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06-18.選択肢

「どうしてこうなるのよ……」


 アイちゃんの異空間に場所を移して全ての話が終わった後、黙って話を聞いていたサリアは顔を覆って俯いた。



「本当にあの方は……」


「うん。間違いないよ」


「……」


 サリアは静かに泣き出した。

私達に怒りを向ける事もなく。



「アイちゃん、サリアって」


「既に解けています」


 そっか……。


 サリアは受け止めきれていないのだろう。

ただそれでも親代わりだった盟主を喪った事だけは理解したようだ。とは言えそれすらも実感するのは難しかったのだろう。何せ盟主は遺体すら残さず消え去ってしまったのだ。もしあの無惨な遺体を目にしていたら、間違いなくサリアは私達に怒りを向けていただろう。


 いや、今はただ感情が追いついていないだけか。

きっとすぐに怒りを向けてくるはずだ。

ミアちゃんの言った通り、私は受け止めねばならない。


 サリアが復讐を望むなら私は……。



「師匠のお姉さん?は、どうしてそんな事をしたの?」


 ルフィナがへーちゃんに向かって問いかけた。



「力を奪い取る為です。

 失った力を少しでも補う為です。

 そして、ボクとホノカに配り直す為です」


 へーちゃんの代わりにアイちゃんが答える。

へーちゃんは相変わらずだ。



「人間一人の力が役に立つのですか?」


 今度はフィオちゃんが問いかけた。



「複合スキル、いえ、原初スキルを持つ者は特別です。

 神に迫る力と肉体を持っているのです」


「それはもう知っているわ。

 あと二つ集める必要があると言っていたわね。

 その人達はどうするつもり?」


 ミアちゃんが険しい声音で問い詰める。

アイちゃんは言いづらそうに答えた。



「……命まで奪う必要はありません。

 へーちゃんにももうその気は無いようです」


「だったら!!

 何の為に殺したのよ!?」


 サリアが声を荒げた。

盟主の命が奪われた事に何の意味も無かったのだと聞かされたのだ。当然の反応だ。



「あの者がホノカを害そうとしたからです。

 ホノカの心を支配し、手駒にしようと目論んだからです。

 サリア、あなたにしたのと同じように」


「知らないわよ!

 私はそんな事されてないわ!!」


「自覚するのは難しいでしょう。

 長年に渡って処置を施された者ならば尚の事」


「知らないってば!!」


「サリア。誰かを責める前に少し考えてみなさい。

 ホノカはあいつに話し合いを申し出た筈でしょ。あなたはそれを実現する為の遣いだった。けれど、あいつは武威を持って答えたの。話し合いの席に大勢で乗り込んできた。敵意を持って乗り込んできた以上、経緯はどうあれ命を奪われるのも覚悟の上だった筈でしょう?

 それともまさか、サリアはホノカに黙って害されていれば良かったとでも言うつもり?」


 まさかミアちゃんがそんな事を言うとは。

サリアの復讐心には正当性が無いとでも言いたいのか、それともこれがミアちゃんなりの向き合い方なのか、又はサリアだけは特別で自分の言葉を曲げても敵対を回避したいのか。



「受けて立つと言ったのはホノカさんでしょ!」


「そうよ。ホノカはそう言ったのよ。

 勘違いしないで。黙って命を差し出すとは言ってないわ。

 それは力が及ばなかった場合の話でしょ。

 ホノカは最初から命がけで乗り込むと言っていたの。

 その覚悟があったのよ。きっとあの男もそうよ。

 あなたとは違ってね」


「それは……」


「まだわからない?

 これはもう武力抗争よ。神への復讐と言う話ならともかく、盟主個人の復讐をしたいと言うのなら、私達も黙ってやられるつもりはないわ」


 そこは私も理解していなかった。

ミアちゃんはその二つを切り分けて考えていたのか。

私達が当事者なのか、それともへーちゃんを庇うだけの第三者なのか。それに応じて私達の立場は大きく違うのだ。



「……」


 サリアは黙ってミアちゃんを睨みつけた。



「それで?

 あなたはどうするの?

 仲間達の下に帰ると言うのならそれでも良いわよ?

 今聞いた話を伝えると良いわ。

 あなたの手で戦争を始めるためにね」


「この!!」


「ミア姉!!」


「!?」


 ルフィナの突然の大声に驚いたサリアが出かけた言葉を止める。



「言い過ぎだよ!

 何考えてるの!?」


「おかしな事を言ったかしら?」


「わざわざ挑発する事ないでしょ!

 自分一人で悪者にでもなるつもりなの!?」


「別にそんなつもりはないわ。

 ただハッキリさせておく必要があるだけよ。

 敵を内側に抱えておくわけにはいかないもの」


「止めてよ!

 サリアさんはもう家族なんでしょ!」


「ならどうしたら良いの?

 これは謝って済む事では無いのよ?

 私達はサリアの家族を奪ったの。どんな理由があろうともその事実は変わらないわ。サリアが組織の盟主ではなく、自身の父の仇を討つと言うのなら、私達は受けて立たなくちゃいけないの。サリアがどんな選択をしようとも私達に止める権利は無いのよ。だからハッキリさせましょう。サリアはどうしたいのか。自分の力で私達に復讐するのか、仲間達に委ねるのか、全てから目を逸らし仲間達に背を向けて、私達の家族で居続けるのか。これはサリア自身が選ばなければならないの」


「だからって……そんな無理矢理じゃなくても……」


「必要な事なのよ。

 私達は圧倒的に優位な状況なのだもの。サリア自身に復讐を成し遂げるだけの力は無いの。これは温情よ。サリアの為を想って言っているのよ。サリアが状況に流されず、自分の意思で選べるようにしてあげる必要があるの。それが私に出来るせめてもの償いなの。サリアをこんな状況に追い込んでしまったのは私達なんだもの」


「怒りに任せたって正しい選択にはならないよ」


「そうね。けれど無気力に流されるだけでは、どう転んでも後悔にしか繋がらないわ」


「酷いわ……。

 わざわざ目の前でそんな話しなくても良いじゃない……」


「私だってサリアと殺し合いなんてしたくないもの。

 汚い手だって使うわよ」


「今更帰れるわけがないじゃない……。

 盟主が戻らず、私は姿を消してしまった。

 私も貴方達のグルだと思われるに決まってるわ」


「それが答えで良いのね?」


「……本当にズルいわ。ミアちゃんは」


「サリアは少し休んでいなさい。

 ルフィナ。側に居てあげて」


「うん。任せて」

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