01-39.再開
私はミアちゃんと二人、手を繋いで街道を歩く。
既に王都は見えなくなった。
フィオちゃんとリリさんは上手くやれるだろうか。
別れの時には、並んで手を振ってくれていた。
前より少しだけ距離が近づいて居た気はする。
王都デートの晩、ミアちゃんは旅立つ事を宣言した。
フィオちゃんは私達を引き止めなかった。
必ず自力でやり遂げるから信じてくれと私達を送り出した。
私は焚き付けた手前、少しの間は見守るべきだと思っていたのだが、そんな必要は無いと断られてしまった。
フィオちゃんは本当に強い子だ。
もう余計な心配はすまい。
ただ、再会の時を楽しみにしておこう。
「何だか久しぶりだね」
「そうね。
少しだけ長い寄り道だったわ。
これでようやく再開できるわね」
「チョコレートあるのかなぁ」
「故郷の場所を聞くべきだったかしら」
「あの時の質問?
聞いても意味ないよ。
どうせ辿り着けない場所だし」
「いいえ。必ず辿り着くわ。
ホノカを故郷に送り届けてあげる。
チョコレートを探すついでにね」
「ううん。必要ないよ。
別に故郷に良い思い出があるわけじゃないの。
今更帰りたいわけじゃない。
違うか。そうじゃないや。
絶対に帰りたくない。
今が一番幸せだから」
「あの子達と居たときよりも?」
「その質問は意地が悪すぎるよ」
「ホノカこそ乗り越えなさい。
レンもザインもニナももういない。
それでもホノカはいる。私はいる。
今はリリもフィオもいる。
失ったものは取り戻せば良い。
全く同じではなくても、代替手段なんかじゃなくても、必ず私達を埋めてくれる。
幸せにしてくれるのよ。
だから笑っていなさい。
誰かと共に在りたいのなら笑っていなさい。
私の為に、他の誰かの為に笑っていなさい。
そして誰より、ホノカ自身の為に笑っていなさい」
「良いの?
ミアちゃん以外の前では程々に笑えって言ったじゃない」
「それはそれよ。
私を嫉妬させないように、上手く立ち回りなさい」
「ふふ。無茶苦茶だよ」
「私以外を惚れさせてはダメよ。
許すのはフィオが最初で最後よ」
「私はミアちゃんだけで良いんだけど」
「ならあなたが拒絶なさい。
再会したとき、フィオを振ってやりなさい。
そうすれば、私はホノカだけのものよ」
「ミアちゃんは自信ないの?
フィオちゃんに言い寄られたら惚れちゃうの?」
「据え膳は食らう主義よ。
幼女趣味は無いけどね」
「やっぱり浮気屋さんじゃない」
「しっかり縛り付けておきなさい」
「私は束縛系じゃないと思うんだけど」
「相変わらず自己分析がなってないわね」
「ミアちゃんこそ。
ミアちゃんみたいに初心な生娘が、簡単に浮気なんて出来るわけないじゃない」
「言ったわね!
ホノカこそ……ごめんなさい。
なんでもないわ」
「そういう気の使い方しないでよ!
無いよ!経験なんて無いから!」
「いえ、良いのよ。
無理しないで。
思い出さなくて良いのよ。
本当にごめんなさい」
「だから本当に無いんだってば!
信じてよ!そんな事されてないってば!」
「……え?
本当に?」
「本当よ。私は大切な兵器だったのだもの。
莫大なコストをかけて手に入れて、多くの時間をかけて育て上げた兵器に、そんな無駄な事はさせないよ」
「いや、でもそんなわけ……!
こんな美人が手を出されないなんてありえないわ!」
「捕まった直後はまだ子供だったもの。
それに、私のスキルは特別だったからそういう意味でも貴重品だったのよ。
その上、直接の所有者は王族だったから、わざわざ手を出すような奴もいなかった。
そもそも、あの国の人達は容姿も結構違うから……」
「ホノカ、その辺にしておきなさい。
勢いで話しすぎよ。
過去の事は知られたくないのでしょう?」
「あ……ごめん、ありがとう。
……良いの?
ミアちゃんは知りたいんでしょ?」
「違うわ。勘違いしないで。
私はホノカに話して欲しいのよ。
自分の意思で、私に伝える為に言葉にしてほしいの。
私への信頼を示して欲しいのよ」
ミアちゃん……
ここまで言ってくれているのに、私はまだ……
これじゃあダメだ。私はミアちゃんの隣に居たいんだ。
ミアちゃんに頼りたくないんだ。
本当は頼ってもらいたいんだ。
なら示さなきゃ。
「……私はこの世界の人間じゃないの」
「そう」
「私はここから遥か遠方の大国、ボースハイト王国で召喚された異世界人」
「うん」
「私のスキル【探究者】は成長に補正がかかるの。
本来人間が到達し得ない領域にすら引き上げてくれる」
「そう」
「収納スキル、覚えたよ」
「そっか」
「フィオちゃんが手伝ってくれたの」
「フィオには先に話したの?」
「ううん。話してない。
けれど、フィオちゃんも察したの」
「そう」
「あの国の事、噂程度には聞いたことがあったみたい」
「流石ね」
「私も【直感】持ってるの」
「そっちの使い方を教えてもらったのね」
「うん。
お陰で【探究者】の使い方も少しわかってきた」
「スキルは嫌い?」
「どうかな。怖いの方が近いかも」
「そう」
「今はこれだけ。
後は追々ね」
「わかったわ。
ありがとう、ホノカ」
「ありがとう、ミアちゃん」
私達は歩き続ける。
チョコレートを探して。
手を繋いで。
二人きりで。
笑い合いながら。




