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06-11.作戦開始

「神を引きずり出す方法。

 ホノカさんが知りたいのはそれでしょ?」


 良かった。気付いてくれた。

これで話しが進められそうだ。



「うん。教えてくれる?」


「それは……」


 やっぱり渋るのね。



「教えてくれなくても別に良いよ。

 盟主の件もね。リコリスにお願いするから大丈夫。そしたら私一人で乗り込んでみるね。話し合いが出来ずに戦争になっても一人で制圧してみるよ。それで負けちゃったらさっき言った計画通り。アイちゃんがギリギリで助けてくれるか、へーちゃんの所に行くか。そんなところかな」


「なんでそこまでするのよ!必要ないでしょ!

 ホノカさんが戦う理由なんて無いはずでしょ!?」


 サリアは甘いなぁ。

どうしてこんなに平和な思考なんだろう。

あの惨状を直接目にしたはずなのに。

実は実戦経験とかも殆ど無いのかな?

チートなスキル持ちな上に、非戦闘員って話だし。



「そうでもないよ

 もうこの場所知られちゃってるし。いつ乗り込んでこないとも限らないじゃん。ここにはそんなに強くない子だっているんだし、大勢で来られたら困るもの」


 ルフィナとフィオちゃんはついてこれまい。

先にどこか避難してもらうべきだったかもしれない。

私もサリアの事言えないな。



「それにアイちゃんも戻ってこれるかわからないんだもん。ずっと待ち続けるのは嫌なの。早く帰ってきて欲しい。帰ってこれないなら迎えに行く。その為の口実として丁度良いかなって」


 未だ沈黙しているアイちゃんかへーちゃんがアクションを起こしてくれるとしたら、相応に深刻な状況に限られそうだ。そうでなきゃ、とっくに呼びかけに答えてくれているはずだ。



「心配なら私が戻るわ!

 ホノカさんはここに居て!

 私を信じて待っていて!

 必ずこの場所は守るから!」


「具体的には?どうやって?

 盟主はサリアの頼みなら思い留まってくれるの?

 私達の事は教えてしまったのでしょう?

 神と縁のある者だと伝えてしまったのでしょう?

 その相手を追跡したユスラとサリアは音沙汰なく、一晩行方を晦ましてしまったのでしょう?

 もしサリアの頼みを聞いてくれる程親密な間柄なら、既に救出の為の準備を整えているんじゃないの?

 私達は今すぐ動かなくちゃいけないんじゃないの?」


「それは!……わからないけど……。

 ともかく大した事は伝えてないわ。

 ここにいるのは旧友と、そして私達と同じ存在だと。

 そう伝えただけなのよ」


「敵だと思ってたんじゃなかったの?

 あのボースハイトの惨劇を私達の事も込みで伝えてきたんじゃないの?」


「言えなかったのよ……。

 友達が敵だなんて信じたくはなかったの……」


「本当に?

 私に殺気まで向けてきたのに?」


「それは……ごめんなさい。

 あの時は冷静じゃなかったわ」


「そう言えばまだそこも教えてもらってないよね。

 サリアは私を見て何に気付いたの?

 躊躇いもなく殺気を向けてきたんだから、何かあったんでしょ?」


「魔力の残滓よ。

 ホノカさんの持つ魔力と、あの場に残っていた魔力の性質はよく似ているの」


「どういう事?」


「私のスキル、【魔眼】には魔力を見通す力があるわ。

 少しだけなら、直接干渉する事すら出来るのよ」


 なるほど。

それでリコリスの風牢や私の結界を抜け出したのか。

一部を解れさせるような使い方も出来るのだろう。


 魔力の性質が似ているのは、私がへーちゃんと近いからだろう。【探究者】は複合スキルだ。複合スキルを持つ者は、神に近い肉体を持っているとも言えるのだ。なら魔力の性質が似ていたっておかしくはない。


 あれ?

これ、私も【魔眼】って使えるんじゃない?

