01-30.アメーリア邸
伯爵様の用意させた馬車で、あっという間にアメーリア邸へと辿り着いた。
流石に伯爵様のお屋敷程では無いが、それでも十分過ぎる程に立派な邸宅だ。
よく平民の身分でここまでの物を持つ事を許されたものだ。
下手な下級貴族よりは力があるのだろう。
資金力だけでなく、コネや後ろ盾がなければこうはいくまい。
まあ、国の隅々にまで手を伸ばす巨大商会ならば、あり得ない事でも無いのだろう。
伯爵様が到着する事は事前に早馬か何かで知らされていたのか、まさかのリリアーナ本人が出迎えてくれたのだった。
思っていたより、ずっと早い出会いだ。
まさかこんなに風にお目にかかる事になるとは。
リリアーナは、いや、リリアーナさんの第一印象は礼儀正しく綺麗な方だった。
本当にこの人がフィオちゃんを襲わせたのだろうか。
ミアちゃんを始末するために、街中を追いかけ回させたのだろうか。
正直、もうどちらも信じられない。
フィオちゃんの【直感】スキルは、今までフィオちゃんに何を見せてきたのだろうか。
その辺りの事も紐解かないと、二人の不和が解消される事は無いだろう。
とにかく先ずは話をしてみよう。
リリアーナさんは、フィオちゃんの事をちらりと一瞥したものの、特に声をかける事もなく真っ先に伯爵様に頭を下げた。
フィオちゃんを連れてきてくれた事に感謝を述べてから、応接室へと自ら先導を始めた。
リリアーナさんの案内で応接室の席へと着いた私達は、早速話し合いを始めた。
普通なら、姉妹同士感動の再会となるところなんだろうけど、先ずは不仲の解消が先決だ。
「先ずは、ミア様、ホノカ様。
妹をお救い頂き感謝致します。
この愚かな妹を良くぞここまで送り届けて下さいました。
道中、様々なご迷惑をおかけした事でしょう。
愚妹の事だけでなく、昨日の件も存じております。
大変失礼な事を致しました。
誠に申し訳ございません」
私達にも深々と頭を下げるリリアーナさん。
「そうね。
あなた達姉妹には散々に迷惑をかけられたわ。
どういうつもりで追い回してくれたの?
先ずは、理由を説明なさい」
「妹の行方を追わせておりました。
少しばかり冗長ではございますが、一から説明させて頂きたく思います」
「構わないわ。続けて」
「はい。
ここは既にお聞き及びかとは思いますが、今回の騒動の発端は父と妹が盗賊団によって襲われた事でした」
「父の亡骸は襲撃された街道に打ち捨てられておりました。
ですが、妹の亡骸は見つかっておりませんでした。
妹は見目も良く、優秀なスキルまで保有しております。
その為、盗賊共に拐かされたのだろうと判断致しました」
「そしてこれは、偶然によるものではありません。
ある者によって意図的に引き起こされた襲撃です。
既に私達はその者の所在を暴き出し、これを捕縛。
その後に尋問を行いました」
「その結果、盗賊団首領の追跡手段を見つけ出しました。
ミア様が察して手放した、あの短剣でございます」
「そんな報告を受けた直後でした。
あの短剣の持ち主が、あろう事か王都に来ていたのです。
私はあの短剣を持つ者を腕利きの部下達に追わせました。
当初は首領がノコノコとやってきたのかとも思いました。
手荒でも構わないから、私の下へと連れて来るようにと命じました」
「ですが、報告を聞いて驚きました。
所有者は年若い少女だというのです。
とはいえ、妹の情報を持っている可能性は依然として残されていました。
引き続き何としても連れて来るようにと厳命致しました」
「全ては私の短慮が原因でございます。
本当に申し訳ございませんでした」
再び深々と頭を下げるリリアーナさん。
「話はわかったわ。
私は冒険者よ。
商人ならこんな時どうすればいいかはわかるでしょ?
謝礼金に迷惑料を上乗せしなさい。
それで手打ちとしましょう」
「感謝致します」
「それでフィオ、あんたの姉は随分とまともそうだけど、これはいったいどういう事なのかしらね?」
そういう話の持っていきかたするの?
ミアちゃん容赦なさ過ぎよ。
いくら散々振り回されたからって、相手は九歳児よ?
その上、最近まで盗賊達に囚われてたのよ?
もう少しくらい、手心加えてあげても良いんじゃない?
せめて、大好きなおじさまの前で話すのは止めておくとかさ。
「騙されないで下さい!
そんなの嘘です!
だってあの首領は言ってました!
依頼したのは私の姉だって!
スキルも事実だって答えたんです!」
「それは、その首領がそう思い込んでいただけよ。
スキルは、首領が嘘をついていないと証明しただけ。
真実だと示したわけではないわ」
「黒幕はとある下級貴族です。
父と妹の命を奪い、私に汚名を着せる事で、我が家を取り潰そうと目論だのです。
首領に私の名前を吹き込んだ事も、それが理由でしょう」
「そんな……はず……」
「スキルはどう判定した?
あんたの姉は嘘をついてる?」
「……いいえ。全部真実です」
「折角だし、もう少し気になっている事を聞いておきましょうか。
フィオの救出依頼を出さなかった理由は?」
「二つ理由がございます。
一つ目は、妹の命を守る為です。
私達が妹の生存に気付いていると知られる事で、首謀者側にも気付かれる可能性がありました。
首謀者は万全を期す為に、妹の命を確実に奪っておきたかったはずです。
襲撃時点では盗賊の気まぐれで回避されましたが、生存を知れば圧力をかけたはずです。
ですから、私達は逆に妹の死亡を喧伝致しました。
それ故に捜索依頼を出す事は叶いませんでしたが、それが妹の命を守る唯一の手段だと判断しました」
「二つ目は、そもそもこの地の冒険者ギルドを信用していないからです。
禄に魔物もいない王都に居座る者達など高が知れています。
幸い我が商会には、冒険者を頼らずとも盗賊団程度は滅ぼせる戦力が揃っています。
冒険者ならばよくご存知かとは思いますが、行商によって遠方で魔物退治を続けている我々が、その様な者共に遅れを取る事などありません」
「でしょうね。
納得できる話だわ。
それで、フィオ?」
「………………全部真実です」
「そう。ならあんたが今すぐするべき事はわかるわね」
「……」
「そんな事もスキルに教えてもらわなきゃわからないの?
というか、【直感】が答えを出してくれるの?
無理よね。自分の頭で考えなさい」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ごめんなさい」
「誰に?何を?
それにハッキリ喋りなさい」
「ホノカ様、ミア様、誤った情報で振り回してすみませんでした。
……姉さん、疑ってごめんなさい。
私は姉さんが私達を殺そうとしたんだと信じていました」
「そう。
無理もないわね」
先ほどまでとは打って変わって、冷たい声音で答えるリリアーナさん。
けれど、言葉の内容は理解を示すものだった。
「伯爵様、リリアーナさん側には問題が無いように見受けられますが、本当にお互いが原因の不仲なのですか?」
「ホノカ、黙りなさい」
「いや、構わんよ、ミア嬢。
その為に同行願ったのだ。
ミア嬢は気付いているようだな。
済まない。私が気を使うべきだった。
少し席を外そう。
年の近い女性同士、少し腹を割って話してみてくれたまえ」
「感謝します、閣下」
ミアちゃんがそう答えると、伯爵様は立ち上がって歩き出した。
少し慌ててリリアーナ様が同行しようとするも、伯爵様は手のひらを向けて座り直すよう促した。
そうして部屋の中には、アメーリア姉妹と私、ミアちゃんだけが残された。




