたいですか?聞きたいですよね?
仕方ないですね~!これもなにかのご縁でしょう!
ボクの名前はアイテル!
お気軽にアイちゃんとお呼び下さい!」
爆速飛行少女はそう名乗りながら、ふわりと中に浮く。
あんな出会い方だったのに、やたらとフレンドリーだ。
これは私達にとっても幸いかもしれない。
この子、アイちゃんは、あの速度でもろに頭に矢を受けた筈なのに、傷一つ付いている様子は無い。
私達より遥かに強い可能性が高いのだ。
キレて襲いかかってきていたら、逃げる事すら難しかったかもしれない。
何せあの飛行速度だもの。
音速とかは普通に出ているんじゃないかしら。
むしろよく痛みを与えられたものね。
生身であの速度の飛行が出来るという事は、相応の頑強さを持っているはずだ。
見た目はフィオちゃんと大差無いくらいだから、十二歳前後くらいかしら。
とはいえ、この子も見た目通りとは限らない。
フィオちゃんとは逆に、もっとずっと年上かもしれない。
仮にこの子の強さが魔物を倒した事で得たものなら、相応の時間を要するはずだからだ。
決して十二歳程度で到達できる領域ではあるまい。
「私はミア。
こっちはホノカよ。
アイって人間なの?」
一切躊躇う様子も無く、平然と質問を続けるミアちゃん。
ミアちゃんはアイちゃんが怖くないのかしら。
やっぱり私達で太刀打ち出来るとは思えないんだけど。
「ふっふっふ!ふっふっふっふ!
はっはっはっはっは!
よくぞ聞いて下さいました!
ボクは何を隠そう!え?ダメ?
言っちゃダメなの?なんで?
いいじゃん、面白そうだよ。
ボク、この娘気に入ったんだけど。
え!?待ってよ!まだ話した」
突如言葉が途切れた。
というか、アイちゃんの姿が消えていた。
???
どういう事?
あかん。頭が追いつかない。
結局何だったの?
アイちゃんは何者だったの?
「流石に驚いたわ」
ぼそっと呟くミアちゃん。
今更?それだけ?
「行きましょ、ホノカ。
こんな所で突っ立っててもしょうがないわ」
そう言って本当に歩き出すミアちゃん。
私は慌てて駆け寄って、ミアちゃんの手を握る。
「本当になんだったんだろうね、アイちゃんって」
「知らないわよ。
案外、神様かなにかかもね」
どうでも良さそうに答えるミアちゃん。
既にアイちゃんへの興味を完全に失っているようだ。
「でもまるで誰かに回収されたみたいだったよ?
神様の更に上もいるって事?」
「さあ?
なら回収したのが神で、アイは神の使いとか?
まあ何でも良いわ。
本当にそんな存在なら、どうせまた姿を表すでしょ。
何やら私に興味があるみたいだし」
なるほど。
どうせ考えてもわからないのだから、今は気にするだけ無駄なのか。
ミアちゃんらしい、合理的な判断で関心が無くなったようだ。
「変な娘に目を付けられちゃったね」
「しっかり守りなさい」
「無茶言わないで。
あの子、絶対私達より強いよ。
逃げるのだって無理でしょ」
【飛行】スキル覚えられるのかな。
結局聞けなかったから、存在するのかどうかもわからないけど。
「大丈夫よ。私のホノカなら」
「まだミアちゃんのものにはなってないよ?」
ミアちゃんは私のだけど。
「相変わらず往生際が悪いわね。
この指輪の効果は説明したはずよ」
「ミアちゃんならブラフの可能性も否定できないもの」
「……そんなわけないじゃない」
ミアちゃん?
「なんで今、少し間があったの?」
「気の所為よ」
本当かしら?
【鑑定】スキルの習得も急務ね。
指輪の効果をちゃんと確認したいし。
誰か【鑑定】の事教えてくれる人はいないかしら。
せめて鑑定の水晶で表示される結果だけでも見てみたい。
【直感】である程度習得の道筋は見つけられるけれど、そもそもの基礎知識が無いことにはどうにもならない。
【鑑定】については、その効果しか知らないのだ。
【直感】も【探究者】も、無条件には導いてくれない。
中々上手くは行かないものだ。
異世界転移特典のチートスキルなんだから、こんなに使い辛くしなくても良いじゃない。
そう言えば、これって神様がくれたものなのだろうか。
まさかアイちゃんが?
もしくはその上司?
何にせよ、次に会ったら文句を言いたいくらいだ。
当然スキルの使い辛さなんて話ではない。
転移時にスキルを付与するせいで、ボースハイトが力目当てに召喚するなんて暴挙を続けている。
しかも、それを止めようとすらしていない。
まあ、全部憶測の話だから実際に文句を言ったりはしないだろうけど。
「なに、辛気臭い顔してんのよ。
そんなに私の気持ちが信じられないの?」
「別にそんな事考えてないよ。
今更ミアちゃんの気持ちを疑うわけ無いでしょ」
「なら自分の気持ちが信じられないとでも?」
「そうでもないけど……」
「なら何も問題ないじゃない。
約束だからこれ以上強引には言わないけれど、もう少しくらい甘えさせてくれても良いとは思わない?」
「もちろん、そういう事なら大歓迎だけど。
具体的には何がしたいの?」
「キス」
「ダメ」
「ハグ」
私はミアちゃんの手を引っ張って、そのまま抱きしめる。
「後は?」
「……暫くこのままでいなさい」
ここ街道のど真ん中なんだけど。
まあ、他に人なんていないけども。