【探求者】の中に含まれていてもおかしくはなさそうだ。

能力の性質的には。


 後でちょっと練習してみよう。

禄に戦闘経験もなさそうなサリアですら結界の類を破れるんだから、魔術の知識を持ち、スキルの効果を最大限に引き出せる私なら、相手の魔術自体を見ただけで打ち消せたっておかしくはない。


 いやでも、【魔眼】ってもしかして複合スキルか?

スキルの命名法則を考えるなら、普通は【魔力視】とか【魔力操作】とかって感じになりそうだし。


 魔力操作の機能の一部として魔力視があるとかってわけでもないようだ。


 ああ、魔力視と魔力操作は何か別の機能の一部なのか。

そう考えれば、魔眼が複合スキルじゃなくてもおかしくない。のか?


 でも、魔眼だと複合スキルと言うにも半端な気がする。


 あとは複合スキル自体もピンキリって可能性はあるけど。

私の探究者が最上位だとしたら、魔眼は複合スキルの中でも最下位なのかもしれない。段々と細分化していったって経緯を考えれば、有り得ない話じゃない。



「私の疑いは晴れたの?

 それはどうして?」


「魔力量よ。

 ホノカさんの魔力量はあの時から一切変わっていないわ。

 つまりあの時ホノカさんは魔力を消費していなかったの。

 なら、あの惨劇を起こしたなんて事はありえないわ」


 そっかサリアは私の特異性を知らないのよね。

これはもう少し黙っていましょう。

サリアならどうせそのうち気付くだろうし。

むしろ気付いていない事も変ではあるけど。

魔眼スキルはパッシブ系じゃなくてアクティブ系なのね。




 ともかくだ。別に魔力量が強さと直結するわけではないけれど、組織には私を超える魔力持ちも何人かいるのではなかろうか。ここに来た時に私の魔力量が減っていない事を見抜いて、ボースハイトを滅ぼしたのが私ではないと気付いたわけだ。同時に私の最大魔力量を知って、敵ではないと認識したわけだ。



「サリアはもしかしたら私を過小評価しすぎてるかも」


「どういう事かしら?」


「複合スキルって知ってる?」


「……いえ、知らないわ」


 まあそうだよね。

サリアは私のギルド登録時にスキルを全て見たはずなのだ。

つまり探究者の事だって知っている。

けど、そこに言及した事は一度も無かった。

特段、強い興味は引かれなかったのだろう。



「サリアの魔眼みたいに名前から具体的な効果がわからないやつ。そういうの持ってる人、他に居ない?」


「……いるわ」


「教えてくれる?」


「……誰が持っているかは言わないわ」


「それで良いよ。

 仲間を裏切らせたいわけじゃないから。

 サリアに説明してあげたいだけ。

 それで身近な人のスキルの方がわかりやすいかなって」


「【先導者】よ」


 それ絶対持ってるの盟主でしょ!


 というか、思ってたよりやっかいなやつだった。

敵を過小評価していたのは私もだった。

どうりでサリアが自信満々なわけだ。

敵は私と同格のスキル持ちだ。



「他にもいる?」


「いないわ。

 それだけよ」


「なら先ずは一つ私の手の内も明かしてあげる。

 私の持つスキル、【探究者】も同じ複合スキルだよ。

 それも、多分同格のね」


「え?」


「複合スキルは言葉通り、幾つものスキルが含まれてるの。

 その先導者を持つ人はきっととても強いんだろうね。

 サリアが私達では絶対に勝てないって言い切れちゃう程。

 でも安心して。私も同じだから」


「……本当に?」


「うん。

 今話した事は真実だよ。

 複合スキルの事だって、神様から直接聞いた話だもん」


 だいぶ端折って伝えちゃったけどね。

これ以上は流石にまだ言えない。特に複合スキル持ちは神と近い肉体を持ってるとかって話は要らぬ火種になりかねないし。



「さあ、サリア。どうする?

 私を信じて盟主と合わせてくれる?

 それとも私一人で乗り込む方が良い?

 下手すると盟主以外は巻き添えで消し飛んじゃうかもよ?

 今なら平和的な道も探せるかもよ?

