06-04.甘い考え
「捕虜にはなったけれど、仲間達を裏切るつもりはないわ。
口を割らせたければ拷問でもする事ね」
降参宣言後でもサリアさんは変わらず、ふてぶてしい態度のままだった。
「しないよ。そんな事。
それよりもっと私達の考えを聞いて欲しい。
それできっとまた怒らせちゃうと思うけど、それでも何も知らないまま争うよりはずっと良いでしょ?」
「ホノカさんは甘いわね」
当事者意識が足りていないのは自覚している。
ボースハイトが滅びた事も、クロノスの生死がわからない事も、事ここに至ったって、自分の関与している事だって実感が湧いてこない。どこか他人事みたいな感覚が抜けきらない。リコリス達の必死な姿を見ても、そしてサリアさん達の思いを知って尚だ。さっき話しをしている最中は少しこみ上げるものもあったけれど、それだって喉元すぎればって感じだ。もしかしたら私の心はどこかおかしいのかもしれない。
こんなんじゃダメだ。
全部悪いのは私なのだ。
アイちゃんは私達に願った。
大戦を回避して欲しいと。
私はリコリスを引き止めた。
ボースハイトに乗り込もうとする大精霊達を私は止めたのだ。私が頑張るからと。もう少しだけ待っていてくれと。
それを皆は信じてくれた。けれど私は何もしなかった。
ああ。本当に最低だ。
全部私のせいなのだ。
そう自覚しようとしなければ、罪悪感を抱く事すら出来はしないのだ。
リコリスが私を責める様子はない。
スーちゃんもだ。私は謝ってすらいないのに。
二人は変わらず私達に協力してくれている。
「リコリス、スーちゃん」
「後になさい!
今はホノカ様のやりたい事をやりなさい!」
リコリスは私の考えなどお見通しのようだ。
スーちゃんも同じだ。優しく微笑みかけてくれた。
「サリアさん。
最初から全部説明させてもらうね。
少し話は長くなるけど、聞いてもらってもいい?」
「私は捕虜よ。
ホノカさんの好きにしたらいいわ」
「うん」
私は最初に自分の事を話した。
ボースハイトに召喚された時から今までの出来事を。
それからアイちゃんの話をする事にした。
「神様は二人いるの」
「それは初耳ね。
良いの?そんな事を話して」
「うん。サリアさんには知ってほしいから。
あの子達がどんな風に頑張ってきたのかを」
アイちゃんが話してくれた事や、普段のアイちゃんの様子を説明した。確かにアイちゃんは傍若無人な所もあるけど、決して話の通じない機械みたいな存在ではないし、人間を必要以上に軽く見ているわけでもない。
アイちゃんが神の在り様を否定する事はないけれど、それはそれとして必要以上にこの世界の住人達を貶めるつもりもないのだ。
「アイちゃんは言ってた。
この世界を守るのはこの世界の住人の役目だって。
神の干渉は、あくまでその手助けに留めるべきだって。
その領分を犯したから大戦は引き起こされたんだって。
アイちゃん達も全部わかってるの。
だから本当はあんな事したくないはずだったの。
それでも決断しなくちゃいけなかったんだと思うの」
私はへーちゃんの信頼を得られなかった。
その為の努力を怠った。
だからへーちゃんは何も言わずに手を下したのだろう。
アイちゃんにすら告げずに、一人で手を汚したのだ。
アイちゃんの気持ちを知ってるから。
私達と変わらず一緒にいられるようにと。
きっとそう考えたに違いない。
もしかしたらへーちゃんは二度と私達に関わらないつもりなのかもしれない。それがせめてもの気遣いだとでも思っているのかもしれない。
「神様は決してわからずやなんかじゃないよ。
だから話をしようよ。もう手を出されちゃった後だとしても、一度だけチャンスをあげて欲しいの。その機会を不意にした私が言えたことじゃないけれど」
もしかしたらサリアさん達なら……。
「私はへーちゃんと話しがしたい。何があったのかちゃんと知りたい。サリアさん。力を貸して。神と争うつもりなら、神の下に辿り着く方法にも心当たりがあるんでしょ?」
「……無理よ。そんな方法は知らないわ」
ダメか……。
「けれど、引きずり出す方法なら話は別よ」
「教えてくれる?」
「ホノカさんがこちら側についてくれるならね」
「それは無理。
へーちゃんも私の家族だもん」
「家族?
