01-22.留守番
私達は王都近くの森まで辿り着いた。
ここからは、ミアちゃんが一人で向かう事になる。
ミアちゃんが教えてくれたとおり、王都の門の前には長蛇の列が出来ていた。
本当に出入りに一日はかかりそうだ。
商人と徒歩の旅人くらい、列を分けてくれればいいのに。
「ミアちゃん、早く帰ってきてね」
「わかったから手を離しなさいな。
ホノカこそしっかり頼むわよ。
フィオは油断ならないわ」
「それはどっちの意味で?」
「そう返せるのなら及第点よ」
「どういう意味ですか?
お二人は私をどう思っているんですか?」
「余計な事をするなと言っているのよ。
ホノカに何かあったら絶対に許さないわ。
アメーリア商会と組んで、地の果てだろうと追い詰めてやるから」
「何もしませんよ!
本当になんだと思ってるんですか!?」
「ミアちゃん……」
「そんなに別れ難いのなら、ホノカも付いてきなさいよ。
フィオの事は森にでも隠しておきましょう。
一晩くらい放っておいても大丈夫よ」
「この辺りは魔物が少ないから?」
「何本気で検討してるんですか!?」
「まあ、普通の獣くらいはいるでしょうけど、森の奥まで行かなければ大丈夫よ。
最悪、フィオが美味しくいただかれるだけよ。
別にそれならそれでも良いじゃない」
「嫌ですよ!
絶対痛いやつです!」
「うむむ。いや、でも」
「何で悩んでるんですか……
私の命と、ミア様と一晩一緒に居られるかって等価値なんですか?」
「それくらい悩まないで即決なさいな。
ホノカは私を何より優先してしかるべきなのよ」
「そうだよね」
「だよねじゃありませんよ!
嫌ですよ!見捨てないで下さいよ!守ってくださいよ!」
「あんた図々しいわね」
「フィオちゃん、少しは自分の立場を弁えて。
ミアちゃんにいっぱい迷惑かけてるんだからね」
「ホノカ様まで……
すみません……調子に乗りました……
大人しく獣のお腹に収まってきます……」
「ごめんね、ミアちゃん。
やっぱりバリバリムシャムシャされるのは可哀想だから」
「なんで擬音で表現したんですか……生々しいです……」
「私よりフィオを取るって言うのね」
「そんなわけないじゃない。
私の家族はミアちゃんだけよ」
「なら証明して見せて」
「どうやって?」
「キスしなさい」
「ハグにまからない?」
「ダメよ」
「普通の家族はキスなんてしないでしょ?」
「するでしょ。
いってらっしゃいのキスくらい」
「それは夫婦の話よ。
姉と妹のする事じゃないわ」
「相変わらず家族についての認識がズレているわね」
「ところでどちらが姉なんですか?」
「「私でしょ」」
「ホノカ様、この件では分が悪いです」
「ミアちゃん、行こっか」
「ごめんなさい!
嘘です!間違えました!
ホノカ様にも十分お姉さん感あります!」
「見た目だけは完璧なのよね」
「中身は子供だって言いたいの?」
「そう思われたくないのなら、いい加減手を離されては?
かわりに私のをどうぞ」
「気持ちだけ受け取っておくわ」
「フラれた……」
「本当にそろそろ行くわ。
今日中に王都に入れなくなるもの」
「ミアちゃん!」
私は少しかがんで、ミアちゃんの頬にキスをする。
「いってらっしゃい」
「場所が違う。やり直し」
「そんな真っ赤なお顔でよく言えますね。
口にされたら倒れてしまうのでは?」
「フィオちゃん、お口チャック」
「むぐ」
「フィオにお灸を据えておきなさい」
ミアちゃんはそう言って、こんどこそ歩き去っていった。
耳まで真っ赤にしたまま、少し早足で。
「やっと二人きりになれましたね、ホノカ様」
「え?
本当に何か本性を隠してたの?」
「何の話ですか?」
「まあ、そんなわけないよね。
待ってる間、何をしましょうか。
とりあえずやりたい事は、次に向かう場所を決めるのと、収納スキルの習得ね」
「目的はチョコレート探しでしたよね。
チョコレートの特徴をもっと詳しく教えて下さい」
「えっと、黒とか茶色で、甘くて苦いお菓子で」
「ああ、いえ、そこはもういいです。
既に聞きましたよね。
原材料は?」
「カカオって名前よ」
「他には?」
「えっと……
大きな殻の中に、白い身?みたいなのに包まれた、黒っぽい豆だったかな?」
「どんな環境で育つのですか?」
「う~ん?
熱帯?だったっけ?
ごめん、実は原材料の方ってよくしらないのよ。
実物は見たことが無いの。
チョコレートとして加工された状態で売られていたから」
「なら、先程の説明も伝聞なのですね。
これだけだと少々難しいかもしれませんね。
素直に故郷を目指されては?」
「無理よ。遠すぎるもの。
普通の手段では辿り着けないのよ」
「海の向こうですか?
船なら伝も無くはないですが」
「その伝を頼るわけにはいかないでしょ」
「そうですね。
商会に生存をバラすわけにもいきませんから。
ですが、最寄りの港町に行けば可能性はありますよ。
ホノカ様がこちらに来られたという事は、国交があるのでしょう?」
「ううん。
私がこっちに来たのは半分事故みたいなものだったから。
国交は無いと言い切れるわ」
「難破されたのですか?」
「ごめん、これ以上は聞かないで」
「すみません」
「ううん、こっちこそごめんね。
私の目的に付き合わせてるのに、内緒になんかして」
「誰にでも話したくない事くらいありますから」
「フィオちゃんにも?」
「もちろんです」
あそこまで赤裸々に経歴を明かしておいて、まだ秘密があるのね。
それが妙な問題に繋がったりしないと良いけど。




