07-36.作戦会議
「面白そうな話ししてるじゃない。私も混ぜなさいよ」
「あ、ミアちゃん。……ミアちゃん!?」
「何驚いてるのよ。何かやましい事でもあるのかしら?」
「あはは~♪ そっそんなわけないじゃ~ん♪」
さっき逃げたくせにしれっと現れおって。
「そうよね。まさかあなた達だけで敵の本拠に攻め込むなんて話している筈が無いものね」
ばれて~ら。
「ないない~全然ない~♪ もちろんミアちゃんも誘うつもりだったって♪」
「ならいいわ。話を続けましょう」
参加するつもりだぁ。
しゃあない。どの道隠し通せる筈も無いんだし。
『そうでしょうか? ホノカが口に出さなければよかっただけの話では?』
うっさいやい。
「続けないの?」
「続ける続ける」
えっと? 何処まで話したっけ?
『せんにゅう』
『ローちゃんを表に出すんでしょ。ホノカは裏方に回るって話よ。それで私達を吸収したローちゃんとしてクロノスの体内に侵入するのよ』
『そのままクロノスに取り込まれないようにするにはどうしたらいいかな。先ず気づかれるのはマズイよね』
あくまで報告に戻ったローちゃんに徹しないとだよね。
『それとは別に、本体に援助要請をかけて誘い出された追加要員を取り込んでいくって手もあるよ。それを力関係が逆転するまで繰り返すの。当然そこまで都合良くはいかないけれど、比較にならない状態から絶望的な力の差くらいにはなるかもしれない』
あんまり変わってない。言いたいことはわかるけど。相手の力を切り分けていくのは必須事項だ。それを自らの糧と出来るなら最上だ。
「むしろローだけを差し出すのはどうかしら? 今のローを取り込ませてホノカとの繋がりをクロノス本体との間に作るのよ。それから少しずつ力を奪っていきましょう」
トロイの木馬かな? しかもバックドアまで作ろうとしてる? ミアちゃんたらえげつないこと考えるね。
でもそれも名案だ。敵が自ら切り分けなくともこっちから好きなだけ取り出せるんだから。敵に依存しない戦略を考えるのは基本中の基本だもんね。
『それ私消えちゃうよね』
『しゃあない』
『まあローちゃん一人の犠牲で済むなら現実的な案ではありますね』
『私達の命運は貴方に懸かっているわ!』
『頑張れ! ローちゃん!』
満場一致じゃん。
『酷い!? 誰も止めてくれないの!?』
「実際ローなら代わりが幾らでもいるじゃない」
『いないよ!? ホノカの私は私だけだよ!?』
「大丈夫。どの道クロノスごと取り込んであげるから。ローちゃんは私の中で生き続けるのさ♪」
『いい話風に言わないでよ!? やってることただの人柱だよ!?』
「まあ冗談はともかく」
「冗談なの? ホノカの危険が少ない名案よ?」
自画自賛。
『まだ言うか!』
『はいはい。ローちゃんは静かにしていてください』
『なんでよ!? 私は除け者なの!? この作戦会議で私以上に重要な存在いないでしょ!?』
こっちもか。事実だけども。
『もちろん頼りにしていますとも。ですがボク達に手段を選んでいる余裕はありません。ローちゃんだけでなくボク達全員、我が身の犠牲をも厭わない選択が必要となるでしょう』
『かくご』
『たりない』
『そうよ。私達はホノカと皆を守りたいの。何を犠牲にしたとしてもね』
『皆覚悟出来てるよ! ローちゃんだって本当はそうなんでしょ?』
『そっそれは……もちろんだよ!!』
同調圧力。
『『『『じゃそういうことで』』』』
『えぇ!?』
可愛そうは可愛い。じゃなかった。金科玉条? この流れは鉄板だよね。
「ホノカならもっとゲスイ案思いつくんじゃない?」
ちょっとミアちゃん?