何を言っているの?」
「そのままだよ。
アイちゃんは私のお嫁さんだし、へーちゃんはお嫁さんのお姉ちゃんだもん。何れはちゃんと家族に向かえるつもりだよ」
もうキスも沢山したしね。
私は例えへーちゃんが人類の敵になったとしても、へーちゃんの側につくつもりだ。クロノスの件は難しいとは思うけど。
「……はぁ?」
サリアさんが今日一番困惑している。
「ホノ姉、空気読んで」
ルフィナが笑みを浮かべながら怒りを向けてきた。
あれ?そう言えばへーちゃんとの事は言ってなかったっけ?
これやらかした?いや、別にへーちゃんをお嫁さんに加えると明言したわけじゃないから大丈夫?
「もう面倒くさいからサリアも口説き落としたら?
その方が話し早いんじゃない?」
「ミア姉も変な事言わないでよ!
また増えちゃうでしょ!」
「ホノカさん?
これはいったい何の話なの?」
何で咎めるような視線を向けてくるの?
ミアちゃんを蔑ろにしてるとか思われてる?
「我々はホノカ様のハーレムです。
ようこそサリアさん。
歓迎致します」
何故かゴリ押し始めたフィオちゃん。
「ハーレムだって!?
その話あたしもかませったたた」
立ち上がりかけたユスラが、バシーラに耳を引っ張られて席に座りなおした。
「ホノカちゃん?
いったいどういう事?
私がお嫁さんなんだよね?」
私の首に纏わりつくようにソーカが抱きついてきた。
すぐにでも首が締められそうな体勢だ。
しかもなんか、ソーカの触れている場所に寒気を感じる。
レイスの力が漏れ出てるのかな?取り殺されちゃうやつ?
というか、そっか。
ソーカにも何の説明もしてなかったんだっけ。
色々慌ただしかったからね……。
でもほら、私とミアちゃんだけ指輪してるしさ。
改めて説明しなくても、ソーカだって気付いてるかなって。
多分、ルフィナが増えただのは言ってたはずだし……。
「ソーカ、説明してあげるからちょっと席を外しましょう」
私の胸の中から飛び出してきたヴィーが、ソーカの手を引いて別室に移動した。ぐっじょぶヴィー!
「さっきの子、見ないと思ったらそんな所に仕込んでたのね。ホノカさん。先に聞きたい事が出来たわ」
興味を持って頂けて幸いです。
ですからどうか、お怒りは……。
と言うか何で怒ってるの?
「ホノカさんは私をバカにしているの?
嫁だのハーレムだのよく言い出せたわね?
真面目に話をしたかったんじゃなかったの?」
「私達は家族なの。
その家族を奪おうとしているなら、どんなにサリアさん達が正しくても戦うよって。そう言いたいだけ。馬鹿になんてしてないよ」
「……本気みたいね。
そうなのね。やっぱりホノカさんは心からそっち側なのね。人間ではなく、化け物達と心を通わせてしまったのね」
「そんな言い方!!」
「勘違いしているわサリア。
そもそも化け物具合で言ったら、一番の化け物はホノカ自身よ」
「な!?」
ミアちゃん!?
だから何なの!?
「そうだよ。サリアさん。
ホノ姉は大精霊様も魔王様も力尽くで従えちゃったの」
「ちょ!?」
ルフィナ!?
違うから!人聞きの悪いこと言わないで!
「神であるアイちゃん様ですら骨抜きなのです。
心して下さいませ、サリアさん。
我らのホノカ様から逃げられるなどと思わぬことです」
「いったい何する気よ!?」
「何もしないよ!?」
「くっ!辱められるくらいならいっそ!」
あれ?
なんか顔赤くない?
勝手に盛り上がってる?妄想広がってる?
まさかミアちゃんと同じくドMなの?
実は満更でもないの?




