01-31.姉妹喧嘩
「それじゃあ、閣下もああ言っていた事だし、腹割ってしっかり話し合いましょうか。
二人とも言葉遣いを改めなさい。
同年代の友人のように気兼ねなくね」
「ミアちゃんなんでそんなにやる気なの?
お貴族様とお金持ちには関わりたくないんじゃなかったの?」
「もう少し空気読みなさいよ。
気を使ってるつもりなんでしょうけど、話題選びが最悪よ」
「それはほら、ボケとツッコミというか」
「ならボケ続けなさいよ。
なんで早々に放棄してんのよ」
「空気読めって言われると反論したくなる年頃だから?」
「意味がわからないわ」
「ならない?
そんなこと無いやい!って言いたくならない?」
「知らないわよ!」
「ふふ。その調子よ、ミアちゃん」
「何でこんな時だけ笑えるのよ。
ホノカは私と二人きりの時だけ笑い続けてれば良いのよ。
それ以外は程々になさい」
「そういう意味だったの?」
「そういう意味よ」
「何の話をしてるのかしら、私達」
「そうよ、こんな話してる場合じゃないわよ。
リリアーナ、あんたはフィオの事をどう思ってるの?
全て言葉にしてぶつけてやりなさい。
あなた達に必要なのは対話よ。
フィオはバカで浅慮で思い込みが激しくて、スキル頼みのどうしようもない子だと判っているのでしょう?
まずあんたが姉として度量を示さないでどうするのよ。
勘違いするんじゃないわよ。
我慢しろって言ってるんじゃないわ。
逆よ、全部ぶちまけて、それから歩み寄れと言ってるの。
フィオのダメな所を指摘して叱ってやれと言ってるの。
嫌いな所を一つ一つ突きつけて、気付かせてやりなさい。
けれど、あんたらはまだ言葉を交わせる段階にないの。
先ずはそうする為に、目一杯喧嘩しろと言ってるの。
そうでなきゃ、あんた何時までもこれと同格よ?
少なくとも、あの伯爵閣下はそう認識しているわ。
きっと周りの者たちだって同じよ。
それで本当に良いの?
何時までも子供扱いでこの先やっていけるの?
あんた今、大商会の代表なんでしょ?
なら、相応しい度量ってもんがあるはずよ」
「……ずけずけと。
随分と深く刺してくれるわね」
「よく染みたかしら」
「ええ。そうね。
ミアさ、いえ、ミアの言う通りね。
私が何時までも大人気なかったわ。
そう。それはわかっているのよ。
けどね、どうしても無理なの。
私、この子の事生理的に受け付けないのよ。
だってそうでしょ?
こんな子、誰だって嫌いになって当然よ。
生意気で傲慢で、上から目線で哀れみを向けてくるクソガキなんて、誰が好きになれるもんですか」
「そっちこそ!!
哀れなのは事実でしょ!
卑屈になって、やっかんで、下らない意地悪ばっかり!
十も下の妹にムキになって恥ずかしいと思わないの!?」
「卑屈なのはあんたの方よ!
自分は不義の娘だからなんて下らない事気にして母様に気を使わせて!
母様が亡くなったのはあんたのせいよ!
あんたがいっぱい心配かけたからよ!
母の仇を多少虐めたって罰は当たらないでしょうよ!!」
「言うに事欠いてロレッタ様の仇ですって!?
それこそお姉ちゃんのせいだよ!
父様が厳しい冷たいって泣いて縋って!
ロレッタ様にいっぱい心配かけたのはお姉ちゃんの方でしょ!」
「この!ふざけた事を!」
「どっちが!!」
遂には掴み合い、取っ組み合いの喧嘩に突入するアメーリア姉妹。
そんな二人を見ものに、優雅に紅茶を飲むミアちゃん。
ミアちゃんって本当にどっかのお姫様だったりしない?
なんか、やたらと様になってるんだけど。
故郷はバルト村って言っていたけど、村と言うくらいだから当然お姫様って事はないはずだ。
案外、亡国のお姫様が流れ着いたとか、そんな大きな秘密が隠されているのかも?
でも、普通に村には家族もいるらしいしなぁ~。
とっても気になる。
最初は二人の喧嘩をハラハラと見守っていた私だが、ミアちゃんに影響されたせいか、次第に落ち着きを取り戻した。
たまに二人に治癒魔法をかけながら、二人の喧嘩を眺め続ける。
意外とフィオちゃんはいい勝負をしている。
それなりに体格差はあるのだけど、体の動かし方が上手い。
腕力の差を上手く小手先の技術でカバーしている。
もしかしたら、【直感】スキルに頼ってるのかもだけど。
それから小一時間は取っ組み合いを続けていた二人だったが、ようやく力尽き、倒れ伏した。
体の傷は残っていないだろうけど、服の方はズタボロだ。
二人とも所々千切れて、ヨレヨレだ。
伯爵様を呼び戻す前に着替えさせないと。
あれ?というか、伯爵様の事長く待たせ過ぎじゃない?
大丈夫なのかしら。
「気は済んだ?」
「「ぜんぜん」」
「あんた達、案外仲良いんじゃない?」
「フィオちゃんもお姉ちゃんって呼んでたよね」
「うぐっ……」
「……幼い頃はそう呼ばれてたんだったわね」
「……昔の話です」
「九歳児がいっちょ前に言うわね」
「いやぁ~
改めてフィオちゃんの年齢考えると、リリアーナさんって本当に大人気ないよね」
「ぐふっ……」
「ホノカ、今はダメよ。
私もそう思うけど」
「……それで?
この後はどうしろと?」
「そりゃあ、喧嘩したら仲直りでしょ。
とはいってもあんたらには難しいわよね。
そうね、私が話題を振ってあげるわ。
あんたらは、それに答えるだけでいいわよ」
「早くして下さい。
何だか眠くなってきました」
「この程度で音を上げるなんて、運動不足なんじゃない?」
「一月近くも牢獄生活してたんだから当然だよ」
「……わるかったわ。すぐに助けに行けなくて」
お?
リリアーナさんが、自ら歩み寄るような事を言い始めた。
まだミアちゃんが話題を振ってないけど、このまま上手くいくのかしら。
「……べつに。
姉さんも捜していてくれたそうですし」
「もうお姉ちゃんとは呼ばないの?」
「ホノカ、ステイ」
「わん」
「本当に、お二人は……もう。
姉さん、姉さんは私が死んでも良いとは思わなかったの?」
「思ったわよ。
死んで、二度と目の前に現れなければ良いと。
何度も何度もそう思ったわ」
「……」
「けれど、それでもあなたは私の妹よ。
亡き母が愛した形見なの。
どれだけ愚かで浅はかでも、失われて良い訳が無いの。
そんなの、探すに決まってるじゃない……」
「……そっか」
「フィオこそ、私が犯人だと思ったのでしょう?
復讐して、殺してやりたいとは思わなかったの?」
「それは……思ったよ」
「あれ?そうだっけ?
フィオちゃん、ミアちゃんが報復しようとした時に必死に止めてたじゃない。
それに、その前にも大切な存在だから殺したくはないんだって、躾けて飼い殺しにするんだって言ってたじゃない」
「……」
「ホノカ、流石にそれはどうかと思うわ。
止めてあげなさい」
「わん」
「フィオ、あなた」
「勘違いしないでよ!
ロレッタ様によく似てるからだから!
お姉ちゃんの事なんて大嫌いなんだからね!」
「ツンデレ?」
「止めなさい」




