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06-31.百戦錬磨

 トキハの話を一通り聞き終えた。

本当に大したことは知らないようだ。


 敵の姿形もわからないらしい。

私達は仮にその敵を「外神」として扱う事にした。


 外神は、トキハの魂をあの私も前世で過ごした世界から引き剥がすために、トキハを想う者達を皆殺しにしたようだ。


 へーちゃんがいつの頃か言っていた。

異世界転生させられるのは、他者に想われていない孤独な存在に限るのだと。原初神や主神等の至上の存在に頼るならともかく、へーちゃんの力ではそれが限界だったと。


 きっと外神も同じなのだろう。

だからトキハの残された家族を始末する事で、トキハの魂をあの世界に縛り付ける杭から解き放ったのだ。


 しかもあろうことか、それをわざわざトキハに伝えてきたのだ。悪趣味にも程がある。外神はそれを苦労話風に笑っていたとトキハは言っていた。そこまで苦労したんだから精々役立ってよねと、一方的に告げてきたそうだ。


 きっとローちゃんの同類なのだろう。

人間を数ある資源の一つとしか考えていないのだ。



 どうしてそんな奴らが好き勝手しているのだろう。


 お上は何をやっているのだろうか。

原初神やら主神やらが本当にいるなら、その力で排除してくれないだろうか。世界の外からちょっかいかけられたら、私達では対応しきれないのに。本当に困ったものだ。


 トキハの肉体はこの世界のものではない。

つまり、魂だけを奪い取った上で敢えて元の肉体と同じものを再構築したのだ。やはり私の時とは完全に異なる経緯で転生させられている。なんだかへーちゃんの召喚システムを中身も理解せずにガワだけ適当に真似てみたって感じだ。


 敵は間違いなくこの世界の内情を知っている。

しかも、数十年は前に撤去したはずの召喚システムの事まで詳細にだ。それに加え、この世界の外で再構築されたであろうトキハの肉体を持ち込めたという事は、私達ですら知らない抜け道まで知っているはずだ。こちらが気付かぬ内にバックドアでも仕掛けられていたのかもしれない。




 まさか、ローちゃんが生きていたのだろうか。

私はあの時確実に滅ぼしたものと思っていた。


 実際、今ではローちゃんとのパスも感じられない。一度存在丸ごと粉微塵になった事で契約は破棄されたのだろう。


 しかし、あれでも真の死とはならなかったのかもしれない。今もローちゃんは何処かにいるのかもしれない。再生して、私達への復讐の機会を伺っているのかもしれない。


 トキハはその為の尖兵だったのだろうか。

けれどトキハに何か具体的な指示をしていたわけではないようだ。精々役に立てと。それしか言わなかったらしい。


 私達のフリをしてトキハの憎しみを私達に向けさせるでもなく、ただ転生させただけだなのだ。



 意味がわからない。

外神にはどんな目的があったのだろう。


 ローちゃんと断定できるなら、私達への復讐と再侵攻だと当たりをつけられる。


 けれどそれ以外の存在が犯人なら、私達には皆目検討もつかない。


 外神はトキハに何をさせたいのだろう。

何れ外神本人も姿を現すのだろうか。トキハを利用して、この世界に侵入経路でも作るつもりだろうか。



 何にせよ、トキハの事は見張っておくしかない。

暫く手元に置いて、この子自身の身体の事も調べねば。



「トキハおねーちゃん」


「な~に~? ホノカちゃ~ん?」


 すっかりデレデレだ。

ふふん♪ 私は中々の美少女だからね♪ 無理もないよね♪



「ホノカね。おねーちゃんの事もっと知りたいの。

 ホノカと一緒に居てくれる?」


 さあ! この上目遣いに堕ちるがいい!



「きゃふ! うんうん! 一緒にいぅー!!」


 興奮し過ぎて私をソファに押し倒すトキハ。

展開早いわね。まあ良いけど。私も少し味見してみよう。

トキハも中々の美少女さんだ。ぐふふ♪



「「やめなさい」」


 ミアちゃんとアイちゃんが止めに入った。残念。



「貴方達も混ざりたいのね!

 ふふふ! 遂に来たのね! トキハの時代!

 これぞ異世界ハーレム! なんて素晴らしい!

 良いよ! 皆トキハのものにしてあげる!」


「バカな子ね。あなたの為に止めているのよ。

 今下敷きにしているそれこそが、私達のハーレムの主よ。

 あなた、このままじゃ一員に加えられちゃうわよ」


「そうです。ホノカを甘く見ないで下さい。

 今はそんななりをしていますが、実際は数千の時を生きた神の一人です。あなた程度の小娘なんて手のひらで転がして終わりですよ。しかも好き放題弄んだあげく、本命は別にいるのなんて平気で言う人ですよ。悪いことは言いません。今ならまだ引き返せるかもしれません。お考え直しを」


 ひどい……。

そこまで言わなくても……事実だけど……。


 というか、アイちゃんだいぶ半信半疑ね。

そりゃそうだよね。私を押し倒して無事でいられた子なんていないんだし。


 もう逃げられないゾ♪



「ホノカちゃん? 今の本当?」


「なんのこと~?

 ホノカわかんな~い」


「しょっかぁ~♪」


 チョロい。



「ホノカ。真面目にやりなさい」


「は~い」


 仕方ないミアちゃんの言葉だ。

私はミアちゃんには弱いのだ。

私が神でミアちゃんが使徒だけど。

こればかりは仕方がないのだ。



「ごめんね、トキハ。続きはまた今度ね」


 変身を解いて元の二十ちょいの姿に戻り、トキハの下から脱出しながら、トキハを膝に座らせて後ろから抱きしめた。



「なっ!? えっ!? なっ!?」


 トキハの余裕が初めて崩れた。

それだけ私の変化は衝撃的だったようだ。



「騙すつもりは無かったんだよ? けどごめんね。本当の私はこっちなの。ホノカちゃんがホノカさんになっちゃったけど、仲良くしてくれると嬉しいな♪」


「……うん」


 ありゃりゃ?

何ぞこの反応? 照れてる?

大人なお姉さんの魅力にメロメロ?


 いやこれ、茶化して良い系じゃなさそうだ。


 私はトキハをひっくり返してこちらを向かせ、正面から抱きしめて頭を撫でた。



「ホノカが珍しく母性的な感情を優先したわね」


 さすがミアちゃんよくわかってらっしゃる。

うん? 珍しく?



「私達にも必要なのかもしれません。子育て経験」


 アイちゃん前から欲しがってたもんね。

結局、未だに私達の子供は産んでないけど。


 流石にトキハは大きすぎるけど、まあ私達からしたら大差ないから良いのかな?



「これはどっちがチョロいのかしら」


「両方じゃないですか」


 別に私は絆されてないよ?

ちょっと甘やかしてみるかと思っただけで。


 何せまだ油断するわけにはいかないからね。

トキハを通して敵もこっちを見ているのかもだし。

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