06-30.別神
「たっのも~♪」
え? なに?
「へぇ~♪ ふ~ん♪
良いねぇ♪ 可愛いね♪ あなたが神様?
それなら宗旨替えしちゃおっかなぁ~♪」
突然見知らぬ少女が屋敷に乗り込んできた。
私の隠蔽や防衛の結界を素通りして直接転移してきたのだ。
こんな事はありえない。
当然、許可した者以外の転移は封じている。
直接入ってくるなど不可能だ。本来であれば。
「お姉ちゃん何者?」
アイドル活動を始めてから私は常時十三歳くらいの姿だ。
何せミアちゃんにも受けが良いからね。
まあとにかく、この少女の方が年上っぽい。見た目は。
幾つかな? 十五歳くらいはいってそうだけど。
ミアちゃんの普段の姿と同じくらいかな。
いや、問題はそこじゃない。
この子、もろ日本人って感じの容姿なのだ。
少しばかり陽気な方向に偏ってるけど間違いない。
「十季葉だよ♪
名字は別に良いよね♪
神様のお名前も教えて♪」
「穂香」
「ホノカちゃぁん♪ かっぅわいぃ~♪」
どういう事?
異世界転生はもう起きないはずだよ?
『へーちゃん』
『見てるわ。任せなさい。
こっちでも調べておくわ』
『おねがい』
そっちはへーちゃんに任せよう。
私とアイちゃんはこの子を逃さないようにしなきゃ。
「トキハおねーちゃんは何でこの世界に?」
「えへへ~♪ おねーちゃんだってぇ~♪
やった♪ 妹出来ちゃった♪」
気安く私を抱きしめて頬ずりまで始めたトキハ。
私は飛び出しかけたアイちゃんを静止して、トキハの好きなようにさせてみる。
「おねーちゃん」
「なぁ~にぃ~?」
「おねーちゃんは何者なの?」
「う~ん? 本当に知らないの?
ホノカちゃんがトキハを呼んだんじゃないの?」
「ううん。私知らない」
「え~! そうなの~?
ほんとに~?」
「うん。召喚出来ないようにしたの。
ずっと昔、トキハおねーちゃんが生まれるよりもっと前。
私が神様になった時に。私も転生者だったから」
「そっかぁ~。やっぱりかぁ~」
「やっぱり?」
「うん。何となくね。違ったから。
トキハをこの世界に送り込んだ奴と」
「え? 誰?」
「さあ?
トキハはホノカちゃんがそうだと思ってたんだもん」
「どゆこと?」
「ホノカちゃん。お願いがあるの」
「なに?」
「トキハの復讐を手伝って。
あいつはトキハの家族まで手にかけた。
この世界に送り込むために。トキハを奪うために。
だから決めたんだ。復讐してやるって。
ホノカちゃんが仲間じゃないなら出来るでしょ?」
「……話を聞かせて。詳しく知りたいの」
「今言ったのが全てだよ。
少なくともトキハが知っている事はね」
「ならおねーちゃんはどうやって私達のところに?」
「すっごいおばあちゃんが飛ばしてくれたの」
「おばあちゃん? もしかして盟主の事?」
「あは♪ 今の内緒ね♪
一応トキハ、あの人達の仲間だから♪」
プネヴマに?
トキハが憎む神とは別神だったから、私達への復讐はやめたって事でいいの?
盟主、アイシャはどうやって私達の下にトキハを?
この屋敷の正確な場所は知らないはずだ。
いや、正確には知っていたのだけど、それを特定できないはずだった。
どうやって認識阻害を掻い潜ったのだろう。
私達への直接的な敵意を抱いていなかったトキハだったからくぐり抜けたのか?
まさか、アイシャ本人が転移のスキルを持ってるの?
特定の人物を追跡するスキルと組み合わせて、なんとなくの方角と距離感だけで転移させたとか?
そんな成立するかもわからない賭けにこんな少女を使うのだろうか。
まさかアイシャが実は私達の事を憎んでいなかったとか?
ハッキリと私達の位置が特定出来ていたの?
とにかくトキハから聞ける事だけでも聞いてみよう。
またローちゃんのような外神の侵略を受けているのかもしれない。早急に対応が必要だ。
「トキハおねーちゃん。こっちに来て。
向こうに座ってゆっくりお話しよ。
私達、いっぱい聞きたい事があるの」
「うん♪ 良いよ♪」
取り敢えず本当に敵意は無いようだ。
トキハは当然だけどスキルは持っていないようだ。
スキルはこの世界の肉体じゃないと宿らないから当然だ。
けど、何かしらの力は持っているのかも。あの世界由来でもなくて、トキハをこの世界に送り込んだ存在によってなにか植え付けられているかも。そっちも調べてみなくちゃ。
まったく。今度はいったい誰なのかしら。
ローちゃんみたいな存在がまた侵略してくるなんて冗談じゃない。これ以上この世界を荒らされて堪るもんか!




