06-74.不本意な影響
「いったい何を言っているんだ!?」
将軍と名乗る男が声を張り上げた。
反して教授の方は表情を変えてすらいない。
何を考えているのかわからない男だ。
「私はプネヴマを脱退します。
そしてこのお方を主とし、共に真の敵を討ち滅ぼします」
元盟主、そして今は神である私の眷属となったアイシャ。
彼女は私の構築した異界を出ると、かつての同胞達に自らの口でハッキリと宣言した。
「なっ!?」
彼らからしたら、急に心変わりしたようにしか見えなかったことだろう。アイシャが少女の姿に変えられた事もあって、将軍もすぐさまアイシャが洗脳されていると思い至ったようだ。
「貴様ぁ!!」
カッとなった将軍は私に向かって殴りかかってきた。身体強化系のスキルを持っていたようだ。それに一組織の幹部を務めるだけの事はある。そこらの一般人とは比べ物にならない実力の持ち主だ。少なくとも身体能力と武術の技量だけなら異界に連れ込んだばかりのアイシャより遥かに格上だ。
「はい♪ いっちに♪ いっちに♪」
「こんのぉ! 舐めおってぇ!!!」
あんまり近くで叫ばないでほしい。
「そのままでいいから聞いてくれる?」
まあ聞く気無くても話すけど。
「悪いけどあなた達の盟主は貰っておくね。あなたの考えた通りだよ。私はアイシャを洗脳したの。時間の流れの違う結界に閉じ込めて、何年もかけて説得したの。これは間違いなく洗脳だね。それは認めるよ。卑劣な手段だと憎むならそれも構わない。けど出来る事ならもう少しだけアイシャの話を聞いてあげてほしい。彼女は彼女なりに答えを出したから。あなた達が私を憎む経緯が違うから参考になるかはわからないけれど、きっと聞いてみる価値はあると思うの」
「やかましい! 貴様の言葉なんぞ聞くものか!」
まあ洗脳されちゃうかもしれないからね。当然だよね。
「教授だっけ? あなたはどう?」
「論外だ。我らが盟主を返して頂こう」
「そっか。残念。
いいよ。あなたもかかってきて。
満足するまで付き合ってあげるから」
「生憎私は戦闘員ではない。
ここは将軍に任せよう」
「なんなら稽古でもつけてあげましょうか?
思いっきり身体を動かせば気分が晴れるものだよ」
「結構だ」
ざ~んねん。
「結局ホノカちゃんが一人でやってるし……」
「最初からそのつもりだったのね。
付いてくると言い出した時点でこうなる気はしていたわ」
「違うんだよ? ミアちゃんに任せるつもりだったんだよ?
少なくともアイシャ以外は。でも向かって来ちゃったから」
「普通に会話入ってこないで。
ちゃんとそのおじさんの相手してあげて」
「そうよ。ホノカ。
それがせめてもの情よ」
「は~い」
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「呑気なものですね。我らが主は」
「えっと、お婆ちゃん? で良いんだよね?」
「アイシャと呼びなさい。
今は同じ主に仕える身です」
「別にトキハはホノカちゃんに仕えてるわけじゃないよ? ホノカちゃんのハーレム要員だよ? それと普通に話しかけてきたね。ちょっとビックリだよトキハ」
「アイシャもホノカにだいぶやられてるわね。
残念ながら手遅れよ。ようこそ。こちら側へ」
「私としても不本意ではあるのです。まだ少しは」
「もう十分末期だと思う。
ホノカちゃん容赦ないからなぁ」
「にしてもワンパターンよね。
これで全部解決されたら馬鹿らしくなるわ」
「ミャーさんいっぱい考えてたもんね」
「参考までにどのような策を?」
「言わないわよ。この状況で」
「そうですか」
「折角だし賭けでもしない?」
「ホノカが二人を説得出来るかどうかでいいのかしら?」
「うん。勿論トキハは出来る方に賭けるよ」
「ならば私は失敗する方に賭けましょう」
「アイシャさん案外ノリ良いね。
これもホノカちゃんの影響?」
「もろに受けているわね」
「不本意です」
「否定はしないんだね……。まあいいや。もう言わないよ。
それでミャーさんは? どっちに賭ける?」
「失敗するわ」
「これまた意外な答えだね。
どうしてそう思ったの?」
「教授とやらが何か狙っているみたいよ」
「この状況で何が出来るの?
盟主は寝返り、将軍は手も足も出ない。
教授の立場からしたら絶望的だと思うけど」
「さあどうかしら。何があるのかはわからないわ。何も無いかもしれない。けれど少なくとも、あれは諦めた者の顔じゃないわね。彼は絶対的な力の差を見せつけられても絶望していないの。ただ、同時に復讐者の顔にも見えないけれど」
「そこんとこどうなの? アイシャさん」
「私が語るべき事ではありません。
我が主は責任を果たすと仰せになりました。
全てをあのお方に任せるとします」
「失敗する方に賭けたのに?」
「私は主が嫌いです」
「え? そんな理由?」
「いけませんか?」
「いや別に……アイシャさんって意外と面白い人だね」
「そうですか」
「……なんだかなぁ」




