06-57.虚心坦懐
「ローちゃんはさ」
「うん? なぁ~に~?」
「私に対して思う所は無いの?」
「え~? 何の話~?」
「親から植え付けられた好意に身を委ねるのは不快じゃないの? 好意を示してもまともに相手もしてくれない私に苛立ちは感じないの? 閉じ込めてるくせにって、理不尽に対する反感は持たないの?」
「ぷっ」
「ちょっと」
こっちは真面目に聞いてるってのに。
笑うこと無いじゃん。
「あはは♪ おっかしぃなもう♪」
腹まで抱えて笑い始めたし。
「ありがとう。ホノカ♪
そんな風に気にしてくれて嬉しいよ♪ ふふ♪」
さようで。
「勿論不満はあるよ。ホノカは何時になったら私を信じてくれるんだろうって。私は自分で言うのもあれだけど、特別に心が強いわけでもないからね。好きな人からあからさまに嫌疑の視線を向けられ続けていれば傷つきもするんだよ」
「それは……ごめん……」
「ううん。現状は正しく理解しているよ。ホノカは必要以上に優しいくらいだよ。だから責めるつもりは無い。そんな事してもホノカは振り向いてくれないもん。私はホノカが望む形で応えるだけだ」
私が望むから子供っぽく振る舞っていると?
「つまり本当は家事も出来ると?
もう私何もしなくても良いんだね?」
「それは違うんじゃないかなぁ。ホノカが億劫だからもうやりたくないって言うなら頑張るけど」
「私の気持ちに関わらず頑張りなさい。
何時までも子供扱いなんて出来ないよ」
「は~い」
別に私だって不快なわけじゃない。面倒に思ってるわけでも多分無い。なんなら少し楽しんでいるくらいだ。昔を思い出すから。私は誰かのお世話が好きなんだと思う。
ニナとレンとザインが居たあの頃の思い出は何時までも色褪せる事が無い。私は未だに心を囚われ続けているのかもしれない。正真正銘自分の家族だって出来たのに。地獄から抜け出したばかりの私にはそれだけ鮮烈だったのだ。本当に幸せだったのだ。決して今の私が劣っているとは思わないけれど。
ともかく、好きでなければ続くはずもない。他の誰かならともかく、ローちゃんの世話なんてって思う気持ちがないわけじゃないんだから。
でも、今はどうだろう。
へーちゃんにはああ言われたけど元々大して気にしていたわけじゃない。へーちゃんの大切な子達を奪ったローちゃんは別のローちゃんだ。あの子はもうとっくにこの世界から消え去っている。私がこの手で粉々に打ち砕いたんだから。
いや違う。そもそもあのローちゃんですら、本当にへーちゃんを苦しめたクロノスの分身とは別の存在だったはずだ。
きっと遥か昔の大戦時にへーちゃんによってこの世界から追い出されたクロノスの分体は、本体に一度統合されているはずなのだ。
クロノスの分体は少なくとも三度この世界に現れている。その全てが別の個体と考えても間違いじゃないはずだ。二番目のローちゃんには悪いことをしたのかもしれない。禄に話も聞かず、一方的に攻撃を始めたのだから。
もし最初に話し合っていたら、ユスラ達だって犠牲にならずに済んだかもしれない。あれは私達の浅慮だったのかも。意味もなく追い詰めすぎてしまったのかも。このローちゃんと同じように、あのローちゃんだって……。
「ダメだよ。ホノカ。
そんな風に考えたら」
「心を読むのは禁止って言ったでしょ」
「読まなくてもわかるよ。ホノカは顔に出ちゃうもん」
「そう……」
「前の私がホノカ達にとって敵だったのは事実だよ。私はその前提があったから今回はこういう形で産み出されたんだもん。悪意が無いのは今の私だけ。前の私は明確な害意を持っていた。だからホノカ達に滅ぼされた。ただそれだけの事だよ」
「……そうかな? 私は違うと思うけど」
「本人が言っているのに?」
「本人じゃないでしょ。今のローちゃんは」
「変わらないよ。私はあれを元に産み出されたんだから」
「それはそうなんだろうけどさ。たぶん前のローちゃんは何も知らなかっただけなんだよ。親から押し付けられた記憶と指示に忠実だっただけ。その意味を理解する事は出来なかったの。その時間が無かったの。私達が振り払ったから」
害意を持ったのはそれからだ。私達が追い詰めたらからしかたなくだ。順序が逆なんだ。あのローちゃんもきっと無垢な存在だったのだろう。
「だから私に優しくしてくれるの?」
「うん。たぶんそうだよ」
「そこは肯定してほしく無かったなぁ」
「でも避けては通れないでしょ?」
「つまり歩み寄ってくれる気になったんだね」
「そうだよ。一緒にクロノスを打ち倒す仲間だもん。
仲良くしようね。ローちゃん」
「よろこんで♪」
本当に嬉しそうに私の腕の中に(勝手に)潜り込むローちゃん。ヴィーとソーカもローちゃんを囲むように引っ付いてきた。本来ローちゃん一人用だから四人で寝るには狭いベットだけど、これだけくっついていればどうにか収まるものだね。
「でも何か違うのかも。
前のローちゃんは皆が警戒してたし」
このローちゃんは人気者だ。アイちゃんも、ヴィーも、ソーカも、皆がすぐに心を開いたのだ。私が鈍くて気が付かないだけで、性質自体がまったくの別物なのかもしれない。
「ふふ♪ だからそう言ってるじゃん♪」
ローちゃんが私を気遣って言っているだけでなく、本当に前回のローちゃんは心根からして違ったのかもしれない。今となっては知る由も無い事だ。少なくとも私が納得出来る形では。
「大丈夫よ。ホノカ。
この子はきっと大丈夫」
「そうだよ。ホノカちゃん。
何となくだけど。私もそう思う」
ヴィーとソーカがそう言うなら否はない。二人は私の一部だ。二人の言う事ならどんな事でも受け入れよう。
『わざわざ言い訳が必要なのかしら?』
しゃらっぷ。へーちゃん。
「まあじゃあ、改めてよろしく。
近い内に外出許可も出してあげるから。
もう少しだけ良い子にしていてね」
「うん! ママ!」
「そっちで良いの?」
「ホノカが望むなら!」
やっぱりまだまだ成長が必要なようだ。
何時までも閉じ込めているのはよくないのだろう。
だからこれも仕方のない事だ。そういう事にしておこう。