「う~ん? クロノスって既に何人か神を取り込んでるんだよね。ならクロノスの中に忍び込めば交渉出来ないかな? 意識が残っているかはわからないけど、神ってそうそう滅んだりしないでしょ? 前のローちゃんだってあれだけしぶとかったんだもん。少なくともその核となる部分はクロノスのお腹の中に残っていると思うの。彼らに反逆の狼煙を上げてもらいましょう。下手人が誰かわからないように目眩ましになってもらいましょう。その為に力を分け与えてあげましょう。もちろんその力はクロノスから削り取ったものをね。そうやって内側から崩壊させてあげましょう」
「『『『『『普通』』』』』」
何その反応? 何を期待してたの?
「ホノカならもっとやれるわ」
『ホノカならより強烈な一撃を放てる筈です』
『ホノカはまだまだこんなもんじゃないわ』
『ホノカちゃんならもっと頑張れるよ!』
『ホノ~』
『がんば~』
『ホノカも本気で考えて。手を抜くなんてらしくない』
えぇ……。
「ちょっと。皆して私のことなんだと思ってるの?」
「悪魔」
『悪辣な策略家でしょうか?』
『と言うより子供なのよ』
『幼い残虐性はあるよね』
『そしつ』
『ある』
『きっと歪んだ教育のせいだよ……。ホノカも苦労してきたんだもんね……。もう千年も前の話だけど』
こんにゃろ。
「クロノスと直接交渉しよう。知っての通りクロノスの目的はへーちゃんだよ。クロノスが今すぐにこの世界ごとへーちゃんを取り込んでしまおうとしないのはへーちゃんが力を取り戻すのを待っているから。この世界はその為の揺りかごなの。けどへーちゃんにその気はない。クロノスだってそれを知れば気が変わるかも。待つのはやめて、一か八かへーちゃんを世界ごと取り込んで次の捕食対象を探しに行くのかも。だからそうならないようにチラつかせるの。私達が責任持ってへーちゃんを育ててあげるから貴方も協力してと頼み込むの。私がクロノスから力を受け取ってへーちゃんを育てる。私達の存在はその為に必要だってクロノスに思わせるの。私達はみっともなく命乞いするの。へーちゃんを差し出すから私達だけは見逃してくれって。それでへーちゃんが十分な力を取り戻したら私達でへーちゃんを取り込むの。クロノスから貰った力と合わせてクロノスを打ち倒すの」
「まだ足りないわ。もっと本気を出しなさい」
ぐぬぬ……。
「じゃあなんとかしてゼウスを呼ぶのが一番じゃないかな」
クロノスが一番悔しがるのは間違いない。力を求めているって事はまだ足りない筈だ。そんな状況で復讐対象に見つかるのは避けたい筈だ。なら私達は言いつけてしまうのが手っ取り早いだろう。方法が無いって問題はあるけど。
「クロノス自身にゼウスを呼ばせてみよっか」
「調子出てきたじゃない。それで? その方法は?」
「クロノスの力が十分に成長したって勘違いさせるとか? へーちゃんを取り込ませて、けど完全に吸収されないよう私達で守るの。実際にはクロノスに取り込まれる直前にへーちゃん含めた家族全員を私が取り込めば良いんじゃないかな。それでこの世界を外殻にしちゃおっか。クロノスには世界ごと取り込んでもらおうよ。散々私達が守ってあげたんだから今度は世界の方に私達を守ってもらうの。ついでにお腹の中の神々と協力して内側から足をひっぱっちゃおう。それでゼウスに助けてもらうのを待つの。クロノスが討ち果たされれば外に出られるよ。きっと。たぶん」
「ダメよ。その方法ではこの世界に残す者達が無事では済まないわ。そこにはレンやザイン達も含まれるのよ」
それもそうか。けど私達だけを取り込んでクロノスが満足出来るかな? 何か世界に匹敵する強大なエネルギーが必要だと思うんだけど。へーちゃんの取り込み不良に気付かないくらい大きな何かが必要だ。
『ダンジョンを使って悪さ出来ないかな?』
「と言うと?」
『例えば……今まで通り力の取り込み口としてさ』
具体的な案は無さそう。メレクに相談してみよっか。
「ダンジョン内に人々を避難させられないかしら?」
『できる』
『かも』
「ナイア? 心当たりあるの?」
『よう』
『ちょうさ』
「調べてみましょう」




