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01-25.突入

 ミアちゃんは日が暮れて、王都の門が閉ざされても帰ってこなかった。

いくら何でも遅すぎる。

フィオちゃんの言う通り、手間取っているだけかもしれない。

けれど、万が一もある。


 既にフィオちゃんの事がバレていて、商会の連中に捕まってしまったのかもしれない。

それ以外の何らかのトラブルに巻き込まれてしまったのかもしれない。


 私は我慢できずに、ミアちゃんを探しに行く事にした。

フィオちゃんは私を止めたが、私に譲る気がないとわかると、同行を希望した。


 本当なら、このまま森の中に隠れていて貰う方が安全だとは思うけれど、フィオちゃんの必死の説得もあり、最後には同行を許可したのだった。


 今は問答している時間も惜しいし、私よりフィオちゃんの方が王都内には精通しているはずだ。

案内役がいれば助かるのは間違いない。


 私はフィオちゃんをおぶって【隠密】スキルを使用する。

続けて、【加速】、【脚力強化】、【身体強化】、【加護】、【障壁】、のスキルを使用し、王都に侵入するための準備を整える。



「ホノカ様、何をされているのです?

 なんだか随分と物騒な事を考えていませんか?」


「しっかり掴まって口を閉じていて。

 今から王都内に飛び込むわ」


「え?飛び込!きゃあ!」


 私は少し離れた位置に見える王都に向けて走り出した。

スキルによって目一杯上乗せされた脚力で、一瞬で王都の側まで辿り着いた。

そのまま、大きく地面を蹴って空に舞い上がる。

私達の体は軽々と王都の城壁を飛び越えた。


 そのままスキルで空中に壁を作って足場にしながら、開けた場所に着地する。

どうやら、ここは廃教会の庭のようだ。

周囲には人の気配が無い。

適当に降りてしまったけど、都合の良い場所に降りれてよかった。

隠密スキルを使っているとはいえ、気付かれないとも限らない。

フィオちゃんまで隠せているのかもわからないし。


 あれ?フィオちゃんぐったりしてる?

どうやら気を失ってしまったようだ。

少し無茶をしすぎたかもしれない。

一応障壁と加護で守ったので、体に異常は無いはずだけど。

念の為、治癒魔法をかけておこう。


 それにしてもどうやってミアちゃんを探そうかしら。

探知で探ってみたけれど、流石にこう人が多いと特定個人を探すのは難しい。

それに、流石に王都全域を探知するのは不可能だ。

ある程度は当たりをつけて近づかなければならない。



「フィオちゃん、フィオちゃん。

 起きて。フィオちゃん。

 役に立つって言うから連れてきたのよ。

 起きてってば、フィオちゃん!」


「むぐっ、は!

 ここは!?

 天国!?

 私死んじゃった!?」


「生きてるよ。

 少し飛んだだけだよ。

 ほら、シャキッとして。

 すぐにミアちゃん探すよ」


「ホノカ様?

 うわ~ん!ホノカ様ぁ!

 こわかったよぉ~!」


「ごめんね、少し乱暴すぎたね。

 大丈夫だから落ち着いて。

 今はフィオちゃんを慰めてる場合じゃないんだよ」


「ひどい……」


「案内してくれるんでしょ?

 ミアちゃんは何処にいると思う?」


「うう……

 本当にミア様の事しか眼中にないですね……

 ならば、すぐに再会させてあげましょう。

 きっと私の事を見直してくれるはずです」


「いいから、早く動くよ」


「はい……

 えっと、ここは?

 廃教会?でも人がいる様子はない。

 なら、スラムじゃないようですね。

 えっと、城があっちだから……」


 少し考え込むフィオちゃん。

どうやら本当に王都内に詳しいのかもしれない。

引きこもりのお勉強ばかりという、ミアちゃんの推測は間違っていたのかもしれない



「こちらです、ホノカ様」


 結局すぐに動き出したフィオちゃん。

私はフィオちゃんに手を引かれて歩き出す。


 フィオちゃんは大して悩みもせずに、ズンズンと歩いていく。

先程の取り乱しようが嘘みたいにしっかりとした足取りだ。

たまに少しだけ立ち止まる事もあったが、何やら一瞬考えると直ぐに歩くのを再開した。

どうやら、【直感】を使っているようだ。


 私にはそんな使い方は出来ない。

あくまでも戦っている時に相手の隠し玉があるかもな~程度に気付けるとか、そんな効果でしかなかった。

決して人探しに使えるようなものではなかったはずだ。


 暫く歩き回って、辿り着いたのは一軒の鍛冶工房だった。

なんでこんな所に?

私の戸惑いを余所に、フィオちゃんは躊躇いもなく扉を開いた。



「こんな時間に何の用じゃ。

 悪いが、明日にでも出直してくれんかのう」


 出迎えたのは、赤毛の少女?だった。

フィオちゃんより背が低そうだ。

なのに、まるでお爺さんのような喋り方だ



「ここです」


 フィオちゃんは動じる事も無く、そう呟いた。

つまり、ミアちゃんはこの建物の中にいるのだろう。



「突然すみません。

 私は冒険者ミアの仲間です」


「だからなんじゃ」


「ホノカが来たと伝えて下さいませんか?」


「何の話じゃ。

 わしは知らんぞ」


「大丈夫よ、ベル。

 私の恋人よ」


「ミアちゃん!」


 話が聞こえたのか、裏からミアちゃんが現れた。

どうやら、この店で匿われていたようだ。

やっぱりトラブルに巻き込まれていたらしい。


 私は我慢できずにミアちゃんに駆け寄って抱きしめる。

ミアちゃんがどさくさ紛れに妙な紹介をしていた気もするけど、今はそれどころじゃない。



「まったく。

 もう少し良い子で待っていられなかったのかしら。

 フィオまで連れて何をやっているのよ」


「だってぇ~」


「なんなんじゃ。まったく。

 とにかく奥で話せ。

 こんな所で騒いだら不味いんじゃろうが」


「ありがとう。

 悪いけれど、この子達の事も頼める?」


「今晩だけじゃ。

 明日には出ていくのじゃぞ」


「ええ。恩に着るわ」

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