06-48.再会
「久しぶりだね! ホノカ!」
世界の外に生み出したアイちゃん製の異界で待っていると、想定通りに待ち人が姿を現した。
「近寄らないで。"ローちゃん"」
「ふふ♪ 良いよ。もう一度ホノカのものになってあげる。
だから信じて。私はホノカとへーちゃんの敵じゃない」
本当にすんなりと契約が結ばれてしまった。
ローちゃんは以前より深く強く、私と繋がった。
「どういうつもり?」
「今言ったじゃん。
これが信じてもらうのには手っ取り早いでしょ?」
どうだか。
結局消した筈の記憶も取り戻してるみたいだし。
ああでも。なんか少しわかってきた。
眼の前にいるローちゃんが完全に私の支配下に加わった影響だろう。
「そう。そういう事なのね。
本体は最初からずっと外に居たんだね」
「うん。正解」
前回、そして今回も。私達の前に現れたローちゃんは本来のローちゃんを構成する要素のほんの一部だけだったのだ。
前回のローちゃんは間違いなく私が消滅させたのだろう。いや、その残滓は本体に帰り着いたのだろうけど。そうして何があったのかを伝えた筈だ。
「まさか本当にへーちゃんの母親だったの?」
「そうだよ。最初からそう言ってるでしょ」
「目的は何?」
「娘に会いに来たんだよ」
「わざわざ記憶を弄って嘘をついた理由は?」
「仕方がなかったんだ。簡略化の弊害さ。
君達の世界は私には窮屈すぎるんだ。
小さく小さく纏める必要があった。
辻褄合わせの為に色々歪んでしまっただけなんだ」
たしかに。ローちゃんの欠片を通して伝わってくる。ローちゃんの本体は途方もない存在だ。きっと逆立ちしたって勝てやしない。格が違いすぎる。これが原初神や最高神と呼ばれる存在なのだろうか。理不尽だ。こんなのあんまりだ。やろうと思えば私達の世界ごと握りつぶせそうだ。
「クロノスってそんなに有名な神様だっけ?」
「これでもかつては幾つもの世界を統べた存在だよ?
バカ息子に全て奪われちゃったけど」
「なに? 復讐でもしたいの?
その為にへーちゃんに会いに来たの?」
「おっと。気付かれちゃったか。
実はそういう話なんだよ。だから仲直りしよう。
私には君達が必要なんだ」
これも本当かどうか。今目の前にいるローちゃんは本体とは比べ物にならない矮小な存在だ。そこに詰め込めている情報量もたかが知れている。本体の目論見を全て共有しているとは限らない。
そもそもその思考が私のような人間基準のものと同じとも思えない。きっと乖離があるはずだ。致命的な隔たりがあるはずだ。だから言葉通りに受け取ってはいけない。私はまだまだ生まれたばかりのちっぽけな見習い神なのだから。
「誰に復讐したいの?」
「ゼウス。聞いた事くらいあるでしょ?」
あるに決まってる。
誰だって知っているんじゃないだろうか。
それくらい私やトキハにとっては有名な神様だ。
「復讐なんて無理に決まってるじゃん。
相手が悪すぎるよ。本物の最高神じゃん」
「そうだよ。だからへーちゃんとその世界を頼りたいのさ。
残念ながら今の私じゃ手も足も出ないんだ」
「焼け石に水でしょ」
「そうでもないよ。へーちゃんは私の娘だもの。
本来の力を取り戻せば十分な戦力になるよ」
「そもそも付き合うわけ無いじゃん」
「だからチャンスを頂戴。私を仲間に入れて。先ずは話をしよう。千年でも。一万年でも。気の済むまで付き合うから。その間に失われたへーちゃんの力も取り戻してあげるから」
「必要ないよ。へーちゃんはもう引退したんだもん」
「そんな事が許されると本気で思ってるの?」
「関係ないよ。表向きがどうだって。へーちゃんは私達に世界の守護者を任せてくれたの。だから私達は何より一番に世界を守るの。ただそれだけの話だよ。他の神様の思惑なんてどうでもいいの」
「そう……」
「でも話はしてあげる。ここで大人しくしてる限りは。
また会いに来てあげる」
「せめて中に入れてくれない? ここは退屈すぎるよ。私がいくら末端の端末だからって、人間と同じような精神は備わってるんだよ? その内寂しすぎて泣いちゃうよ?」
「ダメ。この異界を出る事は認めない。
出たらそこまで。もう二度と歩み寄る事はありえないよ」
「ならせめて毎日会いに来てよ。
あと、どうせならライブも見せてほしいな」
「仲良くなれたらね。私もそう願ってるよ。
トキハにも謝ってもらわないとだし」
「トキハ? ああ。そうだね。本体にも伝えておくよ。
もう送り込むのはやめるようにって」
「あの男からも手を引きなさい。同様の手駒も全部だよ。
少しはローちゃん自身も忍び込ませてるんでしょ。
次見つけたらこの約定も打ち切るから」
「ごめん。流石にここからじゃ干渉できないよ。
けど安心して。すぐに消えるやつだから。
本当にごく僅かにしか送り込めなかったからね」
「そう。じゃあまたね。ローちゃん」
「うん。待ってるよ。ホノカ」