 サリアが間に入った方がその可能性は高いんじゃない?」


「……わかった。話し合いの場を設けるわ」


 サリアは渋々頷いた。


 これで取り敢えず平和的に進められるかな?

サリアの音信不通とここの位置バレの件もあるし、やっぱ一度は話付けとかないとマズいだろうからね。


 それに、神を引きずり出す方法とやらも上手く聞き出せると良いのだけど。

個人的にはこっちの方が本命かも。



「ねえ、ホノ姉。

 まさかその話がしたくて転生云々言い出したの?

 サリアさんを追い詰める為だけに?」


「うん。まあね。

 別に私だって死にたいわけじゃないもん」


「何がミアちゃん程頭良くないよ。

 悪どい手口だけなら私なんて足元にも及ばないわよ」


「えへへ~」


「「褒めてない!!」」


「何にせよ回りくどすぎますね。

 結局要求は話し合いなのでしょう?

 わざわざ自分の命を盾に脅す必要あったんです?

 最初からスキルの話をしてればスムーズだったのでは?」


「それは結果論でしょ。

 サリアから情報を引き出したからその話で納得できるとわかったんだもん。サリアが最初から話し合いの提案に乗ってくれれば早かったのに」


「まあ良いわ。

 ホノカの懸念は尤もでもあるもの。

 とにかく、一度サリアを帰しましょう。

 話し合いの開始は出来る限り引き伸ばしなさい。

 アイが戻ってから始めるのがベストよ」


「うん。そうだね。

 という事で、サリア、あとリコリス。

 二人でちょっと行ってきてくれる?

 リコリスは万が一の時は私に念話を送って。

 全員で助けに乗り込むから」


「心得たわ!」


 リコリスはサリアの言葉も待たずに転移した。

盟主の居場所、実は既に探り当てていたのかしら?



 乗り込むのは全員とか言っちゃったけど、実際には私、ミアちゃん、メレクくらいだ。ヴィーとソーカ、それにダフネとキアラもか。私とミアちゃんの装備品みたいなものだし。


 スーちゃんには残ってもらおう。

万が一の時、ルフィナとフィオちゃんを逃がしてもらわなきゃだ。いや、いっそ今すぐアメーリア邸にでも預けるべきかもしれない。ここだって何時襲われるかわからないんだし。



「スーちゃんは皆を連れて避難しててくれる?

 フィオちゃん。リリさんの所で匿って貰って。

 そっちはフィオちゃん、ルフィナ、アルマ、テラフね」


「は~い~」


 スーちゃんも今挙げたメンバーと共に姿を消した。

ルフィナが何か言いたそうだったけど、こっちも問答無用だった。スーちゃんにしては迅速だ。結構マズい状況なのは察してくれていたようだ。



「あ、しまった。

 アネモネの事聞いてなかった」


 声かけて良いのかな?

クロノスの件が解決してないから今は止めておくべきかな?



「必要ないわ。

 万が一の時の為に、外に協力者を残しておくのも重要よ」


 なるほど。それもそうか。

私が念話で助けを求めれば何時でもきてくれるしね。



「あ、忘れてた。

 メレクは人間とは戦えないんだよね?

 どうする?メレクもお留守番してる?」


 そうすると転移出来る子がいなくなっちゃうけど。

リコリスと合流するか、やっぱアネモネ呼び出すかかな?



「同行致します」


「大丈夫なの?」


「戦わずとも出来る事はあります」


「なら何かあったらすぐ逃げてね。

 例え自分一人だけだでも。これは命令だよ。

 最優先は自分の命だよ。

 生きて、私達を救う方法を考えて」


「仰せのままに。我が主」


「それじゃあ、ちょっと皆で遅延結界に入ろうか。

 ヴィーとメレク、それにソーカも手伝って。

 私じゃ大したサイズには出来ないから。

 少し修行したいの。十分なスペースが欲しいんだ」


「「「はい!」」」


 魔眼の習得が出来ると良いのだけど。

それとダフネの力も改めて把握しておこう。

きっと相手にとっては想定外の戦力になるはずだ。

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